名古屋短期大学付属(現桜花学園)時代には3年間で7度の日本一を経験し、ジャパンエナジーJOMOサンフラワーズ(現ENEOSサンフラワーズ)では9度のWリーグ優勝と、大神雄子は数々のタイトルを獲得してきた。2008年には日本人として2人目となるWNBA選手となり、中国リーグにも挑戦。2017-18シーズンをもって引退し、その後はコーチとしてのキャリアを歩み始めた。そして、アシスタントコーチを経て、昨年の5月末にトヨタ自動車アンテロープスのヘッドコーチに就任した。2連覇中のチームを任されるプレッシャーを跳ね除け、首位を快走中のレジェンドに心の内を聞いた。
「今が一番良い環境でやれているんじゃないか」
──選手同士の年齢が近くなったという話がありましたが、仲良し集団にはしたくないとも言っていました。
今年は長岡(萌映子)、馬瓜(エブリン)三好(南穂)、河村(美幸)、永田(萌絵)など、本当に主力の選手たちがゴロっと抜けた中でのスタートだったんですが、その分年齢的なジェネレーションがギュっと近くなりました。心理的安全性が低くなると自然と話しやすくなるので、話しやすい環境は良いです。一人ひとりが上手くなりたいという向上心を持つことをスタンダードにして、自分自身で高めていこうとすれば仲良し集団にはならないと思っています。(馬瓜)ステファニーや山本(麻衣)は3×3や国際大会でたくさん経験をして、今は5人制の日本代表に行っています。彼女たちにもう一回ここでやるんだっていうスタンダードがしっかりある事が仲良し集団にならない一つの理由になっていると思います。自分たちも上手くなりたいという本当の意味での連鎖反応が起きていますね。若いですし運動強度や練習の質も含めて、今が一番良い環境でやれているんじゃないかと思います。
──良い環境とはいえ、そこに厳しさも必要になってくるかと思いますが、そこはどのように考えていますか?
数字は意識しています。KINEXON(トラッキング&パフォーマンスデータ取得計測サービス)というチップをつけて練習していますが、それを毎日更新するようにストレングスコーチやコンディショニングコーチたちと話をして指針を出しています。KINEXONのデータをスタッフ全員で共有しているので、高強度でのスプリントの速さやジャンプの時のハイジャンプなど、どれだけ強度を出せたのかは可視化しています。あとはオフコートでたわいもない話をタメ語で話す場面と、厳しくする時のシチュエーションでの振る舞いはバランスを考えてやっているつもりです。
──こうした指導方法や方針などは、ご自身が学んだコーチの考え方などを踏襲している感じでしょうか?
そうですね、考え方や人となり、人間性を含めて内海(知秀)さん(元ENEOSサンフラワーズ、女子日本代表ヘッドコーチ)は好きだったコーチの一人で、選手に対してや人としてのマナーなどの考え方は間違いなく内海さんの影響です。バスケットボールそのものは、ルーカス(モンデーロ)ヘッドコーチとトランジションの速いバスケットボールを展開したいと昨年から話していたので、それは継続していきます。
トーステン・ロイブル(アンダーカテゴリー日本代表ヘッドコーチや3×3日本代表のディレクターコーチを歴任)はユースなどをずっと見られていた分、物事を理論的に話します。選手に納得させるまでどうやって説明するかなど、トーステンの考え方もすごく好きでした。一番客観的に見れるのが数字だと思っていて、数字は大学院で学んだところが多いですね。
「シンプルに考えて、バスケットボールは点を入れ合うスポーツ」
──主力選手の移籍も活発になるなど、Wリーグも時代が変わってきていると思いますが、どのように見ていますか?
最初から決まっているゲームって面白くないですし、どこが勝つかわからないほうが絶対面白いじゃないですか。そういうシチュエーションが増えたので、トレンドの変化はポジティブにとらえています。その分、自分は勝たなきゃいけない責任は増しましたけどね(笑)。でも選手がゲームを楽しめて、さらにファンのみなさんが楽しんでくれることが1番なので、そういう時代になっているのかなと思っています。
現在首位ですが、開幕するまではロスターも変わったし、若くて経験もそんなにないから、どこまでいけるかみんなも分からなかったと思うんです。でも開幕戦で自分たちはやれるという自信が一気に出たと思います。開幕戦でしっかりと戦えたことで今年も上を狙える場所にいるんだって、全員が同じページに乗ったなって感じました。
──そこから優勝するための課題や、数値的なポイントはどこになりますか?
どこのチームも同じだと思うんですけど、ディテールを掘っていけばより良くしていかないといけない部分はたくさんあります。ピック一つをとっても、ちょっとしたコミニケーションやスペーシングのところができていないっちゃできていない。ただ、何よりも大事なのは最初に話した雰囲気で、どれだけコミットメントできるかを測るのも絶対に雰囲気だと思っているので、その土台はできていると感じています。
シンプルに考えて、バスケットボールは点を入れ合うスポーツで、1点でも多く取れば勝ちです。だから、その得点を取るための局面を大事にしないといけないと思っているのでファストブレイクポイント、トランジションポイント、ハーフコートオフェンスでのポイント、リバウンドからのポイントなどを大事にしていきたいと思っています。ファストブレイクや、トランジションディフェンスは一番難しいのでみんな練習すると思うんですけど、難しい部分だからこそ、そのトランジションが起きる場面がどんなところなのかを追求して、アレンジの曲面から点数に繋げていくことを大事にしています。ただ、トランジションの前にあるのはアグレッシブなディフェンスになってくるので、もちろんディフェンスの強化もやっています。
──では最後にこれからの見どころ、ファンへのメッセージをお願いします。
女子は昨年の東京オリンピックから全員が自信を持って発信してくれるようになったと思います。ただ、女子のバスケットボール界はこれからが大事になってくると思うので、選手一人ひとりが普段の生活の中で発信する部分とコートの中で表現する部分をたくさんの人に見てもらいたいと思っています。
トヨタは改善を繰り返して物づくりをしている会社ですから、自分たちも去年よりも努力してより良くするために毎日積み重ねています。「去年より変わったね」とか、「この選手のこういうところはすごいな」とか、そういう部分をファンの方から教えてもらえるような場があれば、是非いろいろな声を聞かせて欲しいです。それが自分たちのパワーにもなるし、選手たちの気づきにもなります。Never Stopでとことん自分たちをより良くするための改善を心がけて毎日やっていきたいと思うので、是非会場でその改善を見てもらいたいです!
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