ヤニス・アデトクンボ

今シーズンのアデトクンポのショートレンジ成功率は40%

連覇を狙うバックスですが、変則スケジュールにより昨シーズンのファイナル終了が遅くなった上、直後に開幕した東京オリンピックに3人の選手を派遣したため、十分なオフが取れず欠場者も増えてしまい、シーズン前半は苦労しました。それでも優勝経験からくる余裕もあってか、マイペースに調整を続けることができ、東カンファレンスの2位まで上がってきました。

昨シーズンのバックスはドリュー・ホリデーを獲得したことでサラリーキャップが圧迫され、選手層が薄くなったこともあり、ディフェンスの安定感は失われました。その一方で、2年前までは『強固だが明確な穴がある』チームディフェンスとして、プレーオフになると崩されてしまっていたのに対して、個の強みを生かして対応していくディフェンス力が優勝への原動力になりました。

同じ相手との試合が続くプレーオフではスカウティングにより戦術が解析されていくこともあって、最後は純粋な個の戦いになる傾向があります。同時に相手の良さを消しに行ける強烈な個性は、戦術を無効化する大きな武器でもあります。特にホリデーがプレッシャーディフェンスで乱し、ヤニス・アデトクンポの異次元の身体能力によるヘルプ能力は、わかっていても対策できない個性でした。連覇にはディフェンス力こそがバックスの要になります。

不安要素であるビッグマン不足は、サージ・イバカの獲得でカバーしましたが、プレーオフまで1カ月となったところで、ブルック・ロペスも戻ってきました。身体能力の高い選手が多い中で、適切なポジショニングによってチームの穴を埋めていくロペスの不在がバックスが安定感を失った大きな要因でもあっただけに、ここからコンディションをあげていくことが期待されます。

ファイナルではサンズに2連敗した後で、4連勝と一気に盛り返しましたが、そこで重要だったのがロペスの絶妙な駆け引きでした。クリス・ポールとディアンドレ・エイトンのピック&ロールに対して、パスコースを切りながらポールにプレッシャーをかけていったのは、連戦だからこそ発揮されたロペスの上手さでした。エースキラー担当だったPJ・タッカーが移籍しただけに、アデトクンポとロペスが隙のないインサイドカバーをする重要性が高まっていくでしょう。

もう一つ連覇への不安要素でもあり未知数なのは、アデトクンポのフィニッシュ力です。昨シーズンのプレーオフでネッツに苦戦したのは、ブレイク・グリフィンのディフェンスにアデトクンポが止められたことが大きな要因でした。パワーでもスピードでも対抗できるグリフィンは、ドライブを最優先に守り、ゴール下にさえ侵入させなけれOKという守り方をしてきました。その代わりに高さに対抗するのはあきらめており、ペイント内でのフローターやフェイダウェイにはほとんど反応せず、アデトクンポのショートレンジのシュートが落ちることを前提にした守り方でした。

同じことはサンズのジョー・クラウダーやエイトンも行っており、チームとしても素早いヘルプで対抗してきました。ところがアデトクンポは、シーズンで37%しか決まっていなかったショートレンジのシュートを、ファイナルでは56%と高確率で決める驚異的な成長を見せました。それまではゴール下にさえ進めないと困っていたアデトクンポが、ペイント内に少しでも侵入すれば良くなったことでプレーに幅が生まれ、文句なしのファイナルMVPになりました。

迎えた今シーズンのアデトクンポは同じショートレンジの成功率は40%に留まっています。長い目で見れば改善傾向ではあるものの、未だに弱点といえる確率だけに、各チームがアデトクンポ対策として利用してくる可能性があります。バックスの連覇にはディフェンスの安定と、アデトクンポが再びステップアップすることが求められます。