敵将も脱帽の活躍「彼が活躍された部分でアドバンテージを取られました」

天皇杯ファイナル、千葉ジェッツは琉球ゴールデンキングスに87-76で勝利し、4年ぶり4度目の天皇杯王者に輝いた。千葉Jは第1クォーターからリードを保ち続ける盤石の試合運びだったが、この隙のない戦いぶりを支えたのが原修太だった。

ビッグマッチではいつも以上に重要となる立ち上がりの第1クォーターで、6得点をマーク。さらに第4クォーターには、残り2分を切ってから勝利を決定づけるダメ押しの連続得点を含む7得点を挙げると、ディフェンスでは持ち前のタフな守備で琉球の得点源である今村佳太を抑えるなど、攻守に渡って文句なしのパフォーマンスを披露した。

20得点5リバウンド以上のインパクトを与えた原は、このように優勝への喜びを語る。「チームとしては4回目の天皇杯優勝ですが、過去3回の優勝には僕自身あまり貢献できなかったというか、うれしい反面悔しい思いもしてきました。それが、今回はスタメンで出場し、勝利に貢献して優勝できたのはうれしかったです」

このコメントが示すように、これまでの原はローテーション入りを果たしている一方、ここ一番ではベンチに下がるなどチームの中心になり切れていなかった。実際、川崎ブレイブサンダースに敗れた昨年の天皇杯決勝でもプレータイムは20分54秒に留まっている。しかし、この試合、原のプレータイムはチーム最長となる35分39秒だった今の千葉Jは原と同じポジションの大倉颯太、二上耀がともに故障離脱中。それを考慮しても原がチームに必要不可欠な大黒柱となっていることは間違いない。ジョン・パトリックヘッドコーチは、原を次のように絶賛する。

「オフェンスは調子の浮き沈みがありますが、ディフェンスはおそらくBリーグの日本人選手で一番良いです。(琉球の得点源である)今村選手も原がマークしていた時、得点を取っていなかったと思います」

また、琉球の桶谷大ヘッドコーチは原の活躍に脱帽している。「ここですよね。調子が良いのは分かっていましたが、ゲームを支配されました。彼に活躍された部分でアドバンテージを取られました」

「ジョンさんと出会った時、ゴー・トゥー・ガイだと言ってくれました」

決勝戦に限らず、今シーズンの原はBリーグでもここまで39試合に出場し平均27分28秒のプレータイムで、10.5得点とキャリアベストを更新するパフォーマンスを見せている。この躍進の背景にあるのは、新たに就任したパトリックヘッドコーチの存在が大きい。

「ヘッドコーチが変わったことを新しいチャレンジとポジティブにとらえていました。ジョンさんが来て、最初の練習から僕のスタイルに合っていると思いました。ディフェンスも任せてもらえる部分が増えて、サイズのミスマッチになっても僕のところで『ヘルプはいらない』と言ってくれて、守れる機会は増えました。それで自分の強みがより増したと思います」

こう振り返る原は、オフェンス面においても「ディフェンスが手を挙げていなかったらオープンシュート」と定義し、積極的にシュートを打つことを推奨する指揮官の方針が自身に合っていると続ける。

また、何よりも指揮官の厚い信頼によって、これまで以上にノビノビとプレーできている。「ジョンさんと出会った時、ゴー・トゥー・ガイだと言ってくれました。ディフェンスをしっかりやれば試合に出してくれるとシーズンの初めに言われて、ディフェンスをやることでどんどんチャレンジできています。ボールをもらった時は点を取ることをより意識しています」

大学時代の原は世代屈指の点取り屋として、一般的にはタフショットと思われるような状況でも自由に3ポイントシュートを打つことを許される環境でプレーしていた。だが、2015-16シーズン途中に特別指定選手として千葉Jに加入後は、この良くも悪くも自由奔放なプレースタイルが通用せずプロの壁にぶち当たる。そして激しい競争で生き残っていくために、今や原の代名詞である強靭なフィジカルを生かしたディフェンスに磨きをかけ、オフェンスではドライブなど少しずつ引き出しを増やしていった。また、効率的なシュートセレクションを求めるチームの中で、より考えてプレーすることの大切さを学んだ。1つのミスでも状況によってはベンチに下げられる厳しさを味わうなど、いろいろと悪戦苦闘することで、心身ともに成長していった。

その上でパトリック体制になってオフェンスで自由を与えられたことで、学生時代の持ち味だったアグレッシブで強気な部分と、プロに入って学んだ効率的なバスケットボールの部分がうまく融合し、今シーズンの大きなステップアップに繋がっている。

原はこう語る。「ジェッツに入って昨シーズンまでの6年間は、たとえシュートが入っていても、こうした方がもっと効率が良いかもね、と勉強させてもらっていました。これまでの経験があった上で、ジョンさんの下で自由を与えられ、良い感じで解放されてプレーできていると思います。ルーキーの時に今のバスケをやっていてもうまく判断できなかった。1つのパスのブレでも注意してもらえた時期があったからこそ、今があります」

「責任よりも信頼、バスケの根本として自由があることでの強さもあると感じています」

名実ともに千葉Jの大きな柱の1つとなった原は、今回の天皇杯が示すように強豪との大一番では30分を超えてフル稼働することも少なくない。過酷なスケジュールの中、体力的に厳しいことは間違いないが、原は今の状況を歓迎している。そこにはずっと忘れない過去の悔しさがあるからだ。

「試合では相手に対してリスペクトをしていますが、同時に絶対に自分の方が強いと思ってプレーするタイプです。その上で、自分の中で活躍できるという感覚があっても試合に出られない時期がありました。この経験があるので今は、可能なら40分出場したいくらいです。今もベンチにいる時、ジョンさんの顔を見て『出たい』とアピールしている感じです(笑)。出られるなら、ずっと出ていたい。この気持ちは一生なくらないと思います」

ギャビン・エドワーズ不在でも危なげない戦いぶりでリーグ屈指の難敵である琉球を撃破した今の千葉Jは、これから終盤戦に突入するBリーグの優勝争いにおいても頭1つ抜けた存在だ。この強さの土台として、原は自身だけでなくチーム全体でもこれまでの組織力と自由なスタイルがうまく噛み合っている点が大きいと見ている。

「責任よりも信頼、バスケの根本として自由があることでの強さもあると感じています。もちろんセットプレーで固めることも必要だと思いますが、それだと対策もされやすい。今回、僕たちは結構フリーランスでやっていて、そういう自由なところで相手も止めにくくなると思います」

当然だが強さにはさまざまな形があり、正解は1つではない。ただ、今の千葉Jはこれまでにない組織力と個人の創造力がうまく融合され、さらなるレベルアップに成功した。そして、新しい千葉Jの強さを象徴する存在こそが原であることをあらためて証明した今回の天皇杯ファイナルだった。