川崎ブレイブサンダース

「今やれるすべて」をぶつけた結果の28点差

「この試合にかけていろいろ準備してきました。選手たちには今持っている武器というか、自分たちが今やれるすべてをぶつけようと話して、最後の最後まで足を動かして頑張ってくれたと思います」

2月14日に行われた天皇杯準決勝で、琉球ゴールデンキングスに70-98で敗れた後、川崎ブレイブサンダースの佐藤賢次ヘッドコーチは沈痛な面持ちでこう言った。

一方、琉球の桶谷大ヘッドコーチは「会心のゲームができた」と顔をほころばせた。オフェンスはペイントアタックとそこからのキックアウトスリー。ディフェンスはヘルプに行かず1対1で守り切る。シンプルなバスケットで勝ち切った。昨シーズンに喫した敗戦の教訓から局地的な戦術も用意していたと明かしたが、それを出す前に勝負は決していたと話した。

それぞれの言葉を100%真に受けるならば、28点という点差は、現時点における両者の純然たる『力の差』に近しいものだったのかもしれない。

両者はこの対戦の一週間前にも対戦している。リム周りでアドバンテージを握れるニック・ファジーカスとジョーダン・ヒースの欠場を受け、佐藤ヘッドコーチはトーマス・ウィンブッシュ、ロスコ・アレンを軸に、機動力を押し出したスタイルを選択。琉球から17ターンオーバーを誘い、第4クォーター終盤に5点差まで詰め寄ることに成功している(結果は75-87で敗戦)。

天皇杯準決勝のスターティングラインナップは藤井祐眞、野﨑零也、鎌田裕也、ウィンブッシュ、アレン。一週間前の対戦から増田啓介と鎌田を入れ替えたのみで試合に入ったが、いずれの選手もシュートタッチがよくない。佐藤ヘッドコーチは第1クォーター5分、9-9という場面で篠山竜青、ファジーカス、新加入のエリック・マーフィーを投入し、『機動力』でなく『高さ』を優先させた。

川崎ブレイブサンダース

開始5分で崩れたリズムはそのまま戻らなかった

しかしこれが裏目に出た。2月10日に復帰したファジーカスをケアするために使ったのであろうゾーンディフェンスを、琉球に的確に攻め立てられた。第1クォーター終了までの8回のポゼッションのうち5回で3ポイントシュートを放たれ、うち3本を成功させられ、15-24で第1クォーターを終えた。

川崎が第1クォーターに放った8本の3ポイントシュートのうち、成功したのは1本のみ。佐藤ヘッドコーチは「序盤のオープンスリーを決め切れていれば試合展開は変わった印象か」という記者の問いにうなずき、上記の選手起用によって「少しリズムが崩れてしまった」と言った。そして開始5分で崩れたリズムは、タイムアップまでついぞ回復しなかった。

第2クォーター早々に使ったウィンブッシュ、ファジーカス、アレンというラインナップは、リバウンド面では功を奏した。しかし、オフェンスにおけるボールと人の動きが停滞し、ウィンブッシュとアレンが持つダイナミックなアタック力が生かされなかった。ゾーンディフェンスは第1クォーターと同様に綺麗に破られ続け、試合を通じて36本の3ポイントシュートを41%という高確率で沈められた。

自チームの3ポイントシュートは29本試投の31%だったが、3ポイントシュートを打てる納見悠仁は出場7分、益子は出場3分、飯田遼は不出場(長谷川技の出場も3分だったが、テーピングをしていたのでコンディション不良と判断)。一週間前の対戦でスタート起用され、アレン・ダーラムを押さえた増田も出場5分に留まった。

内容より結果が欲しい一発勝負のトーナメント戦かつ、突破口がつかめない展開。それでも彼らのプレータイムが増えなかったのは、コンディションや力量に問題があったからなのか。佐藤ヘッドコーチに問うと、リバウンドを最優先にラインナップを組み立てた影響だと説明した。

 

藤井「12月からずっと苦しかったです」

沖縄アリーナの記者席は、28メートルあるコートの横面が一視界に収まる、遠くて高い場所にある。タイムアップのブザーが鳴ったとき、筆者はそこから双眼鏡でコートを見渡していたのだが、川崎の面々で唯一汗を光らせていたのが藤井だった。

藤井はウィンブッシュに次ぐ30分47秒コートに立った。第2クォーターに負傷し、以後はテーピングを巻いて出場(第4クォーターで気づいたら外れていた)。フィールドゴール4/12の11得点、2リバウンド、3スティール、4アシストというスタッツに物足りなさはあったが、最終クォーター終盤、すでに勝敗が決した状況でも激しく戦い続けた。

試合の総括を求められた藤井は、次のようにコメントした。

「負けて非常に悔しかったですが、ただ………まぁ、できることはやったというか。琉球さんのインサイドが強くて、そこに対していろいろ準備してきたんですけど、それをうまくかいくぐられてしまいましたし、全部攻略されてしまった。本当に苦しかったんですけど、最後まであきらめずに戦い抜いたっていうところは……はい。それだけですね」

ブレイブサンダースに一時代をもたらしたファジーカスが引退を表明した今シーズン、クラブは『All-In この場所 この瞬間に すべてを懸ける』というスローガンを掲げた。シーズン序盤は新戦力たちがうまく噛み合い、上々のスタートを切ったものの、その勢いは次第に薄れていった。記者会見で試合総括を語る佐藤ヘッドコーチの声のトーンは、黒星を重ねるごとにどんどん低くなっていった。

藤井への質問は時間の都合で一問に限られた。「今のチーム状況をどう感じるか」という非常に漠然としたことを尋ねると、藤井は困ったような小さな笑みをたたえ、普段よりゆっくり言葉を口にした。

「ケガ人が出たりして、12月からずっと苦しかったです。ずっと苦しくて、ようやく形が見えたというか、自分たちのリズムを取り戻したかなと思っても、次の試合でまた戻ってしまったりっていう。ちょっと、本当にどうしたらいいのかわからないみたいな、そういう状況だったんですけど」

ここぞというシュートを沈めた。身体を張ってボールを奪った。それでもチームは思うように勝てない。選手として、ガードとしての苦悩を強く感じる言葉だった。

チームはBリーグレギュラーシーズンで21勝18敗、中地区4位の位置にいる。3位のサンロッカーズ渋谷は同じ21勝18敗、2位のシーホース三河とのゲーム差は4。他チームに大きな優位性を示せるファジーカスも復帰した。レギュラーシーズン残り21試合で2位まで順位を上げ、チャンピオンシップに進出することはけっして難しいことではない。

「ちょっと遅いかもしれないですけど……ここからっていうのはあります。本当にみんな頑張っていますし、やりたいことをやろうとしているのに、なかなかうまくいかないというのが長く続いている状況ではあるんですけど」。重い口調で、藤井はそう言った。

バイウィークを経て、今週末から再びレギュラーシーズンが再開する。2週間弱の期間を活用し、指揮官はどのような手腕をもって現状を超える術をチームに授けるのか。藤井の苦しみは晴れているのか。まずはバイウィーク明けの初戦、横浜ビー・コルセアーズ(17勝22敗、中地区6位)との神奈川ダービーに注目したい。