ジョー・イングルス

膝の大ケガを乗り越えた36歳、新しい場所と新しい役割

マジックは今シーズンの『台風の目』となっている。昨シーズンは34勝、NBA全30チームで下から6番目の成績だったチームは、ビッグネームの補強がなかったにもかかわらず12勝5敗と好調だ。直近ではナゲッツにセルティックスと東西カンファレンスのトップチームを『喰う』ことに成功したマジックは、現地11月26日にホーネッツに130-117で勝利し、連勝を7に伸ばした。

ビッグネームの補強はないと書いたが、NBAでよく知られた名前であるジョー・イングルスの加入が効いている。イングルスは36歳のベテランで、ロールプレーヤーではあるが攻守の質の高さを武器にジャズで長く活躍した。それでも一昨シーズン途中に左膝前十字靭帯を断裂し、ジャズを離れることになった。

この年齢での大ケガは『選手生命の危機』に他ならないが、彼は自分のプレースタイルを「身体能力に依存しないもの」と言い切ってリハビリに専念。昨シーズンにバックスで復帰を果たすと、今オフにマジックへ移籍した。優勝候補のチームを名脇役として支えてきた彼が再建チームでプレーすることは『格落ち』ととらえられてもおかしくないが、彼はここでもモチベーションを見いだし、仕事に取り組み始めた。

「どこでプレーするかの問題より、家族が幸せでいられるかどうかの選択だった」とイングルスは語る。「息子のための良い学校があって、暮らしやすい環境があり、天気も良い(笑)。それに加えてコーチ(ジャマール・モズリー)とは面識があって、マジックがどんなチームでどこを目指しているのか、そこにベテランの一人として加わることがどんな意味を持つのかを聞くことができた。それが分かればバスケの面はだいたい上手くいくものさ」

モズリーは現役選手だった20年前にオーストラリアのNBLでプレーした経験があり、オーストラリアのバスケ界と繋がりが続いていることでイングルスとも面識はあったそうだ。それがイングルスのマジック入りを後押しした。

ベンチスタートであることについてイングルスは冗談っぽい口調で「控えを受け入れたわけじゃない。新しいチームに来て、今は調整期間なんだ」と言う。「15分から25分ぐらいの出場時間でアグレッシブに、効率の良いプレーをしようとしている。プレータイムが短いことに不満はないよ。嫌だったらここには来ていない。ただ、自分にできるベストが何なのかは追い求めたい。このチームではセカンドユニットはただの控えじゃなく、重要な役割を持っている。だから他のチームなら先発できるメンバーが揃っているし、僕ら自身も誇りを持ってその役割をこなしている」

モズリーはディフェンス主体で粘り強く戦って接戦に競り勝つチームを目指し、スタメンと遜色のないセカンドユニットを組み、48分間プレー強度を落とさない戦い方を望む。イングルスの役割はロッカールームのリーダーであり、セカンドユニットの牽引役。シューターとしての役割はもちろん、彼がハンドラー役となりコール・アンソニーをオフボールでプレーさせることもある。

先発の面々が若い勢いを前面に押し出すのに対し、セカンドユニットはイングルスにギャリー・ハリスとベテランの色が光る。スターターが優位な試合展開を作れればそれで良し、そうでなければセカンドユニットが落ち着いて仕切り直す。今のマジックは若手の有望株が多いが、若い勢いに任せて戦おうとはしていない。タフに、しぶとく、賢く戦おうとするチームにあって、イングルスの影響力は大きい。

モズリーはイングルスへ全幅の信頼を置き、彼への信頼をこう語る。「ジョーは勝利の中で生きてきた。主役を演じた時期もそうでない時期も経験し、NBAで成功を収めるために必要なこと、若い選手がどう振る舞うべきか、そのすべてを教えられる。才能はあるが勝つ経験に乏しいチームにとって、ジョーはかけがえのない存在だ」

マジックの7連勝は、2010年の暮れから2011年の年初にかけてのチーム記録である9連勝以来のもの。「僕たちは若いチームで、それは未熟という意味も含んでいるかもしれないけど、今のところは愉快なシーズンになっているよ」とイングルスは言う。大ケガを乗り越えた36歳は、新しい場所と新しい役割を気に入り、イキイキとプレーしている。