恩塚亨

「全員がワールドクラスの強みを持っていると思います」

6月30日、女子日本代表の恩塚亨ヘッドコーチが、パリ五輪に向けてのメディアブリーフィングを実施。12名の代表を選んだ理由、パリ五輪に向けての戦い方について語った。

これまで恩塚ヘッドコーチは『走り勝つシューター軍団』をコンセプトに掲げ、弱みを補うことよりも勝てるところで勝つことに注力。日本の持ち味である速さ、敏捷性、外角シュートを前面に押し出すスタイルを掲げている。そのために、『足を使って戦える』、『3ポイントシュートを打てる』、『5人で連続性を発揮し続けられる』の3つをいかに40分間、高いクオリティで遂行し続けられるかを重視して12名を選んだと説明。また、万が一への備えと若手育成の観点から、野口さくらと絈野夏海をサポートメンバーに招集したと発表した。

「年齢も実績も重視していません。勝ちから逆算し、あらゆる状況を想定して必要な選手たちに力を貸してほしいとお願いしました」

こう恩塚ヘッドコーチは語る。そして「あとで報道記事を見て、全員がオリンピック経験者と知ったくらいでした。この12名は全員がワールドクラスの強みを持っていると思います」と続け、それぞれの持ち味を次のように評する。

吉田亜沙美(日本バスケットボール協会)
「パスの能力、リーダーシップと素晴らしいです」

髙田真希(デンソーアイリス)
「バスケIQが高いです。センターで3ポイントシュートが打てますし、ポストのディフェンスも1人で守り切ることができます」

町田瑠唯(富士通レッドウェーブ)
「パスの能力はご存知でしょうが、ボールマンディフェンスのレベルが非常に高く相手をシャットアウトしてくれると思っています」

宮澤夕貴(富士通レッドウェーブ)
「ビッグマンで3ポイントシュートを決める力を持っていますし、勝負強いです。(三井不動産カップの)オーストラリア戦でも苦しい状況で決めてくれました。そういう強さを持っています」

本橋菜子(東京羽田ヴィッキーズ)
「IQが高く、チャンスを見つける嗅覚が素晴らしいです。それに加えてOQT(パリ五輪最終予選)の時もチームに良い影響を与えてくれたと思っています」

林咲希(富士通レッドウェーブ)
「私は世界一のシューターと思っています。キャプテンシーも素晴らしく今のチームの源です」

馬瓜エブリン(デンソーアイリス)
「ドライブと3ポイントシュートが武器で、加えてチームを鼓舞する大きなエネルギーを持ってくれています」

宮崎早織(ENEOSサンフラワーズ)
「スピードは世界一で、フルコートのディフェンスは私たちにとって大きな力になります」

赤穂ひまわり(デンソーアイリス)
「リバウンドの能力が非常に高く、複数のポジションをカバーできるオールラウンダーとしても期待しています」

馬瓜ステファニー(CASADEMONT ZARAGOZA)
「世界でも11で打開できる能力の高さがあり、オールラウンドにプレーできるところが素晴らしいです」

山本麻衣(トヨタ自動車アンテロープス)
「スコアリング能力は世界でもトップクラスです。特にプルアップ、ディープスリーは私たちにとって大きな武器です」

東藤なな子(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)
「複数のポジションをカバーできるオールラウンダーであり、バスケIQが非常に高いです」

女子日本代表

「高さ対策で選手を入れたら『走り勝つ』という点が機能しなくなる」

今回の代表メンバーを見ると、全体的にサイズ不足なのは明らかだ。最長身は髙田の185cmで、OQTでは180cmの馬瓜エブリンがセンターを務めていた。また、三井不動産カップでは163cmの山本、164cmの本橋がシューティングガード、スモールフォワードの柱は173cmの林、その両方のポジションを難なくこなせる184cmの赤穂はパワーフォワードとかなりのスモールラインアップである。

パリ五輪の出場国は、どこも高さ、フィジカルで日本より勝っている。ただ、それはサイズを重視したメンバー構成にしても同じだ。だから恩塚ヘッドコーチは、「高さ対策でコンセプトに合わない選手を入れたら『走り勝つ』という点が機能しなくなります」と、マイナス面を埋めることより自分たちの強みを最大限発揮することにフォーカスしたと説明した。

ちなみにOQTではリバウンドで後手に回ったが、恩塚ヘッドコーチは単純な高さ以外の理由のほうが大きかったと振り返る。

「課題としてリバウンドが一番大きいことは理解しています。OQTでは3試合で36本ものリバウンドを支配されました。何故、取られてしまったのか分析した結果、20本はサイズが関係ない私たちの努力不足でした。今はこれを選手任せにするのではなく、どういう時に努力がやりきれなくなるのか原因を追求してトレーニングをしています」

恩塚亨

「あらゆる状況に対しても自分たちの強みを出し切れることを優先」

五輪出場国を見ても、日本ほどスピードと3ポイントシュート重視のスモールバスケットに振り切ったチームはない。これは日本にとって唯一無二のアドバンテージだが、東京五輪の時と比べ世界は、日本がどんなスタイルで来るかを熟知している。この対策に対し、無力だったのがグループリーグ敗退に終わったワールドカップだった。

そして、そこから進歩し相手の対策を逆手にとる適応力としたたかさを発揮したのが、パリ五輪行きを決めたOQTのカナダ戦だった。カナダの徹底した3ポイントシュート封じを受けた日本代表が、スペースが生まれたゴール下へのドライブから高確率でシュートを決め、勝利に繋げたのは記憶に新しい。

対戦国はOQTにおける戦い方を踏まえた対策を取ってくるだろう。恩塚ヘッドコーチは「隠しているところもあります」と語るが、何よりも強みにより磨きをかけていくとコメントする。

「しっかり試してみないことには課題も見えなくなるので、一旦、ベースとなるものはできるだけ出してトレーニングしているところです。ただ、相手が私たちの強みを消しにきた時、それがスイッチになって強みを発揮できる仕組みと戦術については、幅広く準備をしているところですし、そこを突き詰めていきたいです。相手を驚かせるプレーは必要ですが、驚かそうとしても相手が驚いてくれるかはわからない。あらゆる妨害、カオスな状況に対しても自分たちの強みを出し切れることを優先して強化しています」

競技の特性上、バスケットボールにおいて高さが大きなアドバンテージであることは明らかだ。だが、それは絶対的なものではなく、強さの定義とは1つではない。そして、恩塚ヘッドコーチの考える強さとは、「自分たちにあるけど、相手が真似できないもの。強さの尺度を相手との違いにおいてチームを作ることで、結果として日本の強みを最大限に発揮できる」となる。

この日本オリジナルの強みを貫き通すことができれば、再び五輪の舞台で世界を魅力することはできるはずだ。