ルカ・ドンチッチ

「決断を下すのが私の仕事。重大さは理解している」

現地2月1日、ルカ・ドンチッチとアンソニー・デイビスを軸とする『世紀のトレード』はNBAに大きな衝撃を与えた。最大の謎はマブスがまだ25歳のスーパースターを手放す動機だ。一夜明けた現地2日、敵地でのキャバリアーズ戦を前にマブスのニコ・ハリソンGMはヘッドコーチのジェイソン・キッドとともに会見を行い、これを説明した。

ハリソンGMはドンチッチとマキシ・クレーバーのこれまでの貢献に感謝した上で、「キッドと私にはマブスで築きたいカルチャーがあり、新たに獲得した選手はまさにそれを体現する」と語った。

「我々はディフェンスがリーグを制すると考え、リーグ屈指の万能ディフェンダーであるデイビスを獲得した。オールスターであると同時にオールディフェンシブチームにも選ばれる選手が他にいるなら教えてほしい。マックス・クリスティは若くて運動能力に優れている。ディフェンスがリーグを制する、その文化に溶け込むことのできる2人だ。今、そして将来に渡って勝利つ体制を作るトレードなんだ」

肝心のドンチッチ放出の動機には契約問題があった。「ルカの契約状況を見るに、いずれ彼はどこでプレーするかを自分で決めるようになる。スーパーマックス契約の対象となり、1年後には契約から離脱できるという波乱の夏になる可能性を回避できたと思う」

2018年デビューのドンチッチは2021年の夏に5年2億1500万ドル(約320億円)の契約延長にサインしており、今シーズン終了後に2026年から始まる5年最大3億4500万ドル(約520億円)のスーパーマックス契約を結べるようになる。これまでのNBAであれば、スムーズに契約延長に至っていただろうが、サラリーキャップのルールが極めて厳しくなった今は事情が異なる。マブスは若いにもかかわらずケガの多いドンチッチに超大型契約を与えることに疑問を抱いた。そうなればドンチッチとの関係に亀裂が生まれ、来シーズンの1年を通してチームは混乱に陥り、最後にはドンチッチに去られる可能性がある。問題が起きることを見越して先手を打った、というのがハリソンGMの説明だ。

ドンチッチやその代理人からトレード要求があったわけではなく、交渉の過程でドンチッチと会話をすることもなかった。トレードが決まった後に連絡を取ろうとしたが彼は電話に出ず、「多分、今は話したくないのだろう」と彼は言う。

レイカーズとの交渉は周囲の予想に反して「3週間から4週間続いていた」そうだ。「ロブ・ペリンカGMとコーヒーを飲みながら『こんなアイデアはどう?』といったフランクな会話から始まった。交渉は私たちだけの秘密で、情報が漏れなかったのは彼に感謝しなければ」と彼は言う。

ハリソンGMが指揮官キッドと共有するマブスのビジョンは明確で、それに沿った動きである今回のトレードにも自信を持っている。しかし、寝耳に水のマブスファンはパニックに陥っており、これを受け入れるのは簡単ではない。ダラスから来たメディアも気持ちは同じで、「これは絶対に失敗できないトレードであり、決断に迷いがなかった理由を知りたい」との質問が飛んだ。

これに対して「決断を下すのが私の仕事だ」と彼は答えた。「私は怖いもの知らずではない。自分たちのやっていることの重大さを理解し、研究と考察を重ねた上で判断している。何もしないのが一番簡単だし、皆さんの同意も得られやすいだろうが、私は今回の決断が正しいと信じている。実際に正しいかどうかはいずれ明らかになるよ」

ハリソンGMは今回の交渉を進めるにあたって、指揮官キッドに何の相談もしなかった。2人のビジョンは一致しており、それに沿っている以上は相談をする必要がなかった、というのが理由だ。そしてキッドも今回のトレードを支持している。

「私がマブスに来た時、将来のスター選手、いやメガスターとなる選手をコーチできることに興奮したものさ。その機会に恵まれて光栄だった。しかし、チームのビジョンやニコが築こうとしているものを私は支持しているし、新たに獲得した選手たちが優勝に貢献できると心から信じている」とキッドは言う。

ただし、この日に行われたキャブズ戦は第1クォーターで19-50と大差を付けられ、101-144の大敗を喫した。これで26勝24敗。ここからマブスは新たなチームとして再スタートを切る。