バム・アデバヨ

サイズで劣るも運動量とパワーでエンビードに対抗

ヒートとシクサーズのカンファレンスセミファイナルは、4勝2敗という結果以上にヒートが上回った印象でした。ゲーム3とゲーム4でシクサーズの3ポイントシュートが48%も決まらなければ、もっとアッサリと終わっていたかもしれません。その一方でヒートの3ポイントシュートはシリーズを通して30%を下回っており、アウトサイドから決められないことが苦戦の要因でもありました。だからこそディフェンスへの集中を高めることが、ヒートにとって重要でした。

ゲーム3では試合直前になってジョエル・エンビードの復帰が決まりました。シクサーズがケガの状態について適切な開示をしなかったと後にリーグから罰金が課せられたように、ギリギリになって復帰を発表したことはヒートにエンビード対策をさせない狙いがあった気がします。しかし、ヒートは準備万端で待ち構えており、PJ・タッカーを中心に徹底してエンビードのフロント側を守ってパスコースを消しつつ、裏へのパスには素早いカバーリングで対処しました。

チームディフェンスにおける共通意識が高いヒートらしい完璧なチームディフェンスでしたが、カバーリングが発生する以上はシクサーズの選手は誰かしらフリーが生まれることとなり、ゲーム2までほとんど決まっていなかった3ポイントシュートを次々に決められてしまいました。ヒートのローテーションは間に合っていましたが、ギリギリの戦いとなるプレーオフでは、心理的な余裕を与えてしまったことが失敗だったのかもしれません。

そこでゲーム5からはバム・アデバヨが1人でエンビードを守る形に変更しました。得点王のエンビードに対して個人で守り切ることは難しいミッションかと思われましたが、アデバヨは見事に封じ込めました。スピードや運動量で上回るアデバヨがドライブを止めるのは想定されていたことですが、エンビードがポストアップすれば高さとパワーで押し切るはずでした。しかし、実際にはエンビードがポジションを取ろうとしても、アデバヨは運動量でパスコースを切りつつ、パワーでエンビードを押し出していき、まともにボールを持たせる事さえ許しませんでした。サイズで劣るアデバヨでしたが、余りにも強い圧力によってエンビードは外に押し出され続け、ゲーム6ではペイント内でのポジションを競り合う事すらもあきらめ、逃げるようにアウトサイドに広がっていったようにすら見えました。

バム・アデバヨ

この後のシリーズでもスーパースターを凌駕できるか?

最後の2試合でアデバヨは22点しか奪っていませんが、合計62分のプレータイムで得失点差は+42点と圧倒しており、あまりにも大きなインパクトを残してくれました。アデバヨのモンスターっぷりが存分に発揮された2試合だったと言えます。

その一方でディフェンスばかりが目立ったことは、ちょっとした物足りなさもあります。2年前にファイナルへ進んだ時は攻守に躍動していただけに、エンビード相手とはいえ得点の少なさは気になるところです。

2年前のプレーオフではバックスとのシリーズでヤニス・アデトクンポとのマッチアップで奮闘しながら、平均17.2点、4.4アシストを記録しました。またセルティックスとのカンファレンス決勝では、ジェイソン・テイタムのダンクをブロックし、ディフェンス力で試合を決めれば、シリーズを通して21.8点、5.2アシストとオフェンスでも最高のパフォーマンスを見せてくれました。あれから2年が経ち、このどちらかと再び相まみえることになります。

2年の間にアデバヨはチーム内での存在感を高めていっただけでなく、苦手だったジャンプシュートを大きく改善させてきました。しかし、その間にアデトクンポはファイナルMVPとなり、テイタムはオールスターの常連として確固たる地位を築いており、水をあけられてしまった感もあります。ヒートが再びファイナルへと駒を進めるために、『モンスター・アデバヨ』の更なる躍動に期待しましょう。