佐藤涼成は全国から優れた選手が集まる福岡第一で1年生だった去年から公式戦に出場しているガード。今年は2年生ながら先発に名を連ねている。もっともキャプテンからの評判は、ハーパージャン・ローレンス・ジュニアによれば「1年生の時は先輩をちょっとナメてて、2年生になって成長して敬語を使うようになりました」であり、松本宗志は「ガツガツ言うジュニアの前では大人しいですけど、生意気なのは変わっていません。僕には練習中にも『宗志、決めろ』とか言ってくるので」とのこと。ただ、「プレーは2年生の中でも一番上手いし、まとめる力もある次期キャプテン候補です」と先輩にも一目置かれている。
キエキエトピー・アリはコンゴ共和国からの留学生で、去年まではクベマジョセフ・スティーブに続く2番手としてチームを支えてきたが、最上級生となった今年はチームの大黒柱として、200cmの長身とスキルを生かしてフル回転するつもりだ。ハーパーは「アリは努力がすごい」と絶賛する。「授業で寝たりせず、全部しっかりノートに書いていて、すごく真面目です。プレーの面でもスティーブさんより上手くなったと思います。器用だしシュートも決めます。それでいてルーズボールにも飛び込むし、ブロックとか合わせのプレーもできる。ものすごく成長しています」
両キャプテンが認める、チームに欠かせない戦力
──まずは佐藤選手から、自己紹介と福岡第一を選んだ理由を教えてください。
佐藤 岩手県出身の佐藤涼成です。中学時代は県大会優勝、東北で3位、ジュニアオールスターでベスト4です。高校をどこにしようか考えていた時、福岡第一と土浦日大の試合を見ていて、河村勇輝さんのプレーを見てすごいと思いました。それから親に「福岡第一に行きたい」と話しながらyoutubeとかの映像を見て、ここで上手くなりたい、優勝したいと思うようになりました。
──続いてアリ選手もお願いします。日本に来た当初は言葉も分からず、いろいろと大変だったのでは?
アリ コンゴ共和国から勉強とバスケをするために日本に来ました。僕は日本語が全然分からないまま日本に来たのですが、コンゴの先輩がいるから安心したし、勉強を頑張れば大丈夫だと思ってここに来ました。最初は誰も知らなかったから楽しい気持ちにはならなかったですが、3日目ぐらいから楽しくなりました。今は高校生活がとても楽しいです。
──キャプテンの松本選手、ハーパー選手が付き添いで来てくれていますが、学校でのアリ選手はどんな感じですか?
松本 最初は僕が少し英語ができるので、今の気持ちだったり困っていることを聞いてあげていたんですけど、アリから僕たちにコミュニケーションを取ってくる積極性が年々上がってきて、今では会話も問題なくできるようになっています。クラスも一緒なので普段の授業も見ているんですけど、日本語の授業に普通に付いてきていますし、バスケだけじゃなく勉強もすごく頑張っているのですごいですよ。
佐藤 本当に真面目で熱心です。僕の代の留学生はアリさんほど提出物もできていないです。試合でも日本人が行くみたいにルーズボールにダイブするし、とんでもない選手だと思います。普段もチーム練習が終わった後のシューティングとかストレッチで、結構みんなしゃべり始めたりするんですけど、アリさんはそういうのを止めたりするので、3年生としてすごいと思います。
──アリ選手から見た佐藤選手はどんなプレーヤーですか?
アリ 1年の時からプレーが上手いです。1年生だから思い切りぶつかっていこうとい気持ちが良い方向に出ていました。今は2年生になって主力で出ているけど、ガードとしての責任感が出てきて、ジュニアが苦しい時に助けたり、2年生だけど声を出したり、ゲームに対する関わり方が変わってきたと思います。
アリ「お父さんのためにも、バスケも勉強も頑張ります」
──佐藤選手は2年生ながらスタートで出ています。プレッシャーは感じませんか?
佐藤 1年生の時は目標にしている勇輝さんの真似をしようとずっと考えていました。2年生になってスタートに選ばれて、責任は感じますけどやり甲斐があります。スタートに入れたことには正直びっくりしましたが、3年生が抜けた新チームはレベルが下がったので、僕がガードだけど身体を生かしたプレーでアピールしてチームを引き上げたいと思いました。まだ去年のチームのレベルには達していないと思うので、自分が何か一つでも去年の先輩を超えるようなプレーをしなきゃいけないと思っています。去年は勝つのが分かっていて、安心しながら試合に出ていたという感覚が正直ありました。でも今年は自分がスタートになって、絶対に勝たなきゃいけないという気持ちなので、学年に関係なく自分の実力を発揮して、今の3年生が優勝できるように頑張りたいです。
──なかなか試合がない状況が続きましたが、学年に関係なくスタートで出ることには慣れましたか?
