大上晴司

福岡の強豪・精華女子は3年ぶりのウインターカップ出場となった。県内の競争が激化し、去年はコロナ禍に見舞われた。大上晴司コーチは辛苦を味わいながらも、生徒の笑顔が増えるような環境作りに腐心する。今年度から留学生アキンデーレー・タイウォ・イダヤットが加わり、4年ぶりの出場となったインターハイは8強入りしたものの、ウインターカップ予選でタイウォが負傷。再び苦しい状況に立たされながら、4強入りという挑戦を生徒と楽しんでいる。

「現在地が分からない状態」

──久しぶりの登場ですが、これまでの道のりを振り返ってください。

インターハイは4年ぶり、ウインターカップは3年ぶりの出場です。苦しい期間を選手と過ごしてきました。福岡県に留学生のいるチームが増えて、ライバルの福岡大学附属若葉さんには中学時代に全国大会を経験した選手が数多く入ってくる中で、リクルートにも苦戦していた時期でした。去年は新型コロナの影響で、インターハイ予選を辞退せざるを得なくなってしまいました。ウインターカップ予選だけ出場できたんですけど、それまでは勝つことも負けることもできないで練習に取り組まなきゃいけない、辛い時期を過ごしました。今年度、ナイジェリアから留学生を迎え、インターハイ、ウインターカップを目指していこうと、良いスタートが切れたと思っていました。

留学生が入って、言い訳を捨てられたと思います。予定より2カ月ぐらい遅れて4月末に来日できました。とても明るくチームにすぐ馴染んでくれています。インターハイ予選はまだちょっと無理だろうと思っていたら、戦術的にも体力的にも順応して予選から出られました。

去年の1年間は自分たちの現在地がどこなのか分からない状態でした。選手に明確に示していく仕掛け作りに苦しんだし、選手も練習をとにかく頑張るだけで、非常に苦しかった。練習の節々に私自身がもがいている部分が出ていたのかもしれません。今年タイウォが入ってきて、いかに笑顔でコミュニケーションを取っていけるかを目指し、笑顔が増えたことでチームにも好影響が出ました。元々、彼女たちは良い表情で取り組んできましたが、その環境、仕掛け作りが一番のテーマでした。

──インターハイに出て現在地が分かった。

全国で苦しみながら勝てましたし、準々決勝は京都精華学園さんなどトップレベルのチームと試合をさせていただきました。ファウルトラブルがあったんですが、十分に戦っていける手応えを私自身も生徒も感じたことが一番の収穫でした。ウインターカップでこの壁を乗り越えようと、ベスト4を目標に設定しました。トップリーグにも参戦し、初戦で岐阜女子さんに一つひとつ格の違いを見せつけられました。桜花学園さん、京都精華さんとも試合をさせていただき、ウインター予選も並行してやれたので、素晴らしいキャリアを積ませていただきながら、チーム作りができました。

開始数十秒で留学生の負傷「負けた光景がよみがえった」

──予選最終戦でタイウォ選手が負傷して今大会に出られません。

トップリーグで良い経験をさせてもらい、昨年のインターハイ、ウインターカップと全国ベスト4のキャリアがある東海大学付属福岡さんとの予選最終戦を迎えました。6月の2度の対戦から修正して臨んだのですが、開始15秒ほどでタイウォがケアをしてしまいました。状況的に厳しいのは、すぐに分かりました。

私だけでなく、選手も同じように感じ取っていました。あの瞬間に残り39分30秒余りをゲームプランや戦術的なことも含めて、頭を切り替えてなければいけないという思いでした。ベンチでタイウォが苦しむ状況も心配だったのですが、何とかゲームに集中しようと。前半は外のシュートが入ってくれたので、うまく平面で高さと戦うことができました。さすがに後半になると、高さ、リバウンドを完全に支配されました。去年、一昨年とウチが苦しんで負けたゲームの光景がよみがえりました。ディフェンスを変えたりしていたんですが、全てタイウォありきの準備でした。タイウォを欠いた布陣はそこまで長い時間を想定していなかったので、ゾーンディフェンスもしましたが、準備通りにはいきませんでした。

決勝戦をあきらめずに戦ってくれたのは大きかったです。その後、タイウォが間に合わないと選手に話しました。もう1度、今までやってきた自分たちのバスケをしっかり準備して臨もうと。トップリーグでも、スモールラインナップでの戦い方を試せました。切り替えてチャレンジできる試合が残されていたのは大きかったと思います。

──対戦カードが発表されました。

トップリーグではタイウォが点数を取った分だけアドバンテージがありましたが、タイウォ不在となるとリバウンドなどでリスクを背負います。組み合わせが決まった時に、当然1回戦の千葉経済大学附属戦がヤマになると思うんですが、準々決勝まで勝ち上がれば札幌山の手と当たる可能性が高い。トップリーグのリベンジを果たして目標を達成するには、一番良い組み合わせじゃないかなと思っていますね。

大上晴司

「内に秘めず、外に出した分だけ新しいものが入ってくる」

──大会までに強化する部分は。

私がやるんだという積極的な思考を、毎日の練習の中でも、生活の中でも、前面に出すことが技術、スキルの面、リバウンドなど一つひとつを成功させる鍵となると思います。練習でも伝えたのは「内に秘めるより、とにかく出して欲しい」と。出しまくった分だけしか、新しいものかは入ってこないので、言葉、勇気を積極的に出していこうと。その結果、練習の雰囲気がガラッと変わってきました。こういう状況でもまだチャンスが残されています。幸せを全員で噛みしめながら挑戦していきます。

──全国の皆様にメッセージを。

挑戦することを楽しむことだけはどのチームにも負けません。それをコート、ベンチ、そして応援席からみんなで表現できたらと思います。タイウォがけケガをして、 小さいチームになります。全員でゴールを目指す姿勢や総勢50人という大きな組織が一つになって、目標をつかみに行く組織力を見てほしいです。