文=大島和人 写真=B.LEAGUE

ぶっつけ本番でも『違い』をはっきり見せるパフォーマンス

ジョシュ・チルドレスはこれからBリーグの『目玉』となるプレイヤーだ。33歳の彼は2004年のNBAドラフトにおいてアトランタ・ホークスから全体6位で指名され、NBA通算391試合に出場したキャリアを持つ。藤田弘輝ヘッドコーチが「リストに名前が挙がってきたときは興奮しました」と語るほどの人材だ。

17日の晩に来日してからまだ1週間足らず。チームは土日に試合をして月曜はオフだったこともあり、戦術的な練習はまだ全く行っていないという。つまりぶっつけ本番に近い状態で23日のBリーグ初戦を迎えていた。しかしそんな中でも、彼は違いをはっきり見せた。

第1クォーター残り3分10秒でコートに入ると、その30秒後には早速ブロックショットで場内を沸かせる。オン・ザ・コートが「1」になった第2クォーターもパワーフォワードの位置でプレーを続け、第2クォーター残り8分14秒には来日初ポイントとなる3ポイントシュートも決めた。

藤田ヘッドコーチにチルドレスの評価を尋ねると「実は彼のプレーをライブで見たのは今日が初めて」と言う。30歳の青年指揮官はこう続ける。「プレーのスケールの大きさを感じましたし、クリエイト能力も非常に高い。いろんな場所から点数が取れるようになるし、ウチのシューター陣も生きると思っている」

203cm97kgというサイズは日本だと『ビッグマン』に相当する。しかし「自分の特徴はプレーの多様性。いろんなポジションでプレーできるところを、このチームを良くするために生かしていければ」と自ら口にするチルドレスは、スピードや技術といった面もハイレベルなオールラウンダーだ。

富山のボブ・ナッシュヘッドコーチが「スラッシャーだということは分かっていた」と述べたように、自らボールを運んで切れ込むプレーはまず彼の強み。またこの富山戦は21分49分という限られたプレー時間ながら、チーム最多の13リバウンドを記録。スピードや跳躍力といったアスリート性は圧巻だった。

シュートタッチとチームとの連携が今後の課題

また、リバウンドは彼が三遠で特に求められる部分だ。チルドレスも「フェニックスは身長的に他のチームより少し劣るとヘッドコーチから言われた。そこを自分がカバーしてリバウンドの部分でも助けていきたいと思っている」と抱負を口にする。

守備面でも「相手のビッグマンをできるだけペイントから追い出す。難しい状態で2ポイントを打たせる」というコーチの指示を遂行。連携不足からガード陣のカットインを許す場面もあったが、富山のビッグマンのシュート成功率は実際に低かった。

ただし、コンディションや試合勘の不足もあって、物足りない部分はあった。フリースローは7本放って成功が3本のみ。10ポイントを決めたが、イージーなレイアップを落とすなどシュートタッチに難があった。ただそこは本人も「最初の試合なので、その点は心配していない」と気に病む様子がない。

周囲の連携不足を強く感じたのは、パスのタイミングだ。太田敦也が「『本当にここで出すのか』という感じの時もあった」と述べるように、しばしば受け手の準備ができていない状況でチルドレスのパスは出ていた。彼はおそらく他の選手が見えないパスコースを見ていて、ジャッジも早い。そんなギャップが味方のファンブルを誘い、3つのターンオーバーを記録する理由になった。

鈴木達也も「最終的にはパスをしっかり出していた。確率の一番高いところを狙うタイプとだ思う」と分析するように、チルドレスは決してボールを独占するエゴイストではない。だからこそ鈴木は「彼が日本に慣れるだけでなく、僕たちが彼の技術に追いついていくことも必要」と口にする。捉え方によってはオフェンスの伸びしろ、イメージが合った時の可能性を感じるパスのファンブルでもあった。

藤田ヘッドコーチが「スペーシングの取り方、パスの出し方、ディフェンスの基礎的なポジショニングがしっかりできている。だからそんなにちぐはぐにならない」と分析するように、ぶっつけ本番ということを考えれば、富山戦のチルドレスは総じてよくやっていたと評価するべきだ。

「何より願っているのはフェニックスの成功です」

三遠は第4クォーターの半ばからチルドレスをスモールフォワードに置き、太田がセンターに、ロバート・ドジャーがパワーフォワードに入る、2メートル台の選手を3名並べたラインアップを試した。日本人ビッグマンの太田がいることで、チルドレスをウイングの位置に置いてもインサイドが弱くならない。

藤田ヘッドコーチは「彼が3番に入ることによってディフェンスリバウンドが強くなる。外から切れ込める選手も一人増える。試しがいのあるラインアップだと思います」とこの起用を説明する。太田も「僕が外国人とマッチアップして台頭かそれ以上に渡り合えば、あいつのところでアドバンテージをいくらでも取ってくれる」と期待を口にする。これはオン・ザ・コート「2」の時間帯に、チルドレスのクリエイト能力を生かす夢の布陣になるかもしれない。

鈴木が「普段はすごい紳士的でいい奴」と評するように、チルドレスはメディアに対しても穏やかで丁寧な語り口で接していた。「新しいリーグを開始したということで、Bリーグの発展も願っていますが、何より願っているのはフェニックスの成功です」というコメントからも伝わるように、謙虚で地に足の着いた受け答えを貫いていた。

単刀直入にチルドレスのことをどう思うかのか? 日本代表の大田は「うらやましいと思います」と言い、B1アシストランク首位の鈴木は素直にこう返してきた。「すごいですよね。あのブロックショットはベンチから、お客さんじゃないですけれど本当に楽しみながら、頼もしいなと思いながら見ていました」

チルドレスのコンディションが上がり、連携も高まった時にどれだけのプレーを見せてくれるのか――。今から楽しみでならない。