佐藤 流れが悪い時に僕はあまり活躍できなくて、やっぱりまだまだという感じです。どこでチームの役に立てるかを考えたら、流れが悪い時にディフェンスで頑張って、声を出したりすることだと思います。(當山)修梧さんや(砂川)流勇さんがシックスマンで出るので、試合の流れをつかんでもらうために、流勇さんがシュート落としたら「もっと打っていいよ」と声を掛けますし、修梧さんは帰ってきたら必ずハイタッチをして「ナイスプレー」と声を掛けるようにしています。
──アリ選手は新型コロナウイルスの期間中は家族のところに帰りましたか?
アリ 県大会の前にお父さんが亡くなったので、1週間ぐらい帰りました。とても悲しかったですけど、一度地元に戻ったので気持ちを整えて、日本に戻ってきました。お父さんのためにも、バスケも勉強も頑張ります。
ハーパー お父さんが亡くなってアリは「お父さんのために頑張る」と言うようになりました。バッシュにも「お父さんのため」と書いてあるので見てください。お父さんから勉強が大事だと言われていたので、勉強もすごく頑張ります。留学生なのに僕たちと同じテストを受けて30点以上取るのはすごいことだと思います。お父さんのために、という気持ちですごく頑張っています。
──アリ選手は天皇杯の京産大戦でブザービーターを決めました。あの時の気持ちを教えてください。
アリ 試合は勝つこともあるし負けることもありますが、僕は最初から勝つことだけを考えています。最後のプレーは自分が決めるという気持ちが強くて、相手がダブルチームで来て早田(流星)が空いていたんですけど、パスしないでシュートを打ちました。入って良かったです。
──アリ選手は福岡第一のエースとしての自覚はありますか?
アリ 僕はナンバー2です。1番はジュニア。
ハーパー すごく謙虚なんですよ。でも、いざとなったらピックに呼んでも来てくれなくて、ポストで面を取ってボールを入れろとアピールしてきます(笑)。
佐藤涼成「流れが悪くなった時の1本を自分が必ず決める」
──それぞれ、ウインターカップで負けたくない選手はいますか?
アリ 東山のジャンピ(ムトンボ・ジャン・ピエール)は手が長くてブロックのタイミングも上手いから大変です。報徳学園の(コンゴロー)ディビッドは身体が強くて厄介な相手。留学生には負けたくないですが、やっぱりジャンピには負けたくないです。東山の米須(玲音)くんと中川(泰志)くんは1年生の頃から3人一緒に出ていて、今は3年生でチームの主体となっているから、3人のプレーがすごく目立ちます。そこが東山の強みなので気を付けたいです。
佐藤 明成の菅野ブルース選手です。ポジションは違うんですけど、同じ県でジュニアオールスターでも一緒で、クラブチームも一緒だったので結構会話をするんです。そういった中で、2人とも地元を離れて強豪チームに入って、ウインターカップで戦える機会があったらすごいことなので、明成には絶対負けたくないです。
──バスケ王国の福岡県に来て、バスケの環境はどうですか?
佐藤 東北から九州に来て感じたのはバスケの違いです。東北は1対1で倒せちゃうチームが多くて、中学校の時は僕が得点を取っていたんですけど、こっちに来たら全然通用しなくて、大濠や延岡学園との試合では自分がやりたいプレーを全部止められたりして、最初は「やっていけるのか?」という不安がありました。こっちに来てすごく勉強になったと思います。
──あこがれの選手はいますか?
佐藤 前はNBAをよく見ていたんですけど、最近は高校バスケや自分のプレーを見るようになりました。それで一番初めに思ったのが、ジュニアさんの脚力。どこまでも付いていく脚力はどうやれば真似できるのかなって。今も一緒に練習しているんですけど、どういう足をしているのか分からない。人間の域を超えている、野生ですよ(笑)。同じ練習をしているので、3年生になったらああいうディフェンスができるんだろうかと思ったりします。
──アリ選手はバスケも授業もない時間はどう過ごしているんですか?
アリ アニメの『聖闘士星矢』が好きで、フランス語で全部見て、今は日本語で見ています。
──どこかに出掛けたりすることは?
ハーパー 留学生で集まってみんなで天神で洋服を買ったりしてるんですよ。留学生はみんなスタイルが良いのでモデルみたいだし、一緒に出歩くからすごく目立ちます。一度、天神で「写真撮ってくれ」って呼び止められて、撮ったら写真を見て、もう一回撮って、というのを10分ぐらい繰り返したことがあります。プライベートは結構謎ですね(笑)。
──ウインターカップが今年最初で最後の全国大会になります。意気込みを教えてください。
アリ 去年と一昨年の先輩は優勝したので、僕たちも優勝して3連覇したいです。毎日の練習でみんなに声を掛けて、チームのモチベーションをしっかり高めてウインターカップに向けて頑張っていきたいです。
佐藤 3年生を必ず優勝させたいですし、その中で自分の仕事をしっかり果たしたいです。僕らをマンツーマンで守るチームは少ないと思うので、ゾーンディフェンスに対して自分のドライブからシューターの宗志さんや流勇さんに気持ち良く打ってもらいたいです。逆に2人が止められて流れが悪くなった時の1本を自分が必ず決めるという気持ちを出してやっていきたいです。