ニコラ・ヨキッチ

サイズ、スキル、連携いずれもレベルの高い優勝候補

セルビアは昨年のワールドカップ準優勝メンバーに、NBAで3度目のシーズンMVPを獲得した二コラ・ヨキッチを加えてオリンピックに臨みます。サイズ、スキル、連携いずれもレベルの高い優勝候補の一角です。

セルビア最大の長所は、誰もが適切な判断をするバスケIQを生かしたパスワークにあります。チームメートとディフェンスのポジショニングをそれぞれが見て判断し、『次に空く』選手へと連続してボールが繋がっていく流れるようなパスワークは、バスケットという競技におけるオフェンスのお手本です。しかもサイズもシュート力もある選手が何の違和感もなくパスを繋いでいくため、止める方法が分からないクオリティを誇ります。

そんなセルビアを象徴するのがヨキッチの異次元の判断能力ですが、面白いことにセルビアであってもNBAのスタープレーヤーが加わることで連携に違和感が生じます。通常のオフェンスであればオフボールムーブでカットプレーとシューターポジションが流動的に入れ替わっていくのですが、強化試合を見る限り、ヨキッチがポストでボールを持つと周囲が『ヨキッチのアクション待ち』になって足が止まる傾向にあります。

偉大な個人の存在に頼る気持ちが出てしまうのか、それともすべてのプレーに絡むポイントセンターの存在に慣れていないのか、足が止まってしまう理由は分かりません。ワールドカップではボグダン・ボグダノビッチを中心にしたオフェンスで成功しており、ガードを中心としたオフェンスの中で流動的にポジションを入れ替えていくのがセルビアらしさでした。

ヨキッチはポストプレーで展開する選手であり、彼がいる以上は彼中心のプレーが増えます。そこに違和感が生じるのは仕方のないことではありますが、この違和感がそのまま残るのか、それとも異物を取り込みながらチームバスケットとして次の段階へと進化するのか。後者になれば、金メダル獲得は極めて現実的な目標となります。

一方でオフェンスのチームだけに、ディフェンスには課題もあります。マンマークの対応の緩さはセルビアが常に抱える弱点で、サイズのある選手が多い反面でスピードに弱く、ドライブの連続についていけないことが頻繁に起きます。マークの受け渡し、ヘルプとローテーションといったチームディフェンスはしっかりできるものの、マンマークで勝てないことからすべてが後追いになると苦戦は避けられません。

見事なオフェンスで大量リードを得ながら、ディフェンスの甘さで後半に追い上げられるのがセルビアの負けパターン。チームで解決するのがベストですが、それでも苦しい場面になった時に『世界最高のプレーヤー』であるヨキッチがすべてを解決してしまう可能性もあります。

いずれにしても、ヨキッチの個人能力にせよ高度なチームプレーにせよ、セルビアは見応え十分のチームとして大会の主役を演じるでしょう。大会初戦となるアメリカ戦は世界から注目を集める一戦になりますが、本当の勝負はその先です。大会が進む中で『ヨキッチ込み』のチームバスケを確立させ、チームとしての完成度をどこまで高められるか。大会を通じて楽しみなチームです。