白井英介

河村人気もあり、昨シーズンは事業面で大きく飛躍

チームの顔がなかば突如、いなくなった。だが、だからといっていつまでも首を垂れていても、何かが起こるわけではない。誰がいても結果を出せる。これからの横浜ビー・コルセアーズとは、そんなクラブを目指していく。

横浜BCが20日、2024−25シーズンの体制発表会見を行った。横浜BCは前年に33勝27敗(中地区2位)とBリーグで初めて勝ち越し、ポストシーズンではベスト4にまで達する躍進をした。しかし、2023-24シーズンは歯車の合わない戦いぶりが続き24勝36敗で中地区6位に沈んでしまった。

明けて2024−25。横浜BCは浮上を狙う。しかし「どうやって?」という大きな疑問符を払拭することは容易でない。7月上旬、河村勇輝がNBAグリズリーズと『エグジビット10』契約を結んだことで、昨シーズンまでチームの絶対的エース抜きで戦わねばならない可能性の高いことが、その最大の要因だ。

河村の離脱以外にも変化は多い。新ヘッドコーチには男子フィンランド代表チーム指揮官のラッシ・トゥオビ氏が就いた。ロスターを見ると5選手が退団。日本人選手では前レバンガ北海道のナナーダニエル弾と契約し、外国籍、アジア特別枠の選手はすべて入れ替わって、現状ではアキル・ミッチェル、マイク・コッツァー、キーファー・ラベナ(アジア枠)が新たに加入している。

だが、河村が急遽抜けることが決まったこともあって、現状、契約選手として名を連ねるのは10名しかいない(会見では現状ではまだ河村も契約下選手として入れていたので11名のロスターとしての紹介となった)。横浜BCの白井英介代表取締役兼ゼネラルマネージャーによれば、ここに外国籍選手をあと1人加える予定ということだ。

河村のアメリカ挑戦がどのように展開するのかわからず、彼が横浜BCに戻ってくることも想定しないわけではないと白井氏は述べつつも、2024-25シーズン開幕は最大13名のアクティブロスター枠を使い切らずに、河村を除いた11名で迎える方向だという(特別指定選手の加入の可能性は示唆している)。

昨シーズンまでGMを務めた竹田謙氏がチームのアドバイザーとなったことで、社長業に加えGMも兼任することとなった白井氏は、河村の横浜BC復帰について「可能性はゼロではないとは思いますが」としつつ、こう言葉を続けた。

「正直、我々は彼のアメリカでの成功を願っていますし、長い期間アメリカで活躍した上で、その先の選択肢としてまた戻ってきてくれれば。ただ(NBAは)厳しい世界であるのも事実ですので、その後どうなるかは状況を見ながらとなります。現段階ではおそらく開幕は11人でスタートするんじゃないかと思います」

昨シーズンの横浜BCは、チーム成績における低迷はあったものの事業面では全ホーム開催試合で完売となる平均4799人の集客(B1で6位)を記録するなど、飛躍を果たした。会見で白井社長は、6月末に決算を終えたばかりで正確な数字ではないながらも昨季、チームの売り上げは概算で約20.9億円(入場料収入は前年から236.5%増の約7.1億円)で約3.1億円の営業利益を達成することができたと発表している。その他、チームのSNS合計フォロワー数は前年から約70%増の30万人を突破し、ファンクラブ会員数も同123%増で1万人を超えた。

FIBAワールドカップで活躍した河村の人気が、事業面においても大きな影響をもたらしたと推察するのは想像に難くない。まもなく開幕するパリオリンピックにも出場し、今や日本を代表する選手の1人となった23歳が去ることがほとんど突然決まったことで、チームは今シーズンの売上目標を18.6億円へと低く見積もっている。

「昨シーズンの後半くらいに我々の中で立てていた目標からすると、昨日発表した河村選手の移籍発表を踏まえて、事業面での目標は少し修正をしている部分がございます。昨年のワールドカップ以降、河村選手に大きく後押しされて達成した売上という部分もありました」

白井社長はこのように述べると、さらに言葉を続けた。「今シーズン以降については、横浜ビー・コルセアーズ、私たちの実力が問われるシーズンになると強く感じております。現段階で多くのお客さまにご来場いただいていますが、横浜市にバスケットボールをする、見る文化というものを目指していくことを優先していくためにも、事業面での売上目標は少しディフェンシブに構えて、より多くのお客様にご来場いただき、バスケットボールを楽しんでいただく、ビーコルのバスケットを楽しんでいただくということを優先させていただくような目標設定をしております」

