来シーズンは安泰、その後は極めて厳しい舵取りに?
セルティックスがNBA優勝を果たした。ポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレンの『ビッグ3』を擁した前回優勝とは違い、今回はジェイレン・ブラウンとジェイソン・テイタムという、自分たちでドラフトしてスター選手へと育て上げた2人を中心に据えたチームで頂点に立った。
ブラウンは8年目、テイタムは7年目。2人とも常にスターの地位にあったが、キャリアを通して優勝を狙えるチームにいながらプレーオフの壁に阻まれ、真のスター選手になりきれていなかった。それでも今回、ブラウンは27歳、テイタムは26歳とまだ若くして優勝を勝ち取った。
ブラウンは昨年オフに5年3億4000万ドル(約510億円)というNBA史上最高額の契約を結んだばかりで、テイタムは遠からずそれに続く。彼ら2人のコアを中心に、セルティックスは今後長くリーグを支配する『王朝』を築く可能性がある。
しかし、来シーズンにはブラウンの新契約が始まり、3180万ドル(約48億円)だった彼の年俸は4930万ドル(約74億円)へと跳ね上がり、ドリュー・ホリデーとクリスタプス・ポルジンギスを抜いてチームトップとなる。
2024-25シーズンだけなら、セルティックスに大きな不安はない。主力選手はすべて来シーズンまで契約を残し、フリーエージェントとなるのはルーク・コーネットとオシェイ・ブリセット、ゼイビアー・ティルマンSr.の3人だが、いずれも代えが利かないわけではない。38歳のアル・ホーフォードが優勝を手土産に引退してしまうと、残るセンターがケガの多いポルジンギスだけとなってしまうが、少なくとも今のところホーフォードは来シーズンまで残るセルティックスとの契約を全うするつもりでいる。
問題はその先だ。サラリーキャップのセカンドエプロンを2年連続で超えると、将来のドラフト指名権が2つ凍結され、その状態が続くようであれば最悪の場合、指名権が1巡目の最後に回されてしまう。また、ラグジュアリータックスは直近の4シーズン中3シーズンで基準を超えると『リピーターペナルティ』が科され、極めて高額な支払いが必要となる。リーグ全体の収入が右肩上がりの状況でサラリーキャップの限度額も引き上げられていくが、テイタムもマックス額での契約延長が確実視される状況で、来年秋以降は2人のリーグ最高額クラスの選手を抱えることになるセルティックスがペナルティを避けるのは至難の業だ。
2025-26シーズンにはブラウンとホリデー、ポルジンギスの3人で1億1600万ドル(約174億円)、これに5400万ドル(約80億円)規模になるであろうテイタムの新契約が加わる。来シーズンいっぱいでホーフォードとデリック・ホワイトが契約満了を迎える。ホーフォードが引退した時、その代役をどこから連れてくるのか。『影のMVP』であるホワイトは失いたくない戦力だが、どのような条件で引き留めるのか。
ホワイトは今オフに最大4年1億2700万ドルでの契約延長が可能となる。彼との契約を延長するのであれば、来年オフに主力の誰かを外す覚悟を決めなければならない。その後もセルティックスは、そういう難しい決断を次々と下す必要に迫られる。
いずれにせよ、チームは間違いなく優勝候補の筆頭となる来シーズンの連覇を目指して戦うのみ。スター選手の契約とサラリーキャップの間で難しい舵取りをしなければならないのはフロントで、つまりはブラッド・スティーブンス球団社長だ。ダニー・エインジの仕事を受け継ぎ、ライバルの一歩先を行くチームを作り上げたスティーブンスならば、不可能を可能にしてボストンに『王朝』を築き上げるかもしれない。
セルティックスに有利なのは、東カンファレンスのライバルもまた難しい状況にあることだ。バックスは老朽化が進み、セブンティシクサーズは今オフにジョエル・エンビードとタイリース・マクシーを残して新たなチームとなり、ヒートも再編に踏み切る可能性がある。少なくとも現時点で圧倒的に優位に立つセルティックスが東カンファレンスをこのまま支配する可能性は、かなり高いと見ていいだろう。