喜志永修斗

滋賀に勝利した後に流した涙の理由とは?

加入からわずか3カ月足らずの特別指定選手が、突出した存在感を放っている。専修大学から富山グラウジーズに加入した喜志永修斗のことだ。

1月20日に富山に加入した喜志永は、1月28日の秋田ノーザンハピネッツ戦でBリーグデビュー。この日のプレータイムは3分に留まったが、翌日の第2戦は24分間コートに立ち、2月11日のシーホース三河戦からはスタメンのポイントガードとしてコンスタントに20分以上プレーしている。

22日の川崎ブレイブサンダース戦も、喜志永は序盤からアグレッシブに得点を狙い、ノヴァー・ガドソンやマイルズ・ヘソンの得点をアシスト。3点ビハインドで迎えた第4クォーター残り1分53秒以降は、小野龍猛の3ポイントシュートファウルやジョシュア・スミスの連続得点をアシストし、最後まで勝敗の分からない好勝負を演出した。

喜志永は81-85で敗れた試合をこのように振り返った。「前回の滋賀(レイクス)戦と同様、前半から強みであるジョシュ(スミス)のインサイドを生かす形が取れたのは良かったですが、第3クォーターの入りのシュートが入らない時間帯に、ディフェンスを我慢できなかったところが一つのターニングポイントであり反省点だと感じました。そこから『ディフェンスからリズムを持ってきてブレイクに繋げよう』とチームで切り替えられたのも良かったけど、最後の勝負どころで川崎のオフェンスを真っ向から受けてしまったのが敗因です。この時間帯にターンオーバーが2、3個続いたのも問題だったと思います」

前述のとおり、デビュー直後からチャンスを獲得し、停滞気味だった富山に新しい風を送り込んでいる喜志永。メディアからは加入以後の歩みを振り返る質問が多く寄せられ、喜志永はこの一つひとつに丁寧に返答した。

加入時に、安定したボール運びを求められたということ。デビュー戦の3分のパフォーマンスが評価されたからプレータイムが伸びたと考えていること。自分の持ち味と自覚しているコミュニケーションでチームに良い流れをもたらそうとしていること。大学1年時に参加したキャンプで川崎の佐藤賢次ヘッドコーチから指導を受け、30分近く話し込んだこと。同じ左利きでリーダーシップに優れた篠山竜青にシンパシーを感じていること。そして、チームを勝たせられる、勝負を決められるポイントガードになりたいと考えているということ。

富山での初勝利となった3月19日の滋賀レイクス戦、 喜志永は試合最終盤に残留に向けた順位争いに大きく関わるフリースローを外した。試合後、勝利したにもかかわらず喜志永は涙し、その姿が注目を集めた。 喜志永はその時の複雑な感情をこのように説明した。

「何かを意識して泣こうと思ったわけでないんです。自分がチームに合流してから9試合負け続けて、メンタルで来るものがありましたし、自分がうまく噛み合っていないと感じる部分もあったので、ようやく勝てたといううれしさも理由の一つではありました。でも、あの試合の第3クォーターに連続してターンオーバーをしてゲームを壊してしまった上に、最後にフリースローを決められなかったことが追い打ちをかけたと言いますか。個人として反省すべき点が多かったのでなぜか勝手に涙が出ちゃったというか。すごく悔しいというか、もっと強くならなきゃいけないというか、向上心というか、火がつくというか……。そういう場面だったと思います」

加入してたった2カ月、しかも正式なプロ契約すら結んでいない選手にチームの運命を背負わせるというのは、傍から見れば非常に酷な話だ。しかし喜志永自身は「特別指定だからといって負けが許される立場ではないです。出ているからには自分の役割を徹しないといけないと思うし、覚悟を持ってやっていかなきゃいけないと思っています」と腹を決めている。

今シーズンのB1は勝率17位、18位のチームが自動降格するレギュレーションを採用している。富山は現在全体16位と崖っぷちの状況ではあるが、年明け以降は「あと一歩」という試合が少しずつ増えてきている。

チームを勝たせるポイントガードになるための鍵に「プレーしながら冷静に判断するスキルを身につけること」と話す喜志永の成長は、そのまま富山の成長、ひいては未来に繋がるはずだ。