フレッド・バンブリート

バートル獲得の一方で、バンブリートもアヌノビーも放出せず

ラプターズは今回のトレードデッドラインで抜本的な路線変更をする可能性があった。26勝30敗でプレーオフ進出が危ぶまれる位置に付けており、チームのサイクルは下り坂に差し掛かっているように見える状況で、フレッド・バンブリートとOG・アヌノビーは移籍が前提のように見られていた。

コアメンバーのトレードも検討したのだろうが、結局のところ解体に舵を切ることはなかった。スパーズにケム・バーチと複数の指名権を送り、ヤコブ・パートルを獲得。センターを強化してシーズン後半戦に臨む。

バートルは2016年のドラフト1巡目9位指名を受け、NBAでの最初の2年間をラプターズで過ごした選手。ドラフト同期のシアカムが1巡目27位と下位指名だったにもかかわらず即戦力として活躍したことで、バートルはトレードに出された。

ニック・ナースは言う。「当時から彼は愛されていた。賢くタフで勤勉で、スクリーナーでありリバウンダーでありリムプロテクターであり、どんな仕事もやる選手だった。スパーズではパスがかなり向上したと思う。ビッグマンの獲得候補の中では彼がベストだった」

トレードデッドラインの動きはこれだけで、ファンとしては肩透かしを食った形だ。マサイ・ウジリ球団社長は「バスケットボールはすべてが上手くいくわけではない競技だから、ミスにイライラすることは起こるし、批判や指摘も出てくる。それでも、若いチームに一番必要なのは忍耐なんだ」と、今回の動きを説明した。

しかし、現状維持は停滞であり、緩やかな死と見なされるのがNBAだ。勝ちに行くなら小さくない代償を払ってでも補強をして優勝を狙う戦力を整え、そうでなければあえて一歩後退して次の機会に備える。今回のラプターズは、そのどちらかを選択する勇気を持てなかったのではないか。

「正しいバランスを見極めたかった」とウジリは言う。「忍耐が機会損失と見られるのは分かっている。だが、チームの成長が確認できないのに長く引き伸ばすつもりはない。今シーズンが終わったタイミングで多くのことに対処する。それでも私は選手とコーチを信じている。過去のシーズンほど集中できていなかったかもしれないが、それを取り戻してくれると思っている」

「トレード交渉の電話がたくさんかかってくるのには理由があるし、メディアが個々の選手について様々なことを言うのも理由があるのだろう。ただ、私は自分自身の判断基準で何が正しくて何が間違っているのかを見極めたい。今シーズンがこのまま終わるのであれば、その時は私も交渉に乗ることになる」

バンブリートとギャリー・トレントJr.は来シーズンの契約最終年を破棄すれば今夏にフリーエージェントとなる。バートルも今が契約最終年。シアカムとアヌノビーの契約も2024年までで、今夏には何らかの決断が必要になる。この一つひとつの判断がラプターズの未来を左右するものであり、今回動かなかったのは問題を先送りにした感はある。それでも、他のチームであれば『パニックボタン』を押すであろう状況で、今回ウジリは冷静さを失わなかった。

かつてウジリは、1年限りの在籍になることを承知でカワイ・レナードを獲得した。フランチャイズプレーヤーのデマー・デローザンを切り捨てる非情さも持ち合わせていた。ただ、あれはシーズン途中ではなくオフのトレード。シーズン途中はデッドラインを前に様々なチームの思惑が入り乱れ、どうしても場当たり的な決断を強いられる。そんな形でバンブリートやアヌノビーを放出するのを嫌い、ウジリは『我慢』を選択したのだろう。

いずれにせよ、ラプターズは既存の戦力で今シーズン最後まで戦うことになった。指揮官ナース以下それぞれの選手には、自分の価値をあらためて示す数カ月の猶予が与えられたことになる。