福井県の県立足羽は昨年のウインターカップでベスト16進出を果たした。男女のベスト16のうち、公立校は足羽と茨城県の県立下妻第一の2チームだけ。この時の足羽はスタメンの4人が2年生という下級生チームながら、3回戦でも札幌山の手と接戦を演じる健闘を見せた。この時、2年生エースだった平野里奈は埼玉栄から27得点、和歌山信愛からは44得点を挙げて注目を集めた。ところが、『勝負の年』となる今年に入ってからチームは思うように勝てない。3年生になった彼女たちは「ボロボロでした」と振り返る時期をようやく乗り越え、高校バスケの総決算、ウインターカップに挑む。
「今年の代は強い」から一転「メンタルがボロボロ」に
──去年のウインターカップでは札幌山の手に敗れましたが、残り1分で5点リードと名門相手に良い戦いを演じました。あれからの1年間をどう過ごしてきましたか?
スタメン4人が2年生だったので、新チームになっても大きな変化はなくスタートしたのですが、3月の全関西では決勝リーグに行けず、北信越の新人大会が地震で中止になって、北信越ブロック大会は優勝を目指していたのに1回戦負け。インターハイでも1回戦で負けてしまって、気が付いたら去年やっていた良いバスケが全然できなくなっていました。
去年の3年生は試合に出ていなくてもすごくチームを支えてくれていました。去年の私たちは3年生にただついて行けば良かったし、良く言えば「当たって砕けろ」のチャレンジャー精神で、悪く言えば「できなくても仕方ないや」で、プレッシャーが全くありませんでした。一番の違いは「まだ来年がある」と「これが最後」です。3年生にとって最後の北信越ブロック大会で負けた時に、それをすごく感じました。
去年から試合に出ていたことで、「今年の代は強い」と周囲からも言われていまし、自分たちも「できるんだ」という気持ちでした。それでも強いと言われていたのに勝てないことで、チームのメンタルがボロボロになってしまうことが何度もありました。
──平野選手個人も、今年はかなり苦労してきたと聞きました。
去年は知名度がなかったので、どこも私を止めに来ることなく思い切ってやるだけでした。リングを攻めて、ヘルプが来ても2人なら行ける、という感じです。でも今年は日韓中ジュニア交流競技会のU18日本代表にも選ばれて、ボールを持った時のプレッシャーが今までと違うものになりましたし、フェイスガードされてボールをもらえないことも多くて、それはすごく苦労しました。
インターハイ初戦の四日市メリノール学院との試合でも、最初にドライブからシュートを決めて「いける!」と思ったんですけど、そこからディフェンスが他の選手を空けてでも中にいて、自分が攻めてもバチバチに守られました。徹底的に対策されていると感じた試合でした。
「パスが来たら自分が絶対に仕留めるつもりで」
──U18日本代表で同世代のトップ選手と一緒にプレーしたのは良い刺激になったのでは?
チームの中で11人は同級生で、ジュニア世代のキャンプで知っている子がほとんどでしたが、桜花学園に京都精華学園に聖和学園みたいな感じでオーラがすごくて萎縮しそうだったんですけど、思ったより自分のプレーを出すことはできました。特に阿部心愛選手は身長も同じでプレースタイルも似ているので、私にとっては刺激になったというか、「負けたくない!」と思わせてくれる存在でした。
満田コーチから「絶対に爪痕を残してこいよ」と送り出されて、それができたわけじゃないですが、萎縮せずに自分の持ち味は出せたと思います。ガード陣もみんな上手くて、周りのレベルの高さに煽られるように「私ももっと練習しよう」という気持ちを足羽に持ち帰りました。足羽はインターハイで負けてどん底の時期だったので、そこに日本代表で得たモチベーションを持ち帰ったつもりです。
──足羽では175cmの平野選手が最も背が高いのでセンターですが、プレーは完全にフォワードのそれで、リングを背にするよりもリングに向かってプレーするのが得意ですよね。
もともと中学生までオールラウンダーで、自分でボールを運んでドライブに行く選手でした。高校に入って自分が一番背が高かったので、チームの土台としてインサイドをしっかりやることがまず大事だと思い、ゴール下でのプレーを身に着けました。それまでは「きれいに決めたい」みたいな気持ちがあって、ゴール下のプレーの練習は好きじゃなかったんです。今も本当を言えばそういう気持ちがないわけじゃないですけど、中で泥臭いプレーをするのが自分の一番の仕事だと思っています。
