キリアン・ヘイズ

トロイ・ウィーバーGMの下で不可解な動きが続く3年半

トロイ・ウィーバーは2020年の6月にピストンズのGMに就任した。直近の10年間でプレーオフ進出は2回のみ、いずれも1勝も挙げることができずファーストラウンドで敗退しているピストンズにやって来た彼は「再建ではなく復活させる」と力強く宣言した。当時すでに若手中心の再建で結果を出しつつあったサンダーで、サム・プレスティのアシスタントとして長く働いた経験を持つ彼は、その手法をピストンズにも持ち込んだ。しかし、そこからピストンズは20勝、23勝、17勝と低迷し、4年目の今シーズンはリーグ記録に並ぶ28連敗を記録して、4年目にして最低の成績を収めようとしている。

思えばウィーバーGMのチーム作りはその初手から不可解だった。『キャリアの再生を図るベテラン』と言えば聞こえは良いが、ピークを過ぎてコンディションに難のあるブレイク・グリフィンとデリック・ローズをキープしたまま、ルーク・ケナードやトニー・スネル、ブルース・ブラウンとチームが育ててきたタレントをあっさり放出。それと同時にメイソン・プラムリー、ジェレミー・グラント、ジャリル・オカフォーとベテランを獲得し、再建とは逆の手を打った。結局、グリフィンもローズも、その時に獲得したベテラン勢もチームには残っていない。

そして、トレードで得た指名権も使ったその年のNBAドラフトではキリアン・ヘイズ、アイザイア・スチュワート、サディック・ベイの3人を1巡目で指名。しかし、ベイは昨年にトレードされ、今回はヘイズをウェイブして、残っているのはスチュワートだけとなった。

ヘイズは2020年の1巡目7位指名選手。豊作と言える年ではなかったにせよ、タイリース・ハリバートンが12位でタイリース・マクシーが21位、デズモンド・ベインが30位にいた年だ。ヘイズはフロントが思うような成長曲線を描けなかった。ディフェンスとプレーメークには長けているがシュートが苦手で得点力がなく、今シーズンも3ポイントシュート成功率29.7%と、この部分での成長が見られなかった。今シーズンから指揮を執ったモンティ・ウィリアムズはヘイズの才能を見込んで先発のチャンスを与えているが、結果は出ず。それでも、ピストンズがこのタイミングでヘイズを手放したのは、ヘイズがこのチームの将来を悲観し、契約延長に応じず退団するつもりだったからだとされる。言わば若手に見限られていたわけだ。

今回のトレードデッドラインでは多くの動きを見せ、クエンティン・グライムズ、シモーネ・フォンテッキオ、マイク・マスカーラ、マラカイ・フリン、シェイク・ミルトン、トロイ・ブラウンJr.を獲得。ダニュエル・ハウスJr.、ライアン・アーチディアコノ、ダニーロ・ガリナーリは獲得したがそのままウェイブし、それでもロスター枠が足りないためにジョー・ハリスとヘイズもウェイブした。

優れたディフェンダーでありシューターであるグライムズやフォンテッキオは即戦力として計算できるが、ボーヤン・ボグダノビッチにアレック・バークス、モンテ・モリスを放出しているのだから、戦力はせいぜい現状維持だが若返りを図ったということだろう。彼ら経験ある新戦力がチームを底支えする間に、ケイド・カニングハムにジェイデン・アイビー、アサー・トンプソン、ジェイレン・デューレンといった生え抜きの若手の成長を待つのがピストンズの狙いだ。

しかし、1巡目指名権3つを持っていた2020年オフから3年半でチームは成長するどころか後退している。ヘイズに見限られたという事実も重い。今のサンダーには若手がモチベーション高くバスケに取り組み、チームとして結束して成長し、様々な障害があっても言い訳をせず結果を追い求めるメンタリティがある。ロスターを頻繁に、そして大幅に入れ替えるだけでなく、そのメンタリティを根付かせることが、ピストンズ復活には欠かせない。若いチームにはまだチャンスがあるが、オーナーからプレッシャーを掛けられているというウィーバーGMにはもう後がない。