9月16日、日本バスケットボール界に衝撃が走った。川崎ブレイブサンダースの絶対的なエースであり、Bリーグを代表するビッグマンのニック・ファジーカスが今シーズン限りでの引退を発表したのだ。現在38歳と大ベテランのファジーカスだが、昨シーズンは58試合の出場で平均20.8得点、9.9リバウンド、4.5アシストを記録と、彼に大きな衰えはないように思える。いまだにリーグ屈指の数字を残し、大黒柱として抜群の存在感を放っている彼が、開幕前に引退を発表した理由に迫った。
「万全な川崎なら、タイトルを狙えるチームだと自信を持って言えます」
――今シーズンが最後ということで、今の段階でも感傷的になることはありますか。
先日、これが最後のシーズン前の練習のスタートになると実感しました。これからも何か区切りの出来事があるたびにそういった気持ちになると思います。ただ、感傷的にはなっていないですし、なるようにしかならないと思っています。これも人生の一部という考えです。もしかしたら、すべてが終わった後で涙を流すかもしれません。でも今はいつも通りの生活です。優勝という目標に向かって準備をするだけです。
――新シーズンへの意気込みを教えてください。川崎は過去2シーズンに渡ってチャンピオンシップで離脱者に苦しみ、万全の状態で戦うことなく敗れています。
2シーズン続けて、最後にフルメンバーで戦うことができずに終わったことにはフラストレーションを感じています。チャンピオンシップを万全の状態で戦い抜くことは、僕たちが今シーズンに乗り越えないといけないハードルとなります。どうにかして4月、5月を100%の状態で戦えるようにしないといけません。そして、万全な川崎ならタイトルを狙えるチームだと自信を持って言えます。
――リーグ優勝にはチャンピオンシップでのホームコートアドバンテージを考えると、中地区優勝が求められます。大型補強のサンロッカーズ渋谷、横浜ビー・コルセアーズの台頭など、これまでと比べても過酷な戦いが予想されます。
僕たちは昨シーズンの地区王者であり、今シーズンも中地区のベストチームだと思っています。他チームも良くなっていますが、僕たちも良くなっています。ロスコ(アレン)、トム(トーマス・ウィンブッシュ)に(野崎)零也、(飯田)遼と新しいメンバーが加わりました。ただ、多くの選手たちがケガなくシーズンを過ごさないといけないと思っています。
もしかしたら、バスケットボールファンの皆さんは新しいチャンピオンを求めているかもしれません。川崎が中地区のトップであることに飽きたと思うかもしれないです。でも、そういった見方をされることは気になりません。もちろんSR渋谷は多くの選手を補強しました。ただ、僕は自分たちの戦力に手応えがあります。
――特に中心を担ってこないといけないアレン選手、ウィンブッシュ選手の両外国籍選手のフィット具合についてはどのように感じていますか。
ロスコは日本での経験が豊富でフィットするのは難しいことではないです。逆にトム(ウィンブッシュ)は今回が初めての日本となります。ヨーロッパと日本ではスタイルが大きく違うので練習、プレシーズンゲームをこなし、今は彼にとって日本のバスケに適応している時間だと思います。
――これまで川崎は、ハンドラータイプの外国籍選手がフィットにするのに苦労しているような印象です。その中でもアレン選手は日本での経験が豊富ですし、新たな起爆剤になってくれるでしょうか。
これまでロスコのようなサイズがあるボールハンドラーがいませんでした。パブロ(アギラール)もサイズがあり多彩な選手だったけど、ハンドラータイプではなかったです。ロスコはチームに爆発力をもたらしてくれます。これまでのチームになかったものを間違いなく与えてくれます。
「チームの戦いぶりよりも、自分の引退がスポットライトを浴びることは望んでいない」
――シーズンが始まると、これがニック選手を見られる最後の試合ということで、別れを惜しむファンがホーム、アウェーの両方で出てくると思います。
今シーズンは僕にとってファンの皆さんにお別れを告げるツアーのような側面もあります。ただ、最も優先すべきはチームの勝利であり、Bリーグ優勝です。だからチームの戦いぶりよりも、自分の引退がスポットライトを浴びることは望んでいません。
――これまでと同じ活躍をすることで「ニック、引退しないで!」と言われることは多くなりそうです。
今シーズンも今までと変わらないレベルの高いプレーを目指していますし、それができると思っています。ただ、昔よりもシーズンが長くなり、以前と比べるとフィジカルを維持するのは大変だし、メンタル的にもタフです。それはファンの人たちが、外から僕のプレーを見るだけでは分からないことです。皆さんには、僕のこれまでのプレーや日本バスケットボール界への貢献を評価してくれたらうれしいです。「20得点、10リバウンドを残せるならもっとプレーを続けてほしい」と感じる人もいると思います。でも、誰もがいつかは選手をやめないといけない。それが自分にとって今です。そして今はこれからのシーズンを楽しみたい気持ちでいっぱいですし、昨シーズンに達成できなかったリーグ優勝を成し遂げることに集中しています。
――前編で「川崎の選手として引退できることを誇りに思います」と言いました。約10年の付き合いとなる篠山竜青選手、長谷川技選手、藤井祐眞選手、佐藤賢次ヘッドコーチ、北卓也GMの前で引退できることへの思いを教えてください。
ずっと一緒に過ごしてきた彼らがいることは僕にとって大きな意味を持っています。彼らは僕の成長を見てきましたし、一緒に成長してきました。彼らがいる川崎で引退できるのは幸運です。彼らは僕がどれだけチームを変え、チームに尽くしてきたのかを分かっています。そういったメンバーと一緒に最後のシーズンを過ごせることはうれしいです。
――現役生活でベストの瞬間を挙げるとしたら、どの場面でしょう?
いろいろなことがあり、何がベストなのか選ぶのは難しいです。それにまだ現役を終えていないので、この話題について考えていないです。何よりも現役時代の最高の瞬間はまだ訪れていないかもしれません。今シーズン、リーグ優勝を達成した時がベストになる可能性があります。
――あらためて日本のバスケットボールファンへメッセージをお願いします。
バスケットボールファンの皆さんには、これまで僕が日本バスケットボール界のためにやってきたことを評価してもらえたらうれしいです。何よりも、10年以上に渡る皆さんのサポートに感謝しています。ファンの皆さんが、常に僕に良くしてくれたので楽しんでプレーを続けることができました。今シーズンでお別れとなりますが、みなさんの笑顔や幸せそうな表情を見たいです。会場で会えるのを楽しみにしています。もちろん次の人生においても、バスケットボールから完全に離れるつもりはないですし、引き続きバスケに関わっていけるよう考えています。