文=鈴木健一郎 写真=古後登志夫

ウチの選手がBリーグに行くのは、やっぱりうれしい

インカレ3連覇。筑波大はいまや大学バスケ界に君臨する強豪チームとなった。今年1月のオールジャパン、第3回戦でアルバルク東京と対戦。試合時間残り1分半で10点差と食い下がったが、最後は74-86の力負け。試合終了後に涙を流して悔しがる選手の姿からは、プロチームを相手にも一歩も引かず、本気で勝ちに来ていたことが分かった。

3連覇を果たしたチームはあの敗戦が最後のゲームになった。新たなチームの立ち上げは2月だったが、A代表、ユニバ、U-19と各カテゴリーの日本代表に選手が招集されたため、残った選手で練習するしかなかった。馬場雄大や杉浦佑成といった新4年生の『代表組』が戻り、新1年生が合流した今、ようやくメンバーが出揃った。

「シーズンインまで1カ月、その中でどこまでやれるかですね」と吉田健司監督は言う。「先週、富山市で合宿をして、春にやる戦術を伝えました。2年生以上がどこまで対応できるのかを確認して、必要に応じて修正するとか、なしにする部分もあるかもしれない」とチーム作りの難しさを語る。

ただ、代表やBクラブに選手を出すのは強豪校だからこその『光栄な悩み』でもある。「仕方ないですよね。乗り切るしかないです。去年も主力が不在でしたが、結果として選手層が厚くなったという部分もあるので、今年も同じだと考えています」と吉田監督は言う。

キャプテンの生原秀将、満田丈太郎と小原翼と、この春に卒業した代の主力は特別指定選手としてBリーグの門を叩いた。「ウチのチームで結果を出した選手がBリーグに行くというのは、やっぱりうれしいです」と吉田監督。「正直、生原と満田はまだBリーグの壁と言うか、同じポジションのポイントガードとシューティングガードにうまい選手がいてプレータイムをもらえないですけど、そのうち必ず出てくるプレーヤーだと思っています」

その中で、筑波大では必ずしも先発ではなかった小原が、富山グラウジーズで先発に定着し、主力の働きを見せている。「本人もちょっと驚いているようです。ここまで使ってもらえるのかというのと、それに応えられる頑張らないと、という話をしました」

プロに行きたいからこそ、セカンドキャリアを考え筑波に

そもそも筑波は常勝チームだったわけではない。ここに来ての3連覇を成し遂げた理由を尋ねると、吉田監督は「やっぱり環境だと思います。震災で前の体育館が潰れて、新しくなりました」と言う。確かに、これだけきれいな練習場はプロチームにもない。東日本大震災からの復興の象徴とも言うべき体育館を舞台に、筑波大はステップアップを重ねてきた。

「あとは身体作り。コンタクトに強い身体、力強さを重点に置いてきました。それはつまりケガをしない身体です。常に力が出せるような方法をトレーナーと一緒に考えてきました。それが形になってきたと思います」

魔法のようなチーム強化策や戦術があるわけではない。「やっていることは以前と変わりません。やるべき当たり前のことをコツコツやってきた結果です」と吉田監督は強調する。

ただ、『勝てるチーム』になったことでの変化を指揮官は感じている。「人気が上がったのは確かです。ただし『筑波では試合に出れないかも』と他の大学に行ってしまうケースもあるので一概には言えないですし、今の流れがずっと続くかどうかは分かりません」

『Bリーグ効果』もある。「馬場や杉浦もそうですが、セカンドキャリアのことを考えて、教員免許が必要だと考える子が今後増えてくるはずです。プロに行きたいからこそ、その後のことを考えて教員免許を取っておきたい。その中でもレベルの高い筑波で勉強したい、と。筑波大は教員でも第一線で活躍しているOBが多いですから」と、自身も体育専門学群および大学院体育学専攻の准教授である吉田監督は話す。

教員志望で入学する学生も「結局は本人が何をやりたいか」

大学のトップ校である筑波大で活躍し、卒業後はプロ選手として活躍する──。Bリーグの発足により、そんな『未来図』をどの学生も考えるようになる。彼らにアドバイスするのも吉田監督の重要な役割だ。

「これまでは実業団に行って、できればバスケを続けたいと言う堅実な学生が多かったのですが、今はプロ志望が増えています。場合によっては『勘違い』する選手もいます。Bリーグができたことで夢は持てるのですが、『本当にできるのか』と私は考えます。これまでも教員として進路指導をしてきましたが、今まで以上にちゃんと話を聞いて、方向を示してあげる必要性を感じています」

筑波のバスケットボール部の学生は、ほとんどが教員志望で入学してくる。ただ、勉強を進めていく中で、スポーツメーカーやスポーツビジネスなど、方向転換をする生徒も少なくないのだとか。その進路指導も吉田監督の役割となる。「結局は本人が何をやりたいかなんです。大学の授業にもキャリア教育がたくさんあるので、自分がやりたい方向を考えて進みます。そこから相談を受ける形ですね」

大学バスケ界のトップ校になったことで、チームを取り巻く環境は変わりつつある。ただ、それもすべて勝っているからこそ。ライバル校は「打倒筑波」の意気込みで向かってくるが、「受け身になったらウチは負けます」と吉田監督の姿勢はブレない。

「常にチャレンジする、気持ちを外に出してアグレッシブに戦っていくのは変えずにやっていきたい。去年も受け身になったところで2試合負けています。それははっきりしているので。それがあったからインカレも気を抜かずに戦えたんです」

吉田監督の話を聞いていて一番感じたのは「地に足が付いている」ということ。常勝チームになっても、Bリーグがスタートしても、自分のやるべきことにブレがない。筑波大はきっと今年もその強さを存分に見せ付けるだろう。そう思った筑波取材だった。