「その挑戦を楽しみにしながら良いバスケをしたい」
NBAでは一寸先が闇で、どんなに調子が良いチームでも気の緩みは許されず、一歩踏み誤れば一気に転落する。まさにその状況に陥っているのがマジックだ。現地3月21日にペリカンズに勝利して通算成績を42勝26敗とした時、ヘッドコーチのジャマール・モズリーは「チームは最高の状態にある。選手たちは自分たちの成長を実感し、勝つたびに結束を強めて士気が高まり、観客が作り出す雰囲気も素晴らしい。これだけすべてが完璧に機能しているのは信じられないほどだ」と語った。
モズリーが植え付けたディフェンス重視とハードワークのスタイルが、若くて身体能力に優れた若いチームにハマり、サイズとタフに戦う姿勢を押し出してロースコアの展開で勝利をもぎ取っていく。勝負どころでビッグプレーを決めるパオロ・バンケロという絶対的なエースがいて、他の選手たちも個々の役割を理解して、試合をこなすごとに戦術の遂行能力を高めていた。プレーオフでどこまで戦えるかは未知数であっても、そこに挑戦できることにチームもファンもワクワクしていた。
ところが、そこからの3週間でチームは4勝6敗と失速し、順位は東カンファレンス2位から5位まで転落する。ケガ人が出てローテーションが噛み合わなくなったことが最初のつまずきで、長いシーズンの疲労の蓄積でチームの生命線であるハードワークが保てなくなった。若手中心のチームは好調であればどこまでも勢いに乗れるが、一度崩れるとなかなか立て直れない。
現地4月10日のバックス戦では、フランツ・バグナーが足首のケガで2試合連続の欠場。ベテランのギャリー・ハリスも2日連続の試合をこなせないため欠場となった。バックスも絶対的エースのヤニス・アデトクンボを欠き、クリス・ミドルトンまで欠場と飛車角落ちの状況。それでもアデトクンボに代わり先発したボビー・ポーティスが30得点9リバウンドと獅子奮迅の働きを見せた。一方のマジックは先発したマーケル・フルツも2年目のケイレブ・ヒューストンもインパクトを残せず。すべてのクォーターで相手を下回り99-117の完敗を喫した。
「努力が足りなかったわけではない。ハードにプレーしようとしたがミスが続いてしまった。16回のターンオーバーから27点を与えたのが我々の敗因だ」とモズリーは言う。
モズリーの言葉どおり、どの選手も攻守に全力を注ぎ込んで戦ったが、攻守が噛み合わない中ではその意識がマイナスに働くこともある。無理なプレーがミスに繋がり、そこから崩れてしまう。ロースコアの展開に持ち込みたいマジックにとって、ミスから相手にイージーな得点を次々と与えてしまっては勝機は見いだせない。
「我々には経験が足りない。特にバックスのように経験豊富な選手の多いチームが相手だと、それが明確に感じられる。それでも、負けを経験する中で学び、成長し続ければ、この時期が今後のプラスになる。集中しなければならない、激しくプレーし続けなければいけない。そのことを選手たちが理解しているのは良いことだ」とモズリーは語る。
状況は決して良くないが、指揮官は前向きな姿勢を失ってはいない。「選手の多くにとって初めてのプレーオフとなる。難しい挑戦だが、プレーオフの雰囲気を感じながら試合ができるのは素晴らしいことだ。勝っても負けてもチームの結束を失わず、ハードに戦い続けることで、若い選手たちは成長できる。我々にとって最高の機会なんだ」
パオロ・バンケロもあくまでポジティブに、今の課題に立ち向かおうとしている。「ケガ人などの問題を抱えながら戦っているのはどのチームも一緒だ。僕らはエネルギーと激しさでライバルに負けてはいけない。何度か負けたとしても、自分たちの大きなビジョンから目をそらしてはいけない。僕らはプレーオフに進出するんだ。その挑戦を楽しみにしながら、レギュラーシーズンの残り2試合も最善の準備をして良いバスケをしたい」
突如として勝てなくなったことで苦しい状況ではあるが、マジックにとって4年ぶりのプレーオフ進出は快挙となる。若い選手たちは挑戦することを楽しみつつ、ハードに戦うことで活路を見いだそうとしている。