転機となったアドバイスは「つべこべ言わずにやれ」
現地1月15日、ティンバーウルブズはウォリアーズに1点差で敗れた。第1クォーターで12-34と大量ビハインドを背負ったが、そこから猛烈に巻き返し、残り1分で追い付いたものの、最後はステフィン・カリーのクラッチショットに屈した形。集中しないまま試合に臨んで圧倒されるのはウルブズの悪癖で、指揮官クリス・フィンチは「勝敗は第1クォーターで決まってしまった」と嘆いたが、そこで気持ちを切らすのではなく勝利の可能性を最後まで追い求める姿勢は評価した。
この追い上げを強烈に牽引したのが、6本の3ポイントシュート成功を含む28得点を記録したドンテ・ディビンチェンゾだ。ハードなディフェンスに迷わずシュートを打ち切る姿勢でウルブズの攻守を支えている。
それでも、ディビンチェンゾは開幕からしばらくは苦戦が続いていた。トレードが決まったのはトレーニングキャンプ開始直前で、受け入れるのに苦労した。このトレードはニックスがカール・アンソニー・タウンズを欲しがったのが発端で、ディビンチェンゾはこれに巻き込まれた形。彼が条件に入ったことで交渉がまとまったことから、ウルブズに求められての移籍なのは理解していても、感情を切り替えるのはそう簡単ではない。
ディビンチェンゾは2018年のNBAドラフト1巡目17位でバックスに指名され、3年目に優勝に貢献した半年後にキングスに放出され、ウォリアーズ、ニックスと、どのチームでも結果を残しているにもかかわらず毎年移籍を強いられてきた。
キャリア6年目の昨シーズン、彼は自分がニックスに完璧にフィットしていると感じていた。15.5得点はキャリアハイを大幅に上回る数字で、ビラノバ・トリオの一角であり、マディソン・スクエア・ガーデンを自分のプレーで沸かせるのは快感だった。周囲も彼を評価しており、ようやく腰を落ち着けてプレーに集中できると思った矢先に、ウルブズに放出された。
ディビンチェンゾはコート上の様子を見ていれば分かる通り、気持ちでプレーするタイプ。モヤモヤした感情を抱えたままでは良いパフォーマンスを発揮できない。指揮官フィンチはディビンチェンゾがチームにフィットしていないと見て、ベンチスタートに置いた。ウォリアーズとニックスで先発を務めてきた彼には、これも気が滅入る要因だった。
ディビンチェンゾはしばらく前に、自分の感情をこう語っている。「トレーニングキャンプに向かうはずだった日に、ミネソタ行きの飛行機に乗ることになった。ウルブズは昨シーズンに大躍進していて、何をやっても比較される。そして出会う誰もがタウンズの放出を悲しんでいた。プレーに集中すべきなのは分かっていても難しかった」
HE'S FEELING IT. 👌 pic.twitter.com/Hc2hkv7bTm
— Minnesota Timberwolves (@Timberwolves) January 16, 2025
だが、転機は訪れる。それは意外なところからやって来た。デニス・シュルーダーからの電話だ。シュルーダーはトレードが決まり、ディビンチェンゾにウォリアーズの環境や練習方法を尋ねた。そのやり取りの中で、ディビンチェンゾがウルブズで抱える鬱屈に話題が及ぶと、シュルーダーは「大変だろうけど、つべこべ言わずにやれ」という厳しい言葉を送った。
「デニスは言葉を選ばない。どこにいてもバスケをやることに変わりはないから、ただ自分らしくやれと言われた。そして昨シーズンのことはすべて忘れて、今だけに意識を向けることにした」とディビンチェンゾは語る。
そこからはすべてが好転した。今年に入って8試合で平均15.3得点、3ポイントシュート成功率41.8%と復調し、スタメンに据えられてプレータイムも伸びている。ディビンチェンゾとジュリアス・ランドルが自分らしくプレーして新たな環境に順応するにつれて、ウルブズの調子も上向いてきた。
ウォリアーズ戦では敗れたものの、終盤に展開されたステフィン・カリーとディビンチェンのハイレベルなオフェンス勝負は見応えがあった。やるべきことをやっている、という自信が今のディビンチェンにはある。
ディビンチェンは言う。「僕はリーグ最高の選手たちとプレーする経験に恵まれた。ジェイレン・ブランソンにステフ・カリー、ヤニス・アデトクンボにドリュー・ホリデー。バスケにすべてを注ぐと同時にバスケを楽しんでいる彼らから、僕はエネルギーと自信を与えてもらった。僕もチームメートにエネルギーを与えたい。お互いにそうすることで、チームは正しい方向に進み始めていると思う。それをもっと積み重ねないといけない」
流転のキャリアを強いられてはいるが、ディビンチェンゾは逆境を乗り越え、成長を続けている。今の彼は天性のシューティング能力だけでなく、タフな戦いもこなす力強さを備えた。いずれカリーが現役を退く時には、彼がそのDNAを受け継ぐプレーヤーの一人になるはずだ。