文=大島和人 写真=B.LEAGUE

「新潟の一体感を見せつけてやりたいと思っていました」

五十嵐圭はBリーグ発足とともに移籍し、新潟アルビレックスBBでプレーしている。名古屋ダイヤモンドドルフィンズは、昨シーズンまで6年間在籍していたチーム。そして21日は彼と新潟にとって初の名古屋戦だった。

言わば彼を「ソデにした」古巣に対して、どのような思いで試合に臨んだのか? 彼は爽やかに、でも力強くこう答えた。「チームメートもいましたし、ヘッドコーチもアシスタントコーチも変わっていないので、新潟の一体感を見せつけてやりたいと思っていました。今日の試合がそういう形になったので自分としてもうれしいです」

この日の五十嵐は28分41秒のプレーで、14得点6アシストを記録。得点とゲームコントロールの両面で大きな存在感を見せた彼の活躍を、庄司和弘ヘッドコーチはこう称える。「チームのバランスを取って、良いところを見てくれている。(シュートだけでなく)パスでもチームを円滑に回してくれた。リバウンドだったりディフェンスだったり、いろんなところに顔を出してくれている。ベテランの年齢ではありますが、チームの大黒柱です」

21日の五十嵐は第1クォーターこそシュート成功率が5本中1本にとどまった。しかし第2クォーターに入ると大爆発。残り9分22秒に3ポイントシュートを決めると、その後もセンターとの連携から効果的なリングへのアタックを繰り返す。高速ドリブルは36歳の今も健在で、名古屋のディフェンスは手を焼いていた。

第2クォーターの終了間際にはビッグプレーが出た。残り5秒のスローインから始まったポゼッション。五十嵐は自陣でボールを受けると3ポイントラインのかなり手前から超ロングシュートをブザーと同時に沈め、新潟は37-27で前半を折り返した。

「昨日今日の練習は自分の中でああいうシチュエーションを考えてシューティングをやっていました。なかなかああいう状況で決め切れていなかったので。軌道が良かったので、打った瞬間に入ると思いました。あのシュートで後半にいい形で入ることができたし、自分自身も乗ることができました」と彼は振り返る。

ドライブを警戒されても焦ることなくアシストで打開

五十嵐のドライブに苦しんだ名古屋は後半から守備を修正し、ゴール下に切れ込んでくる彼をダブルチームで抑えるように対応を変えた。しかし五十嵐にとってはそこも織り込み済みだった。

「去年も同じコーチの下でバスケットボールをやっていたので、名古屋の弱さを自分がコートの中で上手く突ければいいと思っていました。ピック&ロールのところで、相手を引き付けた中でのアシストが今日はできました。後半に入って自分のところにダブルチームに来るというところも、自分の中では想定内だった。焦らずコントロールできれば、良い流れに持っていけます」

そこには単なる古巣への意地ではなく、ベテランならではの冷静な計算があった。相手の手の内を熟知しており、自分が封じられても焦る必要はない。第3クォーターは五十嵐が相手を引き付けてからワイドオープンに開く形が面白いように決まり、彼は10分間で4アシストを記録。前半に無得点だった佐藤公威が五十嵐の後押しを受けて、後半だけで20得点を挙げた。

佐藤は「圭さんが狙いに行くのは当然なんですけど、圭さんが狙えなかった時にフォローしないといけない。来るだろうなという心構えを持っていた」と口にする。チームメートとの合わせは意識もタイミングも万全だった。

180cmの五十嵐が、この試合では5リバウンドを記録。第3クォーターだけでリバウンドを4つ取った。彼がリバウンドを取ることで、新潟は攻めの「一手目」をいい形で打つことができていた。彼はこう振り返る。

「自分自身がリバウンドを取ることで、速い展開に持っていくことができます。なるべくリバウンドに行く意識を強く持ってやっていました。流石に(ジョーダン)バチンスキー(218cm)と競ったら勝てなかったですけど(笑)」

「皆さんと笑って終えられるようなシーズンにしたい」

最終クォーターは5分ほどのプレーにとどまったが、試合の大勢が見えた中でベンチに引き上げる五十嵐にはブースターから万雷の拍手が飛んだ。アオーレ長岡に詰めかけた2325人も、この試合が五十嵐にとってどんな意味を持ち、彼がどれだけ大きな貢献をしたかを理解していた。

五十嵐は日本バスケの貴公子的な存在で全国区の人気者だが、新潟市上越市出身。郷土のローカルヒーローでもある。ただ新潟のチームでプレーするのは中学校以来。五十嵐は2003年に日立(サンロッカーズ渋谷)へ入社すると、その後はトヨタ(現アルバルク東京)、三菱電機(現名古屋)と実業団系のチームを渡り歩いてきた。

今は新潟でのプレーから新しい刺激も得ているようだ。彼のいう「一体感」はもちろん観客も含めたモノ。新潟は日本初のプロクラブで、地域の支えを受けて成り立っており、ブースターの熱も高い。

「故郷である新潟のチームに加入をして、本当にファンの方、ブースターの方と一緒に戦っているという一体感を感じながら、後押しをしてもらいながら戦えている。そこが今までいたチームとの違いを新潟に来て一番感じているところです。新潟の強みはここだというのを見せられて、今日は良かった」

チームは17勝14敗で中地区3位につけ、2位の三遠(18勝13敗)に迫っている。しかし彼が新潟でまだ何かを勝ち取ったわけではないし、現状に満足している様子もない。五十嵐はこう気を引き締める。

「あと足りないのは自分たちがもっと多くの勝利を届けるということ。皆さんと笑って終えられるようなシーズンにしたいなと思います。今はまだそこに向かって一歩ずつ進んでいっているような感じです」

故郷での挑戦がどう実るか? その答えが出るのはこの春になるが、五十嵐は15点を挙げた18日の横浜ビー・コルセアーズ戦に次ぐ活躍を見せた。チームもホームで連勝という最高の形で2017年のスタートを切っている。