ベッキー・ハモン

「神は身体的な強さの代わりに他の人の倍の精神的な強さを与えてくれた」

ベッキー・ハモンはバスケットボール殿堂入りを果たした。WNBAで6度のオールスターに選出され、リーグ史上7人目の通算5000得点を記録し、3ポイントシュート成功数で歴代4位、アシスト数では歴代6位。引退後は指導者に転身し、2014年にグレッグ・ポポビッチ率いるスパーズのアシスタントコーチとなり、女性としては北米4大スポーツ史上初のフルタイムアシスタントコーチとなった。

NBAで初の女性ヘッドコーチの最有力候補とされ、いくつかのクラブが採用するのではと噂されたが、今のところは実現していない。それでも2022年シーズンにラスベガス・エイシーズのヘッドコーチに就任すると、1年目でリーグ優勝を成し遂げ、ヘッドコーチ1年目で優勝する初めての元WNBA選手となるとともに、現役時代に果たせなかったWNBAチャンピオンの夢を果たした。

優秀なポイントガードはチームを掌握し、ゲームを読むため、コーチにも向いていると言われるが、彼女はいつも成功を収めるまでに長い苦労を経ている。WNBAのオールスターに選ばれるまで5年かかり、それまでは先発ではなかった。スパーズのアシスタントコーチを長く務め、サマーリーグではチームの指揮を執ってその手腕が評価されるも、NBAでヘッドコーチの職は得られていない。だが、不屈の闘志で彼女は自分のキャリアを築き上げてきた。

式典の壇上で、ハモンはこう語る。「子供の頃、『夢を実現するためのABC』というポスターを眺めて、バスケ選手としての成功を夢見ていました。マイケル・ジョーダンの『Come Fly With Me』というビデオを500回は見ました。しばらくして『自分はジョーダンのようには跳べない』と気付いたのですが、そこで父が最高のアドバイスをくれました。『空を支配するんじゃなく、地上を支配するんだ』です」

「プロの世界で私がバスケ選手に見えないことが、私にとって最高の武器になりました。普通の身長で、スピードがあるわけでもなく、どこにでもいる女の子。遠征に出掛けるとマネージャーと間違われました。 でも、神は身体的な強さの代わりに、精神的な強さを他の人の2倍与えてくれたのです」

「私は不屈の精神で前に進み続けました。不屈の精神の厳しいところは、辛い経験をすることでしか身に着けられないこと。ノーと言われた回数は数えきれないけど、私は自分の行きたい場所に行くために壁を突き破ろうとして、それが私を作り上げました。バスケットボール殿堂の委員会が『イエス』と言って私に扉を開いてくれたことに、本当に感謝したい」

「そしてポップ──」と、彼女は同じく殿堂入りを果たしたポポビッチの名前を呼んだ。「私をアシスタントコーチにしたのは、プロスポーツ界で誰もやったことのないことです。2015年に初めてサマーリーグで指揮を執る時、あなたは電話で『自分らしくやりなさい』と言ってくれた。メールでも何度そうアドバイスしてくれたか。そうやって私の人生の軌道を変えてくれました」

女性がプロスポーツの世界で信じる道を切り開いていくのは簡単なことではない。それでもハモンは自分の挑戦にどれだけ意義があるかを理解し、突き進んできた。

「大変で孤独な挑戦です。でも、すごくエキサイティングで、素晴らしい挑戦です。旅の道中には傷付くこともたくさんあって、時には挫折したり恐怖を感じることもありますが、そんな時にはいつも、自分の素晴らしさを思い出させてくれる励ましの声がありました。家族、友人、コーチ、チームメートが、いつも見守ってくれています」

「舗装された道でも、舗装されてない道でも、私はあなたの励ましのおかげで進むことができます。もしあなたが落ち込んだ時、私ができる唯一のアドバイスは、一歩前に踏み出すこと。そうやって自分の足で困難を乗り越えることです。夢を実現するためのABCを忘れず、追いかけてください」