河村離脱の影響をチケット価格に反映しているということは、今後も変わらず多くのファンに訪れてもらうために価格を抑えたことということだろう(昨シーズン終盤、改修の終了した横浜BUNTAIでの横浜BCの主催試合のチケット価格高騰について一部のファンから不興を買ったことについて、Bリーグの島田慎二チェアマンがチームの売上努力に対しての理解は示す一方で、ファンにとって敷居が高くなってしまうことへの懸念も呈している)。

横浜ビー・コルセアーズ

河村の離脱で編成方針を急遽変更、3人目の外国籍選手は近日発表予定

横浜BCは、2022-23にBリーグでは初めて勝ち越しの成績を収めてポストシーズンに進出。セミファイナルまで進出するという成功の1年を送った。そして先述の通り、昨シーズンは事業面で飛躍を遂げた。多くのチームが2026年に始まるBプレミア入りを目指す中で、横浜BCは参入の「3大要件」とされる売上、集客、アリーナのうち前者2つを満たしたことになる(アリーナについてはまだ正式な発表はされていないものの、改修計画の話のある現行のホーム使用アリーナ、横浜国際プールか、横浜BUNTAIのどちらかを使用することで要件を満たす方向性だ)。

ただここ2年ほどのクラブの成長が一過性のものとなってしまっては、永続的な成功と自他ともにビッグクラブとして認められることはできない。そのために重要なことがチームの強化においてもクラブの経営においても中長期的な視野を持つことであり、事業面で得た収益を適切にチームへの投資として還元していくことだとしている。

具体的には、チームマネジメント能力(選手のモチベーションを保つことや組織力強化)の向上ができるスタッフの招聘、チームの編成力、トレーニング環境の改善(練習拠点のたきがしら会館の施設の向上)、アナリティクス(分析)ツールの導入、メディカル・ストレングス面の強化、の5項目においての強化を図っていくという。

とりわけ興味を引くのが、編成の部分だ。白井社長によれば、数年前から竹田前GMらフロントで「ビーコルのバスケットはどういうバスケットか」(白井氏)について議論を重ねてきた結果、それは「組織的でボールも人も動く速いオフェンスと強度の高いディフェンス」(同)となった。そして、それを体現するにあたり、ヨーロッパにそうしたことにフィットできる選手が多いということで、今後は同地域に強固な繋がりを持つスカウトやエージェントとのコネクションを強化していくという。

トゥオービ氏や、彼と同じくフィンランド人で前エストニア代表HCのユッカ・トイヤラ氏をアシスタントコーチとして招聘、またエストニア代表でドイツやスペインのトップリーグでプレーしてきたマイク・コッツァーとの契約も、こうした編成哲学に基づくものだ(横浜BCは新HC候補として20名近い指導者と面談をしたとのことだが、多くがヨーロッパでの経験のある人物だったという)。

白井社長はこれまで「速いオフェンスと強度の高いディフェンス」を体現してきたのが河村だとしたが、彼抜きでもそれを再現し、勝っていくためには外国籍選手にその資質を求めることが肝要だと語っている。「ではどこからリクルーティングすべきかというと、そういうバスケットを一番完成度高く実現しているユーロリーグやユーロカップ、その他のヨーロッパリーグをしっかりウォッチし、彼らのバスケットを参考にしつつ、コミュニケーションを取りながら目指していくことが重要だという話を、かれこれ2、3年のスパンで話をしています」

横浜BCはまだ3人目の外国籍選手の発表を行っていないが、ここでも河村のNBA挑戦が作用している。白井氏によれば契約合意直前まで外国籍選手がいたものの、河村の離脱で編成方針を急遽、変更せざるをえず、現在、オフェンス面で「プレーをクリエイトできる複数の選手」(同氏)をヨーロッパやGリーグ、NBAサマーリーグ出場者の中から見定め、近い内に発表する予定だという。

パリオリンピック開幕が間近だということもあったかもしれない。しかし、20日の会見には10社に満たないメディアが訪れたのみだった。7月9日に同じ場所で開かれた河村のエグジビット10契約会見には約25社の申請があったというから違いは明白で、示された現実は残酷ですらある。

数年前まで横浜BCは、なかなか勝つことができず、降格の危機にも複数回瀕し、ホーム開催試合にも空席が目立つ、そんなチームだった。もちろんクラブは、そんな時代に戻りたいなどとは到底、思うはずもない。『虎の子』と呼べる珠玉の存在の河村が今後不在となる可能性が高い中で、果たして彼らは多くの勝利を手にし(2024-25のチームの目標はチャンピオンシップ進出とした)、存在感を示し続けることはできるのだろうか。見ものだ。

 

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