ヤニス・アデトクンボ

「オリンピックで国旗を掲げる栄誉はもう経験できない」

グループAは大会前の予想通りの『死のグループ』になった。カナダとスペインに連敗したギリシャは、オーストラリアの最終戦に生き残りを懸けて臨んだ。

必勝の気迫がオフェンスよりもディフェンスに注がれたことが、ギリシャ優位の試合展開を作り出す。ヤニス・アデトクンボのリムアタックに、キックアウトからの3ポイントシュートがオフェンスの軸ではあるが、オーストラリアの若いバックコート、ジョシュ・ギディーとダイソン・ダニエルズの隙を突いてターンオーバーを引き出してからの速攻を連発して点差を広げる。ミス連発で落ち着こうとペースを落とすオーストラリアに対して球際の強さ、ハッスルで上回ったギリシャが、前半を終えて53-36と大量リードを奪った。

それでもオーストラリアはハーフタイムに気持ちを切り替え、ギディーとダニエルズがミスを引きずることなく果敢な攻めを続けて反撃の力を作り出す。これにギリシャが受け身に回ったことで、後半は一転してオーストラリアのペースとなった。オーストラリアは第3クォーターで12点まで差を詰め、第4クォーターも勢いを持続。残り3分にはマシュー・デラベドバのスティールからパティ・ミルズが得点と、ここぞの場面でベテランが活躍し、残り3分半で69-71と1ポゼッション差に肉薄した。

ただ、ギリシャはここで集中を引き締め直し、これ以上のフィールドゴールは与えなかった。オーストラリアの反撃をダンテ・エクサムとジョック・ランデールのフリースローによる2点に抑え、77-71と突き放して試合を終えた。

この後に行われたカナダvsスペインは88-85でカナダが勝利。この結果により、3連勝のカナダは文句なしの1位。他の3チームが1勝で並び、直接対決の結果によりオーストラリアが2位、ギリシャが3位となり、スペインは最下位でのグループリーグ敗退が決定した。ギリシャは3位になったが得失点差は-8、グループBでは最終戦で日本に大勝して3位となったブラジルが-7とギリシャを上回っている。グループCの最終戦は今夜行われ、その結果次第でギリシャがベスト8に進出するかどうかが決まる。

あとは待つしかない状況はあまり愉快なものではないが、20得点7リバウンド6アシストでオーストラリア撃破の立役者となったアデトクンボは上機嫌で試合後の取材対応を行った。決勝トーナメントに進出しようとしまいと、オリンピックの舞台を全力で楽しんでいるという彼は、「ここに来た最初の日に、『笑みが止まらない』と妻にメールしたんだ。この雰囲気は唯一無二のものだ」と語る。

開会式ではギリシャ代表選手団の旗手も務めた。最初にその話を聞いた時、彼はその栄誉を4歳年上の代表のベテラン、コスタス・パパニコラフに譲ろうとしたのだが、パパニコラフは「スポーツが象徴するすべてを体現する君こそが相応しい」と固辞したそうだ。そんな逸話を明かし、「実際に国旗を掲げた時には『これまでの人生になかった栄誉だ』と感動したし、亡くなった父は天国からこの姿を見て踊っているだろうなと思った」と話す。

「NBAでまた優勝できるかもしれないし、またMVPになれるかもしれない。でも、オリンピックで国旗を掲げる栄誉はもう経験できないだろう。ここにいることができてうれしい。当たり前のことじゃないからこそ、日々を全力で楽しもうとしているんだ」

グループCの最終戦では、ともに1勝1敗のセルビアと南スーダンが2位を懸けて対戦する。プエルトリコの相手はアメリカで、3敗がほぼ確実。そうなるとセルビアと南スーダンの敗者の得失点差が-8より下であれば、ギリシャの決勝トーナメント進出が決まる。

ただ、それはアデトクンボの関心の外にある。彼は穏やかな笑顔とともにこう語った。「この先のことを考えるのは、パリでの決勝トーナメントに行けることになり、対戦相手が決まってからでいい。それまではこの機会を楽しみ、チームメートと一緒の時間を過ごしたいのさ」