東山は今年、春から急成長を遂げて夏のインターハイでは準優勝に輝いた。佐藤友(3年)、瀬川琉久(2年)、ルーキーの佐藤凪という『三銃士』を擁し、大澤徹也コーチは代名詞のオフェンスに加え、ディフェンスの強化を成功させた。選手層も厚みを増し、ウインターカップでは優勝候補に挙げられている。躍進の背景、ライバルの洛南が全国の切符を逃した、激戦区京都の現状を語ってもらった。
例年6番手で悩んでいたが「セカンドユニットがウチの武器に」
──東山の評判が急激に伸び、優勝候補に上げってきています。
インターハイに入る前、4月末にあった飯塚カップなどで、チームを完成させるために試した部分がたくさんありました。全国に向けた材料作りをいろいろやっていてインターハイである程度でき、トップリーグやカップ戦でも戦える自信がつきました。オフェンスに費やす時間に変わりはないですが、ディフェンスへの意識は多分、今までと大きく変わりました。ゲームが安定するようになり、ディフェンスでも計算ができるようになりました。前は失点が70でウチの得点が90くらいでしたが、60点台ぐらいに失点を抑えられるようになりました。
──フィールドゴール成功率が上がっているように感じます。
判断が明確になったのかもしれません。行かなきゃいけないところは行く、さばくところはさばく。ストロングポイントの瀬川や佐藤友、佐藤凪が連動すると、相手も的が絞りにくくなります。瀬川が無理をしなくなったし、大黒柱の佐藤友が泥臭いことを頑張ってくれる。プラスアルファして凪や他の選手が連動するようになってきたのがそのイメージに繋がっているかもしれません。
──トップリーグを通じて収穫は。
一番の収穫はセカンドユニットが全国の強豪校さんと戦えたことで、ウチの武器になっています。
──選手層の薄さが課題だった東山さんからセカンドユニットというフレーズを聞いたことがない気がします。
まさにその通りです。昔の東山のイメージは5人は飛び抜けているけど6番手で悩んでいたことが多かったです。今年は10人から12人をきっちり使え、いろんなオプションができました。逆にストロングポイントが飛び抜けたモノになっていないんじゃないかという不安はあります。
──ウインターカップ予選は苦戦しました。背景に何があったのでしょうか。
トップリーグの良かった部分が、京都府予選では逆に働きました。9月24日の福岡大学附属大濠戦で瀬川が足首を捻挫して1カ月離脱しました。1年生の留学生のカンダ・マビカ・サロモンも膝を故障し、佐藤凪は国体で抜けていました。その間にチーム力がぐっと上がった分、3人が戻ってきて不協和音が生じ、瀬川の調子が全く上がらなかったです。京都精華学園戦の最後の2分間は瀬川の強さが出ましたが、不合格の試合でした。
──ライバルの洛南が敗退しました。京都の勢力図が変わってきたのでしょうか?
勝ち続けていた洛南を倒すために私たちも努力してきました。大きな存在ですが、京都精華さんは中学校の実績がある選手がそのまま上がり、鳥羽も京都のトップの子たちが集まる。京都のレベルは間違いなく上がってきています。それでも、ウチ以外にやられているのを見るのは抵抗があるし寂しい。言葉でうまく伝えられないですが、強い洛南であってほしいと思います。昨年はウチがインターハイもウインターカップも出られなかったです。同じように今年の経験が洛南を強くさせる材料になる可能性もあります。
──昨年に悔しい思いを経験した3年生の存在は大きいのでは。
3年生の負けたくないという気持ちは練習にも、試合にも出ていると思います。昨年の経験は原点になっています。あそこがなかったら、ここまでのチームにはなっていないでしょう。先輩たちに対する思いもあり「勝って恩返ししなきゃいけない」という経験をさせてもらいました。
「久夫先生を超えるチーム作りが恩返しになる」
──仙台大学附属明成の佐藤久夫先生が亡くなられました。
私は高校生の時にも久夫先生にお世話になりましたし、指導者になってからもお世話になっていた大きな存在でした。恩返しとして、勝ちたかったんですよね。2020年のウインターカップ決勝でやられた時も、乗り越えなきゃいけない壁でした。私たちの世代の指導者が久夫先生を真似するわけではなく超えていくために、もっと良いチーム、バスケットを作って、それを見てもらえたらと思っていました。これから頑張る一つの材料になり、「久夫先生、見ていてください」と、一つの覚悟が決まりました。
──恩師の田中幸信先生は今もご健在で交流があり、良い引き継ぎができていますね。
良い意味だったらいいんですけど、今でも頼ることはあってオフェンスを修正してもらったり、まだ甘えている部分はあります。東山が今、全国で戦えるチームになったのは、田中幸信先生が残してくれた財産が大きいです。「都合が良い時だけ頼りやがって」と思われるかもしれないですが、監督とアシスタントコーチでいた時よりも、今の方が気兼ねなく聞けて、良い距離感で接していただいています。
──大澤コーチ自身がやりがいを感じて、波に乗っているように見えます。
すべて子どもたちのおかげです。去年、「バスケットから離れちゃうんじゃないか」という思いをしました。それでも「下を向かずにやっていきたい」、「これを貫きたい」と毎日頑張っている姿を見せられると、「こっちも負けてらんねえぞ」となります。確かに充実感はすごく高いし、間違いなく集中できています。
──チームの一体感が高いのは、大澤コーチとプレーヤーの関係性以外の要素もありますか。
保護者の協力はマストです。今年はトップリーグにも応援に来ていただきますし、助けてもらっているのでありがたいです。一番大きいのは山﨑健太郎アシスタントコーチの加入です。今まで自分でやっていたのを山﨑先生に助けてもらえる。歳も近いですし、報徳学園出身でウチの卒業生じゃないから、いろいろと教えなきゃいけない、丁寧に扱わなきゃいけないという距離感でいけます。山﨑先生がやってくれていることを私が理解して、良い関係ができています。
今年はリクルートが重なるので、1人じゃ限界があります。「今日はいないから、こういう練習をしてほしい」と伝えた時に、ちゃんと実践してくれています。彼も1年目で必死にやってくれている部分が子どもたちにも伝わって、良いバランスができています。
「瀬川にはもう一皮むけて欲しい」
──対戦カードが発表されました。
京都1位で出るのは久しぶりです。今年のチームは対戦相手より、ウチのバスケットがいかに当たり前にできるかというのがポイントです。うまくいかない時に誰がカバーするのか。コミュニケーションや人間力が鍵になる。そこさえきちっと抑えておけば崩れにくい。崩れた時の対応力を準備します。
──キーマンは誰ですか。
ガードの瀬川です。前までは点数を取ればいいポジションでしたが、ゲームをコントロールしなきゃいけない。彼の得点力は武器なんですけど、佐藤友や凪を使う、他の選手を使うオプションをもっと見せて、自分の良さを生かしていくためにはもう一皮むけないと。インターハイの決勝はそこができず、瀬川が崩れてチームも崩れてしまった。そこは乗り越えなきゃいけないところですね。
──全国の皆さんにメッセージをお願いします。
インターハイは準優勝で、もう1歩でしたが、1年ぶりに帰ってきた大会であそこまで行けたのは収穫でした。ウインターカップで東山らしいバスケットを5試合やっていきたいです。ワールドカップで盛り上がった熱を、高校バスケでも体現できたらなと思います。子どもたちと面白い試合をたくさんしていこうと話しています。