タイリース・マクシー

「何が起ころうとも、僕らは前進し続ける」

クリッパーズとのトレードがまとまったことで、セブンティシクサーズはようやく『ハーデン問題』を解決させた。ダリル・モーリー球団社長は今夏にジェームズ・ハーデンに新たな契約をオファーしなかった。そこでハーデンが我慢するとの読みが外れ、その怒りを買った時点で、解決策はトレードしかなかった。開幕後の今まで問題は長引いたが、ようやくシクサーズは前に進むことができる。

『ESPN』のエイドリアン・ウォジナロウスキー記者のスクープがあった後、トレードが正式発表される前に、ハーデンはマジック戦を控えたクリッパーズのロッカールームを訪れている。

一方でシクサーズは、次の試合に向けた準備を淡々と進めていた。正式発表前であることを前置きしつつも、ヘッドコーチのニック・ナースは「ジェームズ抜きでの戦いは準備してきた」とコメントしている。ハーデンはトレーニングキャンプの半分以上に参加せず、プレシーズンゲームにも、開幕からの3試合にも出場していないのだから、それも当然だ。むしろハーデンが心を入れ替えてシクサーズでプレーすることになれば大混乱となり、また別の問題が起きていたことだろう。

この日、メディア対応を行ったのはタイリース・マクシーとディアンソニー・メルトンだった。マクシーは寝る準備を整えてレイカーズvsマジックを観戦している時に、メルトンはゲームで遊んでいる時に、ハーデンのトレードを知ったそうだ。メルトンは「ウォジナロウスキー記者のアカウントが本物かどうか、フォロワー数を確認した」と語る。ただし動揺するのではなく、事実を静かに受け入れた。マクシーは「正直なところ、僕らはただ前に進もうとするだけだ。何が起ころうとも、僕らは前進し続ける」と語った。

メルトンは、ハーデンのこのタイミングでのトレードに驚きながらも「チームのために必要なことだった」とコメントした。「彼は自分がどうしたいのかはっきりと意思を示していて、クラブは自分たちに最善の選択肢を選ぶ必要があり、それが何なのか僕らは待っていた。最終的には望むものを得られたんだと思う。代わりの選手が来て、みんなプレーする準備はできているだろうからね」

ハーデンは様々なトラブルを引き起こしてシクサーズを去ったが、同じポジションのマクシーはハーデンと過ごした時間が自分にどれだけ価値があったかを忘れなかった。「彼の並外れた視野の広さ、ゲームをコントロールする能力を学ぶことができた。もともと自信がなかったわけじゃないけど、彼のおかげで本当の自信を持てるようになったと思う。彼のことは好きだし、感謝しているとメッセージを送った」とマクシーは言うが、すでに気持ちを切り替えて「ここにいる選手のことだけを考えたい」と語った。

ハーデンは優れたプレーメーカーであり、全盛期ほどではないにせよ得点能力も高いが、フロントに不満を持ち、それを隠せない選手を抱えていることはチームにとってマイナスでしかない。ハーデンの価値に合った見返りを得られたかどうは判断は難しいところだが、それを今後プラスに変えていくのがモーリー球団社長の手腕の見せどころ。ジョエル・エンビードに不満を抱かせないような優勝を狙えるチームを新たに編成する仕事は、もうすでに始まっているはずだ。ドラフト指名権は新たな戦力獲得の駒となり、ロバート・コビントンはPJ・タッカーに代わる戦力になるかもしれないが、ニコラ・バトゥームやマーカス・モリスはサラリーマッチングに使われるだろう。

マクシーのこの1年での急成長は、少なくともハーデンがシクサーズに残した価値となる。エンビードとマクシーのコンビが確立すれば、シクサーズに『ビッグ3』は必要ないのかもしれない。そこもモーリー球団社長の手腕の見せどころ。動きの取れない閉塞した状況は劇的に変わった。シクサーズにようやく『攻めのターン』に入った。