文=大島和人 写真=B.LEAGUE

『入り』は悪くなかったが「突き詰めていければ」

横浜ビー・コルセアーズの2017-18シーズン開幕戦、田渡凌のデビュー戦は56-73という悔しい結果に終わった。

『入り』は悪くなかった。彼がコートに入ったのは第1クォーター残り3分29秒で、12-13とビハインドの状態。そこからスムーズにボールを動かして、残り2分2秒にはジャンプショットから3ポイントシュートも決めている。横浜が20-13とリードして第1クォーターを終える立役者の一人になった。

ただチームはハーフタイム以降に崩れ、後半は19-45というスコアだった。田渡は後半の展開をこう振り返る。「立ち上がりで相手に流れを一気に持っていかれてしまい、自分が出たときも流れを引き戻せなかった。滋賀は1試合を通して同じバスケットをしていたけれど、こちらは流れが崩れた時にチーム内でいつもやっていることがでず、コミュニケーションのミスもいっぱい出て負けてしまった」

自身のプレーについてはこう口にする。「決めなきゃいけないシュート、決められるシュートを落としてしまった。あとは並里(成)さんにだいぶやられた。そこを抑えないと同じ展開になってしまう。ボールスクリーンのところを止めたり、そこを突き詰めていければ」

ホームで迎えた初戦、会場の熱気に「すごいな!」

古田悟ヘッドコーチは開幕戦の田渡について「ピック&ロールを上手く使いながら積極的にプレーするのがスタイル。思い切り良くやっていた」と語る。間違いなくオフェンスの『形』はできていた。ただし3ポイントシュートが4分の1、2ポイントも5分の1とシュートの成功率が低かった。またディフェンス面では滋賀のピック&ロール、インサイドとポイントガードの並里との連携に上手く対応できなかった。

シュートの質については、コートサイドで三男のデビュー戦を見届けていた父・田渡優氏(東洋大京北高監督)が興味深い指摘をしていた。「時間がなくて負けていてというシュートも、入れないといけない。それが課題だね。最後見たらボールが回ってないもん。慌てて手投げで打っていたから、自分のシュートじゃない。最初に打ったジャンプショットは、回数でいうと大体2回転半なんですよ。3ポイントが入るのはそういうシュートで、川村(卓也)なんかは3回転する。凌も回っていかないとダメだな」

ただ本人に自信を失った様子はなかった。彼はこう収穫を口にする。「決められるシュートがあったし、そういうシュートは打てているので、それを決めるだけ。それさえできれば自分のバスケができるし、チームがいい方向に向かうと僕は信じている。そういう意味で良い収穫のあったゲームでした」

ビーコルのブースターついてはこんなことを語っていた。「アーリーカップもファンの皆さんがかなり来ていただいて熱いなと思ったんですけれど、今日はホームゲーム。試合前のワークアウトシュートの時からお客さんが出てきていた。自分もアドレナリンが出て、いつも痛い足も痛くなくなってすごいなと思いました」

最終的にデビュー戦のプレータイムは16分42秒。7得点2アシスト1リバウンドという結果だった。そして30日の第2戦では「明日は絶対にやる」という言葉の通りにチームを76-45の快勝に導いている。8得点5アシストと数字も伸ばした。

「勝てていないチームを勝たせたくて来た」

田渡はルーキーではあるがすでに24才。学年では富樫勇樹と同じだ。京北高から渡米した後にいわゆる浪人期間もあり、短大からドミニカン大学カリフォルニア校に転校してこの夏に卒業した。カレッジではキャプテンも任され、最終学年は全試合に先発。平均31分のプレータイムで8.8得点を記録している。高校時代は一人で何でもできるようなスコアラ―だったが、アメリカでは周りを生かす、引っ張るという「リーダーシップ」を磨いてきた。

またこの夏はアジアパシフィック大会、ユニバーシアードで国際試合を20試合近く戦っている。だから彼には「外国人とやるのは慣れているけれど、(日本人は)間合いが全然違う」という、他の日本人選手とは逆の違和感もあった。ただそれはすぐ解消できる問題だろう。

田渡は同じく新加入のハシーム・サビートとオフ・ザ・コートでよく行動をともにしている。サビートはBリーグ最長身の221センチ、NBAのドラフトで全体2位指名を受けた『大物』だ。田渡は英語力を生かして彼の日本、チームへの適応をサポートしつつ、どん欲に『勝者の行動』を学び取ろうとしている。

サビートは「自分は大学、NBAとずっと負け越すということがないチームでずっとプレーしてきた。(田渡)凌が『どういうことをしたら勝つ習慣がつくのか』と聞いてきた」と振り返る。田渡も「お互い一緒にご飯行くことも多しい、学ぶことが多い」と話した。

また川村卓也からも様々な影響を受けているという。「川村さんも18才でリーグに入って、先輩たちに『お前は思い切りシュートを打て』と言われたんでしょうね。僕も『思い切りやれ』って言われている。普段は結構息が合うんですけれど、今日はなかなかそれを出せなかった。ただ思い切りやるだとか、迷ったプレーをしないということは学びました」

開幕戦の川村は球離れがよく、自ら仕掛けるより『仲間を生かす』プレーに徹していた。それは田渡のような若手や、チームへのメッセージだったのだろう。「去年なかなか勝てていないチームで、僕はそこを勝たせたくて来た」という言葉からも伝わるように、田渡は自分が横浜を引っ張るという自負、気概を持つ男だ。サビート、川村といった『良き先輩』にも恵まれている。

田渡が帰国を決めた大きな理由は2020年の東京オリンピックだ。Bリーグへの出航はかなりの時化模様だったが、心強き船員仲間とともに、3年後に向けて彼は力強く進んでいくだろう。

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