カワイ・レナード&グレッグ・ポポビッチ

「彼らにプレーさせてあげられないだろうか」

スパーズvsクリッパーズの第2クォーター残り2分、カワイ・レナードはフリースロー2投を得て、ブーイングの中で1本目を決めた。2本目を投じようとする際に「ちょっと待ってくれ」との声が響いた。声の主は、テーブルオフィシャルにあるマイクを握ったスパーズの指揮官、グレッグ・ポポビッチだ。

「ブーイングを止めて、彼らにプレーさせてあげられないだろうか。品がない。そんなのは私たちじゃあない」

試合は序盤からクリッパーズが主導権を握り、この時点で48-39とリードしていた。サンアントニオのファンとしては、まだ前半だとしても少しずつストレスを溜めていた。ただ、それはブーイングの理由ではない。カワイは2014年のスパーズの優勝に貢献し、ファイナルMVPに輝いた選手だが、去り方に問題があった。

カワイは右足四頭筋の腱障害で2017-18シーズンに9試合にしか出場していない。リハビリのやり方を巡ってチームのメディカルスタッフと衝突し、チームドクターが「プレーできる」と判断して出場を促してもカワイは応じず。この間にポポビッチの不仲説も浮上し、その1年後にフリーエージェントとなるカワイがスパーズを離れたがっているとの噂も流れた。このシーズン終了後にカワイはトレードを要求。ポポビッチが慰留するも考えを変えず、ラプターズへとトレードされた。

この時の経緯にスパーズファンは怒りを感じており、ラプターズからクリッパーズへとチームを変えた後も試合のたびにブーイングを繰り返している。ファンの怒りの根源は『移籍したくてケガを装った』であり、その後のカワイが現在に至るまでケガを抱えながらのプレーを強いられていることを考えれば事実ではないのだが、ファン感情は一度こじれると修復は難しい。

サンアントニオのファンやメディアはポポビッチを全面的に信頼し、尊敬しているが、今回ばかりは話が別のようだ。地元メディアの『San Antonio Express』は、今回のポポビッチの言葉に対するファンの反応として、「私は同意できない。ファンにはブーイングする権利がある」、「確かに感情的だが、熱狂的なファンの表現方法はそういうものだ」という否定的な言葉を紹介している。実際、ポポビッチがマイクで人々に呼びかけた時、まばらな拍手は起こったが会場はザワついた雰囲気で、ブーイングも小さくはなったが消えはしなかった。

カワイはこれまでも、スパーズファンから向けられる敵意について「退団の経緯が関係しているんだろう」と語っているが、同時にこうコメントしてもいる。「試合以外の場面で、例えば僕がサンアントニオの街を歩いていれば、普通に挨拶してくれる。ここで僕がやったことをリスペクトし、今でも感謝してくれる。だからブーイングはあくまで試合の一部分だと受け止めているよ」

そして今回も彼は静かにこう語った。「僕はただフリースローに集中していた。このブーイングが止まるとしたら、僕が再びスパーズのユニフォームを着た場合だけだろうね。でも、それが現実だ。彼らはリーグで最高のファンであり、ライバル意識が強い。僕がコートに一歩足を踏み入れたら、その時は敵なんだ」

試合後の会見でポポビッチは「スポーツに詳しい人なら誰だって、熊を突いたりはしないものだ」と語ったが、それ以上のコメントは拒否。彼にとっては心地良くない出来事だったようだ。