チームオフェンスのキーマンでも、全面的な信頼はいまだ得られず
18歳でトルコリーグのMVPに輝き、NBAへとやって来たアルペラン・シェングンは、英語でのコミュニケーションにすら困っていたルーキーシーズンから飛躍したNBAでの2年目を終えようとしています。センターながら魔法のようなパスを次々に通していくシェングンは、チームで最もオフェンスレーティングが高く、ベンチに下がるとチームのレーティングが急激に低がる、ロケッツにチーム戦術をもたらす存在へと成長しました。
ロケッツのレジェンドであるアキーム・オラジュワンとのトレーニング効果もあって、ディフェンダーだけでなく視聴者をも騙してしまうシェングン版『ドリームシェイク』は、個人で打開するプレーを増やすことに繋がり、ルーキーシーズンに47%だったフィールドゴール成功率は56%まで向上し、得点は9.6から14.8に、リバウンドは5.5から8.8、アシストは2.6から3.9へと各スタッツを向上させました。
シェングンの特徴は個人スタッツの向上がチームへと波及することで、シェングンがコートにいるとロケッツはペイント内得点が増えるだけでなく、3ポイントシュート成功率も向上し、フィールドゴール成功率は2ポイント近くの差が出ます。両サイドにパスを散らすプレーメークとポストアップから決定機を作るアシストに加え、チーム最多のスクリーンでチームメートの得点機会も生み出します。
まだまだ荒さが残り、ターンオーバーやファウルも多いものの、個人技で点を取りに行く選手が多いロケッツにおいて、シェングンのチャンスメークがあるかどうかが大きな差が生み出しています。
シェングンのプレーは二コラ・ヨキッチと比較されることも多く、シーズン中の対戦後にヨキッチからも「ロケッツはもっとシェングンを使うプレーを増やすべきだ」とコメントされており、ロケッツはシェングンがいることで初めてチームとして機能します。ただ、今のシェングンがヨキッチのように『チームの戦術そのものを変える』ほどの存在感は出せていないとも言えます。
今シーズンのロケッツはアシスト、ターンオーバー、そして3ポイントシュート成功率がリーグ最下位と、何を褒めればいいのか分からないほどの惨状です。唯一、オフェンスリバウンドだけはリーグトップですが、これは自分たちがあまりにもシュートを外すという背景があり、手放しに称賛できるものではありません。
チーム全体でオフボールムーブを重視した『ヨキッチ中心のオフェンス』をしているナゲッツに対して、ロケッツはシェングンがコートにいれば改善するだけで『シェングン中心のオフェンス』を導入する気はなさそうです。
ディフェンス力に課題があるため試合終盤にベンチに下げられることも多いのですが、シェングンがいないロケッツのオフェンスは見ていられないほど機能しません。かと言ってディフェンス力に目をつぶってでも『シェングンを起用すればオフェンスで打ち勝てる』わけでもないのが悩ましいところ。すでに個人としては魅力あふれるプレーを披露していますが、チーム全体を自分の色に染めるほどの影響力を発揮することが来シーズン以降の課題になります。
20歳のシェングンが見せた魔法のようなパスと現代版ドリームシェイク、そしてスクリーンやリバウンドなどのハードワークは、ファンを楽しませる魅力に満ちているだけでなく、チームオフェンスを大きく改善させるものです。ロケッツには若手有望株が数多くいますが、インサイドのプレーメーカーは希少な存在だけに、チームの中核へと進化することが期待されます。