「いつか絶対、自分たちの時間帯が来ると我慢した結果、最後に流れが来ました」
Wリーグプレーオフ、ENEOSサンフラワーズはファイナルでトヨタ自動車と対戦した。リーグ2連覇中の相手に対し、初戦を47-55で落として崖っぷちに陥るも、第2戦で74-65と見事にカムバック。そして、勝てば優勝となる第3戦ではダブルオーバータイムにもつれるWリーグ史上に残る激闘を72-64で制し、コロナ禍によるシーズン中断を含め4シーズンぶりのチャンピオンに輝いた。
Wリーグ記録の11連覇を達成して以来となる女王復活の立役者となったのは渡嘉敷来夢だ。第3戦では47分41秒とほぼフル出場の中、20得点13リバウンド3ブロック2アシストを記録と、攻守にわたってチームを支えた。満場一致でのプレーオフMVPを受賞した渡嘉敷は、勝ち切れた要因をこう語る。「最後まで自分たちを信じたことが一番大きかったです。相手に3ポイントシュートをやられてもコートに出ている選手たちだけでなく、ベンチメンバーも含めて誰1人顔を下げることがなかったです。ファンの方はENEOSだったらできると思っていてくれました」
渡嘉敷、長岡萌映子らベテランがいるENEOSの方が平均年齢は上であり、体力勝負となれば山本麻衣、馬瓜ステファニーなど若手がコアメンバーのトヨタ自動車の方が有利に思えた。しかし、渡嘉敷は「本当に長引けば長引くほどウチが有利かなと、正直思っていました。いつか絶対、自分たちの時間帯が来ると我慢した結果、最後に流れが来ました。延長になっても気持ちは絶対に折れないと思っていました」と振り返る。
この自信は、自分たちがどこにも負けない厳しいトレーニングを積み重ねてきた自負があるからこそ生まれる。「ENEOSの練習はめちゃくちゃキツくて、走る練習ばかりやってきました。だからこそ3試合目になった時点で、トヨタの選手に走り負ける訳がないと言い聞かせていました。やることをやってきたという自信はありました」
「1人の気持ちが落ちても、みんなで落ちることはない」
実際に渡嘉敷は相手の徹底マークにあってスタミナを削られながらも最後まで足が止まることはなかった。6点リードで迎えたダブルオーバータイム残り47秒、山本とマッチアップした場面では抜かれない絶妙な距離感を保ち、3ポイントシュートをブロックした。そして、そのこぼれ球を拾った高田静が勝利を決定づける速攻に繋げた。
そして、このブロックだけでなく、体力的に厳しくなっても最後まで攻守でアグレッシブなプレーを貫き通せたのはチームメートのおかげと強調する。「苦しかったですけど、みんなが信じてくれたことで踏ん張れていました。途中、相手が寄ってきたことが気になってシュートに行かずパスをした時も『今、行けるよ』と言ってもらえました。それで誰が来てもやるしかないという気持ちでプレーできました」
リーグ11連覇時代のENEOSには、渡嘉敷より年上の吉田亜沙美や大崎佑圭というリーダーシップに優れたトップ選手たちがいた。渡嘉敷も中心選手ではあったが、彼女たちについていく形で一緒にチームを盛り立てていく立場だった。しかし、今のチームは渡嘉敷が絶対的なリーダーとして引っ張っていかなければいけない。だからこそ、キャプテンとなった今シーズンは、このような決意を持って臨んでいた。「ここ数年、勝てていなかった中でキャプテンを覚悟を持ってやる。これで勝てなかったら正直、自分はもう終わりかなと思っていました。だからこの1年間、いろいろと自分自身を追い込んでいたと思います」
この渡嘉敷の思いにチームメートは応えてくれた。「みんな、最後まで自分を信じてパスを入れてくれました。自分がうまくいかなくて下を向いた時でも、チームメート、ヘッドコーチが最後まで自分を信じてくれました」
ENEOSはセミファイナルのデンソーアイリス戦も2試合続けて最後までもつれる熱戦を制しており、ファイナルと合わせ競り合いで絶大な強さを発揮した。この秘訣を渡嘉敷はこう語る。「本当に負けず嫌いで、バスケットになると気持ちが強いです。1人が落ちてもみんなで落ちることはない。それがこのチームの強さだと思います」
このENEOSの気持ちの強さは、誰よりも勝ち続けていながら誰よりも勝利を渇望する、渡嘉敷のハングリーさがチームメートに伝搬したからこそだ。それは第4クォーターの残り1分で高田、オーバータイム残り12秒に宮崎早織が、重圧のかかる場面でも躊躇なくチャンスで打ち切り同点にしたことが示している。今のENEOSの強さは、渡嘉敷がキャプテンだからこそ育まれたものだ。
今回のリーグ優勝と皇后杯の二冠達成で新たなるENEOSの王朝を期待する声は高まるだろうが、渡嘉敷はそんなに簡単な事ではないと理解している。だが、それと同時に新生ENEOSがさらなる高みに到達できるポテンシャルを持っていると誰よりも信じ「ここで満足することなく、もっと一人ひとりがやるべきことを意識して、取り組み続けることが大事だと思っています」と言う。
この渡嘉敷が語る姿勢をチーム全員が持ち続けることができれば、ENEOSの新たな黄金時代が到来することは十分にあり得る。