
筑波大ではインカレ3連覇など黄金時代を築いた吉田健司に代わり、今年から仲澤翔大がヘッドコーチを務める。現在28歳の仲澤ヘッドコーチは、一般入試で筑波大に入学して4年生でAチームに昇格、副キャプテンを務めた。卒業後は6年間に渡り、アシスタントコーチとして吉田の下で経験を積み、恩師の後を継いでヘッドコーチに就任した。現在はインカレ優勝を目標に掲げ、伝統を守りながらも新たな挑戦に取り組んでいる。
「吉田先生にはバスケを一から教えていただいた」
──まずは仲澤コーチの経歴を教えてください。
出身は神奈川県藤沢市です。バスケは中学から始めて、一般で筑波大に入りました。大学では吉田先生に指導していただき、下級生の頃はBチームでしたが、4年生になってAチームに定着し、副キャプテンをやっていました。同級生は、キャプテンで去年まで豊田合成でプレーをしていた波多智也や愛媛オレンジバイキングスでプレイしてる玉木祥護、youtubeで大活躍してる青木太一がいます。
卒業後は大学院に進学したので、筑波大に在学しながらアシスタントコーチという形でチームに残りました。僕の1つ下の代に福岡大学附属大濠出身の牧隼利と増田啓介、宇都宮ブレックスでプレーをしている村岸航、JR秋田に所属している森下魁たちがいて、とても強かったので、1年目にインカレ優勝を経験し、そこから去年までの6年間アシスタントコーチをしました。現在は筑波大学体育系特任助教として勤務しながら男子部ヘッドコーチを務めています。
──6年間で学んだことはありますか?
吉田先生のチーム指導で一番すごいところは、緻密な戦術、戦略の立案から、試合の流れを読む洞察眼や分析力です。それをロジックだけではなくて、選手の気持ちに訴えるような情熱的な指導も勉強になりました。選手として4年、コーチとして6年の10年間で吉田先生にはバスケを一から教えていただいたと思っています。
もともと日本代表のヘッドコーチを務め、東芝でも2冠を取って、とても実績がある方ですが、僕を含めて学生は、「ケンジさん、ケンジさん」とすごくフランクに接していますし、その距離感やメリハリは学生を教えるならではなのかと思います。
──ヘッドコーチに就任する経緯を教えてください。
吉田先生が大学を定年される2024年が最後のインカレになるという話になり、次のヘッドコーチとしてお話をいただきました。簡単なことではないですし、歴史と伝統のあるチーム、かつ人生の恩師でもある吉田先生の後なので、もちろん悩むところもありましたが、僕自身、母校にとても愛着がありますし、その筑波大にかかわることができるのはすごくありがたいことだと思いました。
もともと高校の体育の教員になりたかったんです。僕の人生に影響を与えてくれた高校時代の恩師のようになりたいと思って、教員免許の取れる筑波大にきたので、そこも悩みました。ただ、大学の教員をしながらレベルの高いバスケットができることは、すごくやりがいのあることだと考えて、「全力で頑張ります」と回答しました。
──始まったばかりですが、ヘッドコーチとしての日々はいかがですか?
毎日練習に来ていたのは同じなのに、てんやわんやで「あれっ?」と思ってます。吉田先生がいとも簡単にやっていたように見えた練習が、実は簡単ではなかったと実感していますし、昨日うまくいった練習を、今日やっても全然うまくいかないんです。試行錯誤の日々ですが、周りのスタッフにすごく支えられています。毎日練習前後にコーチのミーティングをしたり、定例でスタッフのミーティングをして、アシスタントコーチや学生スタッフがそれぞれの仕事をしやすい環境を整えることが、僕の役割だと思っています。彼らの中で完結するのであれば、僕は大枠だけ持っていて、のびのびやってもらうというスタイルを目指しています。毎日ディスカッションして、方向性ややりたいことを共有しながらやれているのは楽しいですし、ワクワクに振り切って、不安はもう考えないようにしてるので、すごく充実しています。

「今後を生き抜く力にも、セカンドキャリアに繋がる力にもなる」
──大学バスケの魅力、大学のあるべき姿をどう考えていますか?
