文・写真=小永吉陽子

インカレMVPがぶつかっている『プレースタイルの壁』

筑波大に在籍しながらサンロッカーズ渋谷に特別指定選手として入団した杉浦佑成。身長195cmでフィジカルコンタクトに強いプレーを持ち味とするインカレMVPは、大学の相棒である馬場雄大とともに日本代表重点強化選手の30名まで残り、2回にわたる強化合宿に参加した。

最終的にはイラン戦の代表メンバーに残ることはできなかったが、オールジャパンでアルバルク東京から28得点を奪う奮闘を見せるなど、将来に期待がかかる選手だ。

そんな期待の大学生に話を聞いてみると、日本代表の練習で持ち味を発揮できなかったこともあり、今の自身のプレーに危機感を抱いていた。

国内でプレーする分には問題はない。福岡大学附属大濠高時代からエースとして活躍し、ウインターカップでは準優勝。筑波大では馬場とともに入学時から主力となり、インカレでは負けなしの3連覇に貢献している。たが、そうしたエリート街道を歩みながらも、国際大会においては悔しい思いをたくさん味わってきた。高校2年で選ばれたU-18代表や、大学2年で出場したユニバーシアードではベンチを温める時間が長く、そのたびに「もっと自分の武器を作らなくては」と決心して帰国している。

今の杉浦を現すならば、3番(スモールフォワード)にはなりきれない4番(パワーフォワード)。インサイドプレーはするがゴール下が主戦場というわけではなく、かといってトランジションで走り込むにはスピードが足りず、アウトサイドのディフェンスを学ぶのはこれからという状態だ。

今回の日本代表の練習でも4番での起用となり、「3番の練習ができると思っていたので、ちょっとがっかりしています」と肩を落とす。大学では問題がなくとも、上の世代に混じり、国際大会で通用するかといえば、まだ3番としての武器は見えてこない。

3番起用を希望して飛び込んだBリーグの特別指定選手

それでも、杉浦がアンダーカテゴリーの代表に下級生の頃から選ばれ続け、大学3年で日本代表候補に抜擢されているのは、フィジカルコンタクトに負けない身体の強さと崩れない安定感があり、日本には少ない3番と4番を兼任できる可能性があるからだ。

例えば杉浦の持ち味の一つとして、フェイドアウェイシュートがある。これは高校時代に繰り返し練習して習得したもので、決して苦し紛れのタフショットではないことが強みだ。「ゴール下に入っていくより、後ろに下がるほうがスペースを確保できるのでストレスなく打てます」と言うまで自分のモノにしたこの得意技は、大学界では止めることができない。

また、大学2年の李相佰杯(日韓学生選抜)の時に、元日本代表のシューターとして活躍した池内泰明監督(拓殖大)に身体の使い方や重心のかけ方を学んでからは3ポイントシュートを打つ際に余裕ができ、要所で決め切る力がついている。

プレーの幅は確実に広がってきている。だから決心したのだ。「特別指定としてBリーグでプレーすれば、オフの時間を有効に使えるし、3番としての経験ができるんじゃないか」と。

しかし、期待に胸を膨らませてSR渋谷に入団したものの、登録された1月18日から5試合が経過したが3試合はコートに立てず、最高で4分21秒の出場。いまだ無得点という状態だ。「Bリーグにいる時間が無駄になってしまわないかと、今はちょっと焦り始めています」と、飛び込んだ先のBリーグでも壁にぶつかっている。

だが、それもそのはず。オールジャパン後は大学の授業で介護実習が一週間ほどあり、日本代表の合宿にも参加しているため、チーム練習にはあまり参加できていない。ましてや、今年に入ってからの5試合で1勝4敗と負けが先行している状態では、チームのシステムを理解していない大学生が起用されにくい事情もあるだろう。練習にしっかりと参加できる2月からが勝負である。

ハンドリングを身につけることから始まる3番への道

3番のプレーをするにあたり一番に習得すべきは何か。本人は『ハンドリング強化』を課題に上げる。

「アウトサイドのプレーをするなら最低限ハンドリングがないと話にならない。ハンドリングのなさを補えるシュート力あればいいですけど、自分はそこまでのシュート力はなく、日本代表では危なっかしいプレーばかり。アウトサイドで迷ったプレーをしないためにはハンドリングが必要です」

現在、日本代表では4人のサポートコーチを導入し、練習の前後に希望する選手にスキルトレーニングを行っている。杉浦はそれを利用し、12月と1月の2回の強化合宿でハンドリングとアウトサイドシュートを中心に練習した。日本代表の練習の前後に行うので練習量としてはハードだが、「サンロッカーズでチーム練習はできますが、個人の練習も必要なので、すごくためになっている」と意欲的に取り組んできた。

目指すは高校の先輩である金丸晃輔(シーホース三河)のようなプレースタイル。「3ポイントを打ち、走り、時にはポストアップもする金丸さんのような、何でもできるプレーにあこがれます。やっぱり、この身長では3番にならないと日本代表に入れないので、今は自分のできることを探していき、自分なりのスタイルを見つけていきたい」

インカレMVPを受賞してもなお、自身のプレーに危機感を感じているのは、高校や大学の下級生時から国際大会に出場し、大学3年でプロの世界に飛び込み、同世代よりも一足先に上の世界を見て、経験値を上げているからこそ。これまでも悔しさをバネにして着実にステップアップしてきた。今は飛び込んだBリーグでプレータイムを得る挑戦をすることが、成長へとつながっていく。