B.ONE参入の『1500名』の壁に苦戦するも『当確』へ

2026年からの『B.革新』に伴い、B.PREMIERに全26クラブが参入することが決まった。今年は2部にあたるB.ONEのライセンス取得に向けた審査が行われる。

青森ワッツが初年度にB.ONEに参入する上でカギとなるのは、昨シーズンまたは今シーズンの平均入場者数が『1500名』に達するという条件だった。昨シーズンの平均入場者数が1373人で、今シーズンも前半戦が低調だったために先行きが危ぶまれていたが、ここに来て状況が大きく好転している。1月16日の福井ブローウィンズ戦の1641名を皮切りに、毎試合で1500人どころか2000人超えを何度も記録し、3月9日には2640名と過去最多を記録。序盤の出遅れを猛烈な勢いで巻き返し、残るホームゲーム5試合で4000人強を集めれば平均1500名をクリアという『当確』まで来た。

1年前にはクラブの経営破綻、それに伴う消滅の危機にあった青森ワッツは、メルコグループが新オーナー企業になったことで窮地を脱し、今回はB.ONE参入にも目処が立った。青森ワッツの運営会社、青森スポーツクリエイションの代表取締役社長を務める渡邊裕介は、メルコグループの中核企業であるバッファローの出身で、バスケ界とは無縁だった。新社長として白羽の矢が立った理由を「部長以上でバスケ経験があるヤツはいるか、となった時に社内に私しかいませんでした」と渡邊代表は苦笑混じりで話す。

製造業からバスケ界へ。全く異なる業界への転身だが、渡邊代表にとっては苦ではなかったそうだ。「青森ワッツを支援しているのはメルコホールディングスではなく、そのもう一つ上にあるメルコグループという資産管理会社です。いろいろな企業を傘下に置く会社なので、私も青森ワッツに行くからと言って驚きはありませんでした」

その渡邊は代表就任以来、「プロバスケチームをどうこうだけではなく、一企業の事業再編をやってきました」と語る。収支、事業のバランスを見て、悪い部分を探し、その原因を調査して対策を組み立てていく。渡邊によれば、無駄なお金を使っているわけではなかったが、売上を作る仕組みが少し足りていなかったそうだ。

「プロスポーツはスポーツだけでなく、商売でもあるべきとマインドセット自体を変えなければいけません」

デッチ

『B.ONEで勝てるチーム』の先にB.PREMIERを見据える

青森ワッツの変化について渡邊は「当たり前のことをちゃんとやってきた。それだけです」と説明する。「スポーツ中心で考えれば『勝てばお客さんは来てくれる』と考えますが、そうではありません。一番は応援していただけるブースターやスポンサー企業、行政の方々をどう増やしていけるかが大切です。事実現在の来場者数の増加はスポンサー企業、ブースター、行政の皆様のご協力の賜物です」

「そこに独自のテクニックは特にありません。アウェーの試合に赴き、ライバルチームの代表の方々に教えを請いました。B2でウチが一番下という気持ちで、他のクラブが当たり前にやっていることを我々もやる。特別なことをする必要はありませんでした」

平均入場者数1500人をクリアすれば、ひとまず2026年からのB.ONE参入が決まる。その先、青森ワッツはどこを目指していくのだろうか。「最終的にはすごく先にB.PREMIERがありますが、まずはB.ONEで地域にちゃんと愛されるチーム、ちゃんと勝てるチームを作るところです」と渡邊代表は答える。

「行政との連携もようやく能動的に取り組み始めたところで、まだ地域に貢献できていないので、青森と言えば青森ワッツというのを確立して、皆さんに楽しんでもらうコンテンツになりたい。数年でできることだとは思っていませんが、時間をかけてしっかり作っていけば、将来的にB.PREMIERを目指せると思います。来場者数という点で一つ結果が出始めているので、手応えは感じています」

「それに、青森ワッツって面白いチームだと思うんですよね」と渡邊代表は笑う。「何が起きるか分からないところに私自身も魅力を感じています。莫大なお金をかけているわけじゃないのに個性や魅力あふれる選手、チームで強いチームにいきなり勝つダークホース的なところがありアメージングなチームで面白いし、クイッキー・デッチというキャラクターは全国でも密かに人気になっています。試合会場も都会のアリーナのようなすごい演出はできていませんが、地方のクラブとしては面白い会場の演出もできてきていますので、是非お越しください」

「勝つことで恩返しして、同じ幸せを分かち合いたい」

寺嶋恭之介は青森県弘前市出身で、3×3と5人制でキャリアを重ねながらも、常に地元の青森に軸足を置いてプレーしてきた。その彼はキャプテンとして、チームを支える地元選手として「今の環境は本当にありがたい」と語る。

「苦しかった昨シーズンを乗り越えたメンバーが僕を含め4人いて、みんな同じことを考えていると思いますが、チームがなくなる寸前のところから今も青森ワッツが存在していること自体に大きな意味があります。新しいスタートを切って集客や演出、チアやフロントスタッフの動きを見ても、上を目指す気持ちがすごく伝わってきます」

観客が入っていなくても、演出がなくても、コート上で勝利を目指してバスケをプレーすることに変わりはない。だが、華やかな舞台に立てばプロとして心が震える。「特に僕の1年目は観客席がガラガラで、シュートを決めるとボールがネットを通過する音が聞こえました。それが今シーズンは開幕前の東北カップからそのすごさは感じていました。これまで我慢してきたものをブースターの皆さんが一気に開放したような、そんな思いを感じました」

3月9日のバンビシャス奈良戦には2640名の観客が集まり、その光景には寺嶋も胸を打たれたと言う。「観客席を見回してもすべて埋まっている光景はすごかったですし、その全員がコートに注目している熱気が、今までの青森にはなかったものでした。この熱気を大切にしたい、心からそう思いました」

青森ワッツのブースターを寺嶋は『優しくて厳しい』と表現する。「負けても『次いこう!』と励ましてくれるのですが、勝っても『こんなバスケはワッツらしくない』と厳しい意見をもらうこともあります。それだけ気持ちを出して本気で応援してくれるのはうれしいです。厳しい目線から見ても喜んでもらえるバスケができて勝てた時の喜びは2倍になります」

寺嶋が青森ワッツに来て以来、最高の雰囲気が今は出来上がっている。そのことに最大限の感謝をしつつ、この勢いにブレーキをかけることなくもっと盛り上げたい、というのが彼の気持ちだ。

「苦しい時期の青森ワッツを知る者として、僕は今の光景を守りたいと思っています。それとともに、ブースターの皆さんも含めてこの空間をいろんな人が作り上げてくれているので、勝つことで恩返しして、同じ幸せを分かち合いたいです」