今までの一流選手は有名な高校から有名な大学に行って4年間活躍して、プロやトップリーグの舞台に行くというレールがありましたが、今は大学だけでなく高校から海外に行く子もいるし、高校からBリーグに行く子もいて進路も多岐にわたっています。それは、バスケットが発展した証拠で決してネガティブに捉えるべきじゃないのかなと思っています。
ただ、学生には「バスケットだけをしたいのならプロに行けばいい」と言っています。それでも大学に来たということは、学業や運動部という組織を運営することだったり、いろんなことをやらなきゃいけない。それが今後を生き抜く力にも、セカンドキャリアに繋がる力にもなるんだと常々伝えています。もちろんプロ選手としてずっと活躍していくことがベストだと思いますが、怪我だったり、何があるかわからない世界なので、僕は推薦で入ってきた学生に対して「Bリーグを目指すんだったら必ず教員免許を取りなさい」と言っています。
──筑波大は推薦入学でない選手も多く、他の大学とは違うメリットだと思います。
筑波大は一般入試の学生が多く、Aチーム、Bチーム約50人の中で推薦の子は12人ぐらいです。残りの35人以上は一般入試で入ってきた学生で、体育専門学群だけでなく、いろいろな学部の学生がいます。去年、スタートで出ていた選手には医学群医学類(いわゆる医学部)の選手もいます。
僕自身がその恩恵を授かった学生でした。横須賀地区という1番小さい地区の選抜に選ばれたのが、僕の最高キャリアで県大会も1回戦で負けました。でも、大学バスケを諦めたくなかったので、筑波に行けばバスケットができると思って受験しました。Bチームからのスタートでしたが、その経験があったからこそ今があるので一般生に対する思い入れは強いです。一般で入ってきた学生がスタートで出たり、試合を繋いでくれることがあるのは僕らの色だと思いますし、チームのスタンダードは一般生が決めると心から思っています。

「一生懸命で明るくて誠実なチームを目指しています」
──これからの新筑波大、どんなチームを作っていきたいと考えていますか?
今までの先輩方が築かれた筑波大の文化は継承していかなきゃいけないと思っています。吉田先生が最後の試合の後に言われた『筑波らしさ』というのは、誠実に物事に取り組み、バスケットはもちろん、学業や日々の生活にも全力で向き合うということだと理解しているので、そこは何があってもブレないようにしたいです。
指導に関しては、吉田先生と同じ振る舞い方をして、同じようなコーチングをして、例え同じ戦術を使ったとしても、うまくいかないだろうと思っています。僕は学生と年齢が近いので、選手やスタッフにも主語を常に『WE』にしたいと話しています。ヘッドコーチなのでもちろん横並びではないけれど、みんなで肩組んで、目標に向かって頑張ろうよっていうスタイルをすごく心がけています。
僕らしさに染める気は全くないですが、ヘッドコーチの色っていうのは選手にも自然と伝わ流ものだと思っています。僕自身、元気で、情熱的で、明るく全力で、真面目にやるというところはコーチとして絶対にブレたくない部分なので、そういう泥臭いチームになってくれたら嬉しいです。
──今シーズンの目標を教えてください。
チームのビジョンとして、『常に団結してベストを尽くすチーム』『常にメンバーがやる気に満ち溢れるチーム』『常に誠実でみんなに愛されるチーム』を掲げて、この3つの柱を軸に、どんな時でも一生懸命で明るくて誠実なチームを目指しています。授業が多くて疲れたとか、疲労が溜まってるから全力出せないというのは、コートに持ち込まず、どんな時でも全力でベストを尽くすという過程があっての結果ですし、それはどちらもやらなきゃダメだと常々言ってるので、僕はかなり口うるさいコーチだと思います。
筑波大は、学生が全部の目標を立てるのが伝統なので、彼らが決めた「インカレで優勝して日本一を取る」ことがチームの目標です。
──仲澤ヘッドコーチとしての個人的な目標は?
今年は『不易流行』を意識しています。『不易流行』とは時代の流れやトレンドはある中で、本質の部分は変えないけれど、変化を恐れないことだと理解しています。今までの文化、伝統は継承しつつ、学生の価値観だったり、僕らの価値観もそうですが、時代とともに変わっていくであろう部分は、しっかりと見極めながらアップデートしていく必要があると思っています。
──最後に、全国の筑波大を応援されてる方にメッセージをお願いします。
吉田先生が今まで築かれてきた常勝軍団としての文化や伝統を継承することが、まず僕に課せられた使命だと思っています。
そこは絶対ブレずにやっていく中で、選手とスタッフがのびのびとする環境を整備して、常に一生懸命取り組むチームを目指す結果としてインカレ優勝がついてくると思うので、不安もありますが、今は新たなチャレンジにすごくワクワクしています。常に学生と手を取り合いながら一生懸命頑張りたいなと思っていますので応援のほどよろしくお願いいたします。