Bリーグ史上に残る名スコアラー、川崎ブレイブサンダースのニック・ファジーカスは開幕前に今シーズン限りでの引退を表明した。チームは「ニックのためにも優勝を!!」と強い決意で臨みスタートダッシュに成功したが、中盤以降はファジーカスを含む主力の故障も響いて大きく失速。中地区2位のシーホース三河、ワイルドカード2位の島根スサノオマジックと共に3ゲーム差と、チャンピオンシップ出場へ崖っぷちの状況だ。ラストダンスの最終章を追い込まれた中で迎えるファジーカスに、バイウィーク明け直前に心境を聞いた。
「もし残りシーズン絶望となっていたら、もう1シーズンプレーすることも考えました」
――いよいよ、あなたの輝かしい現役生活のクライマックスを迎えていますが、現在の率直な気持ちを教えてください。
いつもと同じ気持ちです。今はどうやってチャンピオンシップに進出するかにフォーカスしているので、自分の引退についてあれこれと考えることを忘れています。引退より、もっと重要なことがあるのは良いことだと思います。
――1月6日のアルバルク東京戦で膝を負傷しました。幸いにも2月10日に復帰できましたが、診断結果が出るまではどんな思いでしたか。
「なんで現役最後のシーズンにこういうことが起こるんだ」という気持ちでした。日本に来てからの12年間、これまで大きなケガをしたことはなかっただけに、膝を痛めた時はこれまでにない感覚でしたし、とても辛かったです。もし、これで残りのシーズンが絶望となったら引退はできない。妻にも相談しましたが、そうなった場合は「こういう形で現役を終えることはできない」と発表し、ファンの皆さんのためにもう1シーズンプレーすることも考えました。
だから全治6週間の見込みと分かった時は本当にホッとしました。膝をケガする時は、どうしても前十字靭帯の損傷など深刻なモノを想像してしまいます。手術する必要がなく、シーズン中に100%の状態で戻れると分かって安心しました。ただ、欠場している間、出場できないアウェーゲームがあり、最後に僕のプレーを見てくれるはずだったファンの人たちにお別れの挨拶ができなかったのは悲しかったです。不幸なタイミングでの故障でしたが、幸運なことにシーズンで最も重要な時期に復帰することができたととらえています。
「今はコートにすべてを置いていくつもりでプレーしています」
――復帰してからすぐに30分近くのプレータイムと、いつものようにフル稼働しています。
これは僕が望んでいることです。そしてラストシーズンだけど、僕は高いレベルでプレーできます。「なんでこんなに出場しているのに引退するの?」と人々は混乱するかもしれないですが、僕はできるだけ多くの時間プレーすることで、チームが勝つ可能性を高めたい。これは川崎に加入してからの12年間ずっとやってきたことで、もう膝の状態は気にしていないです。もし、これから故障など何か起きたらそれまでだと思っていますし、今はコートにすべてを置いていくつもりでプレーしています。ファン、チーム、そして川崎という組織のためにすべてを出し尽くすことだけを考えています。そして、ここからはよりアグレッシブにプレーし、より多くの責任を背負っていきたい。数年前のように『ゴー・トゥー・ガイ』の部分を強めていきたいです。
――これまで川崎はリーグ上位の常連でした。それが今はCS出場圏外です。そのことにストレスを感じはしないですか。
チームは現状をしっかりと受け入れています。これまでは、この時期になるとポストシーズンでのシードを気にしていたのが、今はチャンピオンシップに出場できるかを争っている。上位に対して、僕たちはアンダードッグ。これは今までと違うことなので混乱するかもしれないです。もちろん、アンダードックではないに越したことはないです(笑)。でもすべてのシーズンはどんな状況になるか分からないものです。
今は目の前の試合でベストを尽くすことだけを考えるだけで、いかにベストの川崎を出せるかに集中しないといけないです。そして、みんながヘルシーで万全な状態となれば、川崎が強力なチームであることはリーグのみんなが分かっていると思います。
「僕らが一緒に10年近くプレーすることを許してくれた組織に感謝している」
――あらためて、一つのチームに12年間在籍したことは本当に稀なことです。そのことに関して、どんな思いですか。
同じ組織で12年間もプレーできたことは幸運な面もあります。ただ、僕は川崎にずっと在籍したかった。そしてこれだけの期間、チームに必要とされるためにできることのすべてをやってきました。これは、僕がどれだけ川崎というチーム、街を愛していたかの証明だと思っています。
――周囲は、これから『ニックの最後』という意識がより高まり、チームメートもそういう思いが強くなっていくと思います。
正直に言って、自分のことを周りにはあまり意識してもらいたくないです。(篠山)竜青、(藤井)祐眞、ハセ(長谷川技)とずっと一緒にプレーしていた選手たちにとって、僕たちが一緒にプレーできるラストシーズンというのは大きな意味を持っていて、大きなモチベーションになっていると思う。そして、僕らが一緒に10年近くプレーすることを許してくれた組織に感謝しています。ただ、彼らのように長い期間ではなく、今シーズンから加入した選手、数年だけ一緒の選手とかには、僕のラストシーズンだと特別に意識せずにプレーしてもらいたい。
――残りの試合、最も大事なのはどんなことになりますか。
何よりも精神面で、すべての試合でしっかり準備をすること。どんな試合もプレーオフのように絶対に勝たないといけない一戦となる。そして、自分たちのクオリティーについて自信を持つことです。
――最後にファンへのメッセージをお願いします。
ファンの皆さんにはできる限り会場に来て、僕のプレーを見てほしいです。もし、会場に来られなかったら配信で見てほしい。これまでのサポートを本当に感謝しています。そして、皆さんの期待していることを成し遂げたいです。
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