──平野選手のプレーで印象的なのが、ゴール下で点を取りに行く時に相手のコンタクトを受けても身体が流れず、姿勢が良いことです。ワンハンドで打てているのも大きいと思います。
コンタクトを受けてレイアップに行く、みたいな練習は好きなんですよね。シュートはもともとツーハンドでしたが、ミニバスの先生が「中学からだと癖を直すのが大変だ」と私にだけワンハンドを教えてくれたんです。ミニバスのチームに顔を出すと、今はみんなワンハンドで打っているので、私がワンハンドの一期生でした(笑)。
──チームも平野選手も苦しんだ末に、今はようやくプレーが落ち着いてきたと思います。去年はスタメンで唯一の3年生であるポイントガードの廣野智依菜選手がチャンスを作り、平野選手が決める形でしたが、今はボールをシェアして、チャンスもシェアしている印象です。
廣野さんがスピードで1人かわせたので、アウトナンバーを作ったところからパスが出ていたんですよね。すごく簡単にボールがもらえて、あとは決めるだけ、という感じで去年はすごく楽にプレーさせてもらっていました。でも今年は私が1人で点を取ってもディフェンスに寄せられて潰されてしまい、そこで得点が止まってしまう。そこで攻め手を増やしてディフェンスに的を絞らせないように、ボールをシェアするようになりました。
ガードも抜いたらジャンプシュートを打つし、シューターは迷わず打ち切る。私もゴール下で泥臭く身体を張りつつ、パスが来たら自分が絶対に仕留めるつもりでプレーしています。そうやって仕事が分散されたことで一人ひとりの持ち味がしっかり出て、今年の最初の頃と比べたら今のチームはみんながボールに絡んでいて、手応えを感じられるようになっています。
「どこが相手かよりも自分たちが何をするかを大切に」
──今はチームのみんなの表情も明るく、ようやく前を向けた感がありますが、一番キツかった時期はいつですか?
福井工大(福井工業大学附属福井)と対戦したウインターカップの県予選決勝の前です。
──思ったより全然最近ですね……。
それまでずっと勝てていなかったので、福井工大と戦える自信が全然なくて「私たちはウインターカップに出られないんじゃないか」とみんなボロボロ泣き出して、もうダメだという雰囲気でした。それでも3年生で話し合って「勝つにしても負けるにしてもあと2週間しかない」と何とか気持ちを切り替えて、必死になって準備をしました。その決勝も福井工大に追い詰められて、ギリギリで延長に持ち込んで勝ったのですが、そこで自分たちのバスケができたことでようやく「やればできる」と思えるようになってきました。
──ようやくチームが噛み合って、前を向けるようになりましたね。
そうですね。今のチームは周りの選手も得点力が高く、どこからでも点が取れるようになりました。ディフェンスがそちらに寄れば、自分も思い切って攻めることができます。チャンスが分散される分、私の得点は少し減るかもしれませんが、チームの勝利に繋がるならそれでいいです。そういう意味では、2年生の頃はただ思い切ってプレーするだけだったのが、3年生になって「自分が勝たせるんだ」と思うようになり、それが「どうやったらチームのプラスになるのか」に変わりました。今も「自分が勝たせる」という思いは強いのですが、やっぱり「チームのために」が一番です。
──ウインターカップで順調に勝ち上がると3回戦で京都精華学園と当たります。
留学生対策はしますが、どこが相手かよりも自分たちが何をするかを大切にしたいです。バスケの内容を大事にして、チームのルールをしっかり遂行して勝ちにいく。自分たちのやったきたことができずに負けるのが一番嫌な終わり方だし、個人的にもそういう時は上手く行きません。もちろん勝つのが一番ですが、やれることをすべてやった感覚を得て終わりたいです。
──ウインターカップでは自分のどんなプレーに注目してほしいですか?
一番得意なのは身長が高くてもドライブが得意で鋭く攻められるところなので、そこを見てほしいのですが、リバウンドを取ったりディフェンスでカバーに行ったりと、目立たなくてもチームを支えるプレーを頑張るつもりなので、そこにも注目してください。