「自分たちがどうやったら勝てるのか、その道筋を示すことができなかった」
横浜ビー・コルセアーズは2023-24シーズンを24勝36敗で終えた。昨シーズンの横浜BCはそれまでリーグ下位に低迷した中で初のチャンピオンシップ進出、さらにセミファイナルに進出と大きな躍進を遂げた。そして、大黒柱の河村勇輝が残留しさらなるステップアップが期待された今シーズンだったが、開幕から思うように勝ち星を増やすことができず、上位争いに絡むことなく終わってしまった。
レギュラーシーズン最終戦の終了後、昨年に続いてキャプテンを務めた司令塔の森井健太は、次のように失意のシーズンを総括した。「開幕からたくさんの方々が僕たちに期待をして始まった特別なシーズンだったと思います。ただ、自分たちがどうやったら勝てるのか、その道筋をなかなか示すことができなかったのが現実です。本当に苦しいシーズンでした」
そして森井は、「昨シーズンはディフェンスからブレイクという一つの形がありました。それが今シーズンはディフェンスが高い強度でできる試合もあれば、全くできない試合とアップダウンを感じました」と続け、最後まで自分たちの勝ちパターンを確立できなかったと明かす。
また、森井個人としても、本来の実力を出すのが難しい状況でのプレーを余儀なくされた1年だった。昨シーズンの横浜BCは、傑出した個の打開力を備える河村、卓越したゲームメークによってコートに立つ5人がボールに絡むチームオフェンスを生み出す森井と、異なる魅力を持つ司令塔がそれぞれ持ち味を発揮することで、相手ディフェンスを翻弄していた。
だが今シーズンは、河村が個人として昨年と同等のパフォーマンスを見せる一方でチームとしてはうまく噛み合わず、序盤から劣勢の場面が増えるなど不安定な戦いが続いた。追いかける展開ではより得点力が求められることで河村を使う時間が増えるなど、ベンチスタートの森井の起用法は安定しなかった。また、先発メンバーの試行錯誤を繰り返したことでセカンドユニットも当然のように布陣が固定されなかった。昨シーズンの森井はパトリック・アウダ、森川正明と継続して一緒にプレーする相棒たちがいた。しかし、2人はともに移籍し、新しいメンバーと連携を構築しなければいけない中、一緒に出るメンバーが流動的でそれも難しかった。森井は戦い方が定まらない状況の一番の被害者と言えるだろう。
「『ここで決められたら痛い』というところで決め切る力をつけないといけない」
この点について聞くと、森井はこのように語る。「青木(勇人ヘッドコーチ)さんとは新潟の頃からの長い付き合いで、『苦しい状況でコートに出すことになっていつも申し訳ない』と言ってもらっていました。試合ごとに出るタイミングは違い、出るメンバーが固定されなかったのはゲームを作る上で難しいです。僕は周りの4人を動かして、彼らの良さを引き出すのに長けているタイプだと思うので、活路を見出せない時は正直ありました」
だが、常に打開策を模索し続けたからこそ「自分自身がクリエイトした時の方がうまくいったこともあり、そこは新たな気付き、勉強になったと思います」とさらなるステップアップへの収穫も得られた。「正直、僕は20点、30点を取るような選手ではないので、得点量産が自分自身の殻を破ることではないです。接戦での終盤など、相手にとって『ここで決められたら痛い』というところで決め切る力をつけないといけない。それができている試合はウチが勝つ試合が多いです。大事な場面でプレーを遂行する力を高めて、もう1つ上のステップに行くことを意識したいです」
チームのために尽くすのが選手に求められる役割である一方、1人のプロ選手としてスタッツを残せるかどうかは、自身の評価に少なくない影響を与える。そんな状況でも、森井は周りを生かすスタイルを追求し続けた。そこはリーダーとして、チームファーストを体現し続けることで、チームを正しい方向に導いていきたい強い思いがあったからだ。「勇輝という優れた選手がいることで、僕自身のパフォーマンス以外の要因で出場時間が減るのは分かっていました。でも、出たらやれると思っていましたし、それを証明できている試合はありました。自分が出た時に100%、120%のプレーを見せることで、出番がなくて苦しんでいた若手に感じとってほしい。自分のため、チームのためにもポジティブに振る舞うようにしていました」
このようにチームへの高い忠誠心を持ち、コート内外で献身的な振る舞いを続けてきた森井にとっても、チャンピオンシップを逃すことが決まった後は「昨シーズンに出場したからこそ、今年はCSが出られないと決まった後、僕自身もメンタルにきました」と苦しんだ。
だが、それでもチームのため、何よりも変わらず声援を送り続けてくれたファンのためにハードワークを続けた。その日々は、これからの成長の糧になると森井は信じている。「数年前のビーコルだったら最高勝率を目指そうというレベルだったのが、今は目指すところが変わりました。だからこそ、引き続き戦う姿をファンの方に見せる責任があります。この1カ月は一番苦しかったですが、この経験はこれからのキャリアに生かされていくと思います」
そして森井は、次のように今シーズンを締め括った。「結果が全てなので、もっとできたという気持ちはあります。ただ、歩みを止めなければ絶対にやり返すチャンス、上にいけるチャンスは来ると思います。自分自身にもっとベクトルを向けて、チームを目標達成に導ける選手、リーダーになっていきたいと思います」
『歩みを止めなければチャンスはくる』は、それこそ昨シーズンの横浜BCが証明している。1年前とは正反対の強い逆風の中、どんなに辛くても前に進み続けた森井の努力が、新シーズンにどんな成果をもたらすのか楽しみだ。