トランジションディフェンスの徹底で川崎を撃破
10月13日、滋賀レイクスターズは敵地とどろきアリーナで川崎ブレイブサンダースを撃破。ほとんどの時間帯でリードする展開ではあれ、相手はリーグ屈指の強豪である。それだけに、一度でも流れが行ってしまえば一気にひっくり返される、というプレッシャーを常に感じながらの戦いとなった。
その勝利に大きく貢献したのが二ノ宮康平だ。前半の出来は必ずしも良くなかったが、後半はプレッシャーと向き合いながらも激しく戦い、集中力を切らすことなく試合をコントロールした。伊藤大司に続くポイントガードの2番手という立ち位置だが、川崎に追われる展開となった第4クォーターにフル出場。自分に託された試合を、見事に勝利へと導いた。
「本当に我慢の展開で、正直に言えばお互いに良くない試合でした。その中で川崎のシュートが入らない時間帯にしっかりディフェンスをして、しっかりリバウンドを取って、そこからトランジションで点が取れたのが良かったと思います」と、二ノ宮は試合を振り返る。
「一番は全員でトランジションディフェンスをしっかりすること、そしてターンオーバーを少なくすることを意識しました。川崎は爆発力があり、トランジションが速いチームですが、そこさえ防げばしっかり守れます。まずはディフェンスのことを考え、そこからオフェンスは全員がボールを触るようにと心掛けました」
それでも、トランジションを抑えるのは言葉で言うほど簡単ではない。川崎の持ち味をどのように封じたのだろうか。「トランジションディフェンスは一人ひとりの意識です。例えばフリースローの時間、アウトオブバウンズの時間、プレーが切れるたびに全員で確認することでだいぶ変わります。一人が集中していないとどこかが空いてやられてしまいますが、全員が集中していれば守れます。狩野(祐介)と2人で高橋(耕陽)に声を掛けたり、(ディオール)フィッシャーは時々オフェンスのことばかり考えてしまうので、そこで『オフェンスよりもディフェンスを意識しよう』と。伝わっているかは分からないですけど、言葉は掛けるようにしています」
自分に託された試合「自信を取り戻せというメッセージ」
慶応義塾大からトヨタ自動車アルバルク入り。Bリーグ1年目はA東京でプレーし、昨シーズンは琉球ゴールデンキングスへ。しかし、もう30歳とキャリアは長いが主力としてプレーする機会は決して多くなかった。滋賀へと新天地を求めたのは、自分らしさを出してプレーするためだ。
「僕はもともとそんなにシステマチックにやるプレーヤーじゃありません。でも、なんだかんだ7年間そうやってきました。でも、8年目になって『自信を持って自分らしくやれ』と言ってくれるコーチに出会うことができたんです。そういうコーチがいることがうれしくて、挑戦することにしました。自分らしさを出したい、と思ったのが滋賀を選んだ理由です」
滋賀を率いるショーン・デニスは理論派に見えるが、二ノ宮には「自由にやれ」と要求している。「そこには責任感があることをしっかり意識して。ただ好きにやればいいわけではありません。難しいバランスではありますけど」と語る二ノ宮の表情からは充実ぶりがうかがえる。
指揮官からの信頼は強く感じている。今回の勝利は、その信頼に二ノ宮が応えたことから生まれたものだ。第3クォーター途中、先発ポイントガードの伊藤がコートサイドで二ノ宮との交代の準備を整えていた。それでも、そこで二ノ宮が3ポイントシュートを沈めると、デニスは伊藤にベンチに戻るよう指示。そのまま二ノ宮に試合を任せた。
「(スタンバイする伊藤の姿は)視界の端に入っていました。そこでシュートが入ったのはたまたまです。でも、今までのチームだったら入れても交代でした。コーチはすごく僕のことを考えてくれたんだと思います。シュートが入ったところでの『自信を取り戻せ』というメッセージだと汲み取りました。その時点で最後まで行くんだろうと感じ、頑張らなくてはと思いました」
「8年目の今だからこそ、もっと成長できる」
優勝候補のA東京や琉球から、「まずは残留」を目標とする滋賀への移籍は『都落ち』と受け止められるかもしれない。だが二ノ宮にネガティブな感情はない。「そう言われるかもしれませんが、調子が悪くても試合に出してもらえます。今までは調子が悪かったらプレーできませんでした。ダメな時でも挽回できるチャンスが与えられるのはプロになって初めてのことなんです。それこそ責任を感じます」
この試合でもデニスヘッドコーチは、前半の二ノ宮が「シュートが入っていなくて自信を失っているように見えたので一度下げた」と明かしている。それでも「自信を持ってプレーするように」と念を押して、再びコートへと送り出した。そのチャンスを生かし、二ノ宮はチームに勝利をもたらしたのだ。
任される以上、責任がある。そのプレッシャーを感じながらも、プレータイムが与えられるのは選手の本能として歓迎すべきこと。「楽しいし、やりがいがあります。今までのチームが嫌だった、というわけではないですよ。ただ実戦で求められることが増えたのは事実です」
だからこそ、二ノ宮は貴重な勝利を手放しで喜びはしないし、勝負どころでの重要な得点だった3ポイントシュートについても「たまたまです」と多くを語ろうとはしない。「はっきり言って、今日も個人的な出来にはあまり満足はしていません。チームを勝利に導くことができてうれしいし、川崎に勝ったのは自信になりますが、『もっとできるんじゃないか』という個人的な願望がまだあります」
だからこそ、1試合1試合で二ノ宮は自分の力を証明しなければならないと考える。「チームの目標であるチャンピオンシップ出場をまずは目指して、こういう強豪にも最低1勝はすること。個人的にも『もっとできる』という姿を見せられるように。もう8年目ですけど、8年目の今だからこそもっと成長できると思っています。それを見せられるように頑張ります」