トム・ホーバス

アジアカップに続いて出場の、富樫を筆頭にした6名への信頼度の高さ

男子日本代表は8月13日、14日に行われたイラン代表との強化試合で82-77、80-58と連勝を遂げた。アジアカップで76-88と力負けした時と比べると、相手は代表経験の乏しい若手ばかりだったが、それでも激しいプレッシャーによるディフェンスで相手のリズムを崩し、2試合とも80点以下に抑えることができたのは収穫だった。

また、この2連戦は馬場雄大がトム・ホーバス体制では初めて日本代表として出場し1試合目に19得点、2試合目に21得点をマーク。ホーバスヘッドコーチの求めるシューターとしての役割をまだまだ遂行できているとは言い難いが、持ち味である強力なドライブと堅いディフェンスでチームの中心選手として、頭一つ抜けたパフォーマンスを見せてくれたのは大きかった。

今回、2試合合計で15選手が出場したが、馬場以外ではアジアカップに続いて出場した6選手(富樫勇樹、須田侑太郎、西田優大、河村勇輝、井上宗一郎、吉井裕鷹)の活躍が目立ち、彼らに対するホーバスの信頼度の高さもうかがえた。

6月上旬に行ったJBAによる5人制男女日本代表チームの強化、活動方針の発表会見の席で男子は42名の第1次候補選手を発表。その際、Window3とアジアカップ、今回の強化試合2試合とWindow4と2チームに分けて活動すると明かし、ホーバスヘッドコーチはその意図を次のように語っていた。「(チーム分けは)強さや身長、ポジションを考えて本当にイーブンな形で決めました。Bリーグのシーズンが終わったばかりで、ケガ人もいるから大変だったけど、今分けているチームにAとかBはない。ウチのバスケを上手にやりたいから分けました」

この時、両方のチームに参加する選手もいると語っていたが、基本的にはより多くの選手を実戦でテストするためのチーム分けかと思われた。しかし、Window4に向けた強化合宿メンバー16名の内、アジアカップから続いて選出された6名がイラン戦で2試合ともにメンバー入りした。逆に今回から参加した10名の内、2試合ともにメンバー入りしたのは馬場、比江島慎、ニカ・ウィリアムスのみ。もちろん合宿での内容が考慮されての判断ではあろうが、わずか1分29秒のプレータイムに終わった寺嶋良を筆頭に、Window4へ向けた合宿から参加したメンバーの多くは、試合でアピールする十分なチャンスが与えられなかったのも事実だ。

様々な選手を試すトライアウトというより、アジアカップから継続参戦となった選手たちのコンビネーション、ケミストリーの向上に重きを置いた起用法に見えた。

トム・ホーバス

起用法に変化、チームの骨格が見えつつある男子代表

今の男子代表を見ると、東京五輪からチームの大黒柱である八村塁、渡邊雄太に馬場雄大の3人は頭一つ抜けている状態と言え、富永啓生もその圧倒的なシュート力で替えの利かない存在となっている。そして、ホーバスヘッドコーチはキャプテンに指名した富樫にも絶大な信頼を寄せている。「彼にはいろいろ経験がある。本当に練習中もすごく頑張っています。代表に呼ぶ前、いろいろとディフェンスについての噂も聞いていたけど、よく頭も使って頑張っているし、ギブアップしていない」

こう富樫を評価する指揮官だが、一方でより強いリーダーシップを求めている。「勇樹がコート上で素晴らしいキャプテンなのは間違いない。でも、あまり大きい声でチームメートを注意しない。少しずつ良くなってきましたけど、もうちょっとやってほしいです」

今回、ホーバスは富樫に加え、2番手として河村を重宝した。2人ともにサイズ不足であり、この点でのマイナスは確かにある。それでも、スピードのアドバンテージも得られると強調し「ウチは小さいから、大きい選手を探すことの意味が分からない。その考え方はあまり好きじゃない」と言い切った。今度も富樫、河村と170cm前後の小さい司令塔を一人ではなく、二人も重宝する世界的にも稀有なスタイルを継続していきそうだ。

また、今の日本人Bリーガーの中で最も個での打開力に長けている比江島は今回の2試合でチームにフィットしたとは言い難いパフォーマンスだったが、ホーバスヘッドコーチは好感触を得たとも語る。「比江島はベストなプレーを今回は見せなかったけど、思ったより彼はドライブやコントロールのバスケがすごく良かったです。彼のプレーがすごく楽しみです」

この強化試合を経てWindow4の予備登録メンバーには新たにアジアカップ出場組から張本天傑が加わった。ここまでの流れを見ればWindow4ではポイントガードで富樫、河村、2番と3番で馬場、比江島、須田、西田、4番と5番で張本、吉井、井上、帰化枠ニカの10名はほぼ確定している印象は強い。ホーバスはヘッドコーチ就任後、多くの選手を合宿に呼んできたが、今夏の起用法を見るとチームの骨格が見えつつある。ただ、さらなる底上げのためにも、新たにアピールに成功する選手の出現も期待したい。

「ウチの目標は変わらないです。ワールドカップでアジア1位になり、パリ五輪のチケットを取りたいです。どうやってアジア1位になるか、少しずつ分かってきました。今の目標は毎日上手くなりたいです。それだけです」

Window4へ向けこのように語るホーバスヘッドコーチの元、さらに進化した日本代表の姿に期待したい。