ニコラス・バトゥーム

「これは良いチームになるためのレシピだ」

セブンティシクサーズはヒートとの接戦を105-104で制し、第7シードでプレーオフへと進むことになった。

試合開始早々にジョエル・エンビードが積極的に攻めてバム・アデバヨから2つの個人ファウルを引き出したことでシクサーズが先手を取ったかに見えたが、アデバヨ不在となったインサイドをエンビードで突こうとする意図はヒートのゾーンディフェンスに妨げられた。ボールムーブが停滞しての速攻を連発されて、シクサーズは逆に劣勢に追い込まれた。

前半を終えて39-55。エンビードが10得点、タイリース・マクシーが9得点を挙げていたものの、彼らの強引すぎるアタックは効率が悪く、11のターンオーバーから相手にイージーバスケットを与えていた。エンビードは左膝半月板の手術から復帰してまだ6試合目で本調子ではなく、マクシーの積極性もヒートのディフェンスに上手く絡め取られていた。

第3クォーターにチームが上向きに転じたのは、エンビードとマクシーが個人で攻めるのではなく、チームメートを巻き込んでバランスアタックにシフトできたからだ。2人の得点は止まったが、ニコラス・バトゥームが9得点、バディ・ヒールドが7得点と、中でも外でもチームオフェンスが形になってきた。

一方でヒートは勝負強さを象徴であるジミー・バトラーが第1クォーターの最後にシュートを狙ってケリー・ウーブレイJr.と接触。バランスを崩して地面に落ちた際に膝を痛めた。バトラーはその時こそ苦悶の表情を浮かべたものの、その後はプレーを続けたのだが、やはり影響はあったようだ。試合後は膝内側側副靱帯を痛めた疑いで検査を受けている。

そして69-74とシクサーズが5点ビハインドで迎えた第4クォーターにエンビードもチームと噛み合った。序盤にやったようなインサイドの強引な攻めではなく、チームオフェンスの流れの中で3ポイントシュート2本を決め、インサイドではチームメートのために身体を張った。そのエンビードの動きに呼応してウーブレイJr.やマクシーが良い動きを見せ、ヒートのディフェンスを攻略していく。

そして完全にリズムに乗ったバトゥームは最終クォーターに3ポイントシュートを2本決め、さらに最後の最後でタイラー・ヒーローのシュートをブロックショットで叩き落した。こうして終盤にヒートをかわしたシクサーズが、1点差の接戦をモノにした。

エンビードは23得点15リバウンド5アシスト、バトゥームはそれに続く20得点を記録した。試合後の会見でバトゥームは「負けてももう一度チャンスがあるけど、そこに行かないことが僕のモチベーションだった。2日間の休みが欲しかったんだ」とジョークを言い、こう続けた。「前半は相手のゾーンディフェンスに苦しめられたけど、後半は上手くアジャストできた。僕も後半はもっと積極的にプレーして、ゾーン攻略に貢献できた」

こうしてシクサーズはプレーオフに進み、ファーストラウンドではニックスと対戦する。ニックスが上位シードとなるが、バトゥームは「2位から8位まで4ゲーム差しかない。力の差はほとんどないと考えているよ。僕らは大事な戦力をしばらく欠いていた。そうじゃなかったらあっさり2位になっていたかもしれない」

ただ、シクサーズがまだ完璧でないのは間違いない。エンビードはまだコンディションを上げなければならないし、バトゥームが開幕からクリッパーズで3試合プレーした後に加入したように、『ジェームズ・ハーデン問題』はプレシーズンの準備を台無しにした。トレードデッドラインの頃にはエンビードが膝の手術で不在となっており、ここで加わった選手は『エンビードのチーム』でのプレーに馴染んでいない。このヒート戦で露呈したのは、指揮官ニック・ナースがラプターズ時代に長い時間をかけて植え付けたような戦術的な多彩さが、今のシクサーズにはないことだ。

「大丈夫だよ。僕たちはみんな、エンビードがどんなプレーをしたいのか分かっているし、自分の仕事は分かっている。それぞれが自分の仕事に集中し、お互いのスペースを尊重していれば、優勝だってできるはずだ」とバトゥームは言う。「素晴らしいコーチとスタッフ、2人のスター選手、自分の役割を理解しているロールプレーヤー。これは良いチームになるためのレシピだ」