トム・ホーバス

2023年、日本バスケットボール界にとって一番のイベントは夏に日本(沖縄) とフィリピン、インドネシアの共催で行うFIBAワールドカップだ。そして、アジアで最上位に入り、2024年パリ五輪の出場権をつかむことを目標に掲げている。そんな代表チームを率いるのがトム・ホーバスだ。東京五輪で女子日本代表を銀メダルに導く偉業を成し遂げた名将が男子でも再び世界の列強を相手に結果を残せるのか、日本だけでなく世界のバスケ界が注目している。今年も間違いなく日本バスケ界の中心にいる、アメリカ帰国中の(12月中旬)ホーバスに、オンライン取材にて大舞台に向けた意気込みを聞いた。

2月の代表活動へ「これまで呼んでいない新しい選手も見てみたいと思っています」

──まず、2022年はどんな一年だったか、総括をお願いします。

2021年の代表戦はワールドカップアジア地区予選 Window1の中国との2試合のみで内容として課題が多い試合でしたが、2022年はとても良かったです。素晴らしい選手たちが見つかりました。そして夏の間にWindow3からアジアカップ、Window4と試合が続いていく中で、選手たちが代表のバスケをよく分かってきたと思いました。当初は今のレベルまで到達しないかもしれないと考えていたので、とてもうれしかったです。チームの進むべき道はしっかりと見えていて、とてもポジティブです。

──2023年の代表活動を見ると、まず2月23日、26日にホームでWindow6が予定されています。これまでの起用法を見ると、メンバーは固定化されているような印象を受けますがトライアウトは終わりましたか?

2022年は50人以上の選手を強化合宿やデベロップメントキャンプに呼びました。目の前で見て20人くらいの力はだいたい分かっていますが、それ以外はまだトライアウト中です。これまで呼んでいない新しい選手も見てみたいと思っています。2月頭にはデベロップメントキャンプを行って、若い選手たちを少し見る予定です。Bリーグの試合は当たり前に見ていますが、代表の当落線上にいる選手は特別なスタッツを残さないとメンバー争いに加わるのは難しいと思います。

──特別なスタッツといえば河村勇輝選手は30得点以上を連続で挙げるなど大活躍中です。Bリーグでの彼のパフォーマンスをどのように評価しますか。

半年前くらい、河村選手にはもっとシュートを打ったほうがいいと伝えました。彼はそのことにチャレンジしてくれています。30得点以上を連続して記録するのはちょっとびっくりですが素晴らしいことです。他のBリーグの選手でいうと、テーブス海選手も滋賀に行って特別なプレーを見せていますね。

──Bリーグでは外国籍選手とポジション争いにより、代表選手でも日本人ビッグマンはプレータイムが少ない選手が目立ちます。今に始まったことではないですが、この点についてどう思いますか。

プレータイムが少ないのは仕様がない部分もありますが、良いことではないと思います。例えば、ビッグマンの代表選手がいるチームには外国籍のスモールフォワードやポイントガードの選手を獲得したりして、彼らのプレータイムを作ってほしいと思っています。

ただ、私が選手の起用法についてチームに働きかけることはできません。代表選手はリーグ戦にもっと出たほうが良いという考えは持っています。また、所属チームで試合に出られない状況が続くなら、その選手はプレータイムを増やせる環境を選んだほうがいいと思います。

私はトップチームでプレータイムを十分に得られないのなら、出番を増やせるチームに行ったほうが良いという考えです。実際、テーブス選手は移籍後のチームのほうが先発で多くの時間プレーすることでアピールできていると思います。

トム・ホーバス

「ネッツでの雄太の役割は日本代表で私が求める役割とすごく似ています」

──ワールドカップ本番で代表の中心を担う海外組についてはどんな印象ですか。ネッツの渡邊雄太選手は3ポイントシュート成功率でリーグ1、2を争う好成績を残すなど、ローテーションの一員の座をつかみました。

3ポイントシュート成功率が50%以上はうれしいサプライズですね。この高確率が続くかは分からないですけど、雄太選手は自信を持って良いバスケットボールをやってくれています。ネッツでの彼の役割は、日本代表で私が求める役割とすごく似ています。あれくらい3ポイントシュートを打ってほしい。彼は今、とても判断が良いです。ドライブも行って、シュートも打っていて、代表に入っても今と似ているプレーをやってもらいたいです。

アジアカップの時の雄太選手はほぼチーム練習ができていなかったので、彼の役割を100%確立できていませんでした。私も彼がどこまでペイントアタックやシュートができるか分かっていませんでした。ただ、いろいろな選手に言えることですが、2回目の合宿に参加するとすごくスムーズにプレーできるようになります。例えばテーブス海、河村、須田(侑太郎)選手と2回目の合宿を経験して、とてもプレーが良くなりました。雄太選手も次回の合宿になれば、スムーズに適応してくれると思います。

──ネブラスカ大の富永啓生選手は今シーズン、スタッツを大きく伸ばして平均2桁得点を挙げています。現地12月10日には当時ランキング4位のパデュー大と対戦し、惜しくも敗れましたが、終了間際に同点へと持ち込む3ポイントシュートを決めるなど19得点の活躍でした。

富永選手の試合は全部見ています。シュートを打つ時もあれば、打たない時もある。そして入る時もあれば、入らない時もあり、波があることが課題に感じています。パデュー戦もスタッツは悪くなかったですが、最後の4分くらいに2回も3ポイントシュートを打つチャンスがあったのに打たずにドライブしました。日本代表チームでの彼の役割は3ポイントシューターなので、ネブラスカ大でのスタイルからは変えて、順応してもらいたいと考えています。

──ウィザーズの八村塁選手、テキサス・レジェンズ(Gリーグ)の馬場雄大選手についてはどのように見ていますか。

馬場選手のスタッツは悪くないですが、レジェンズはスコアラーが2人いるので、得点を狙えるチャンスは少ないです。代表ではもっとドライブをして、メインの役割をしてもらいたいです。八村選手はケガもありますがプレータイムが少ないので、もっと試合に出てほしいです。代表では当たり前ですが中心選手になるので、ウィザーズと役割は違います。代表ではよりアグレッシブにプレーしてほしいです。

──NBAの選手たちは、ワールドカップ本大会まで限られた期間しか代表活動ができません。この点について不安はありますか。

雄太選手と馬場選手は大丈夫です。八村選手はまだ一緒にやっていないので彼は少し時間がかかるかもしれません。ただ、日本代表とウィザーズのバスケは似ているので問題ないと思います。