長身選手の身長差21cm、サイズの差に挑んだ興南
「何としてでもセンターコートに出て勝たせてあげたい」という興南(沖縄県)、井上公男コーチの目標は果たせなかった。しかし、『沖縄のバスケット』を最後まで貫き、悔いのないウインターカップとなった。
男子3回戦の相手はインターハイ準優勝の東山(京都府)。実績で上回るだけでなく、サイズの違いは目に見えて明らかだった。興南は最も背が高い島尻玲央でも185cm、対する東山は206cmのカロンジ・カボンゴ・パトリック、204cmのグランダマベラ・モンゾンボ・クリスティンを擁する。それだけではない、登録18名のうち185cm以下の選手は7人しかいない。
当然、東山はサイズのミスマッチを突いてくる。しかも単純にパトリックにボールを集めるのではなく、ピックを巧みに使うなど周囲が連動し、インサイドに飛び込む岡田侑大への合わせで得点を重ねる。高さ対策のトラップもうまくかいくぐり、さらには速攻も効果的に織り交ぜて、第1クォーターで31-15と大差をつける。第2クォーター半ばで岡田のカットインによる得点が決まると、41-21と差は20点に広がった。
圧倒的なサイズの差を見せ付けられた興南だが、ここでのタイムアウトを機に踏みとどまる。インターハイ準優勝チームが相手とあって萎縮していた選手たちは、井上コーチからの「お前たち、まだ行ける」との喝で開き直り、自分たちのバスケットを展開し始めた。
高さにひるむことなく、わずかな隙を見つけてはドライブでガンガン仕掛け、リング下まで切り込んでからパスを展開する。喜納昌也や平良陽汰、野原暉央はダブルクラッチやバックビハインドパスなど、自分の持つスキルをフル活用して東山に襲い掛かった。島尻はインサイドでの争いにこだわらず、ミドルレンジからのジャンプシュートを果敢に狙う。
立ち上がりは東山のパワフルな攻めを身体で止める興南のファウルが先行したが、今度は東山にファウルがかさむ番。パトリックもクリスティンもファウルトラブルに陥った。興南も大黒柱の島尻が個人ファウル4つになるが、チームでしぶとく耐えて追い上げる展開を支えた。
しかし、勢いがある時間帯で課題となったのはフリースロー。41-52の場面、54-65の場面と、2本決めれば点差を1桁に縮められるシーンで2本とも外してしまう。フリースローは試合を通じて20本中8本しか決められず、苦しんでいた東山を助ける結果となった。
7点差の終盤、固くなった興南と落ち着いていた東山
57-67と10点差で迎えた第4クォーター、野原の3ポイントシュートが決まって60-67と7点差とした興南だが、相手の背中がはっきりと見える位置まで詰め寄ったところで固くなってしまう。難易度の高いプレーに挑むだけに、噛み合わなくなると少しのズレがターンオーバーに直結した。
一方の東山は7分を残してクリスティンがファウルアウトしたが、この勝負どころで慌てることなく、むしろ興南のミスを冷静に突いたところが強豪たる所以だろう。インサイドで張っていたパトリックが、ここにきて外から仕掛けるプレーを連発。岡田も派手なユーロステップを決めて興南を突き放す。
興南もあきらめずに戦うが、ここまで激しくファイトした疲労からかシュートがことごとくショートしてリングの手前で弾かれる。終盤にリードを広げた東山が、93-70で勝利した。
敗れはしたが、全国の強豪相手に『興南らしさ』を存分に見せたことで、井上コーチは「選手たちは悔いが残らないようやってくれたと思います。泣くなと伝えました」とさっぱりした表情。「ファウルが先行して選手を入れ替えながら何とか戦って、7点差までは行けましたが、5点差、2点差まで行く力がありませんでした」と負けを認めた。
持てるスキルを存分に発揮した2年生の平良は、表情に悔しさをにじませながらも「コートで出し切りました」と語る。「東山と対戦できて、その中で自分たちのプレーができたことは自信になりました。通用しないことはなかったけど、第4クォーターで点が取れなかった。来年もここに来て、次はセンターコートに立てるよう頑張ります」
『自分たちのバスケットをやる』とはよく聞かれる言葉だが、本当にそれができるチームは稀だ。むしろ、掲げている「自分たちのバスケット」の定義さえ曖昧なチームは決して少なくない。そんな中、攻守ともに機動力を生かし、チームプレーの中に個人技を織り交ぜた痛快なバスケットを展開した興南。敗れはしたが、胸を張ってコートを去った。