河村勇輝

複数オファーからグリズリーズを選んだ決め手は「熱意」と「ビジョン」

7月9日、グリズリーズとのエグジビット10契約に合意した横浜ビー・コルセアーズの河村勇輝がたきがしら会館(神奈川県横浜市)で記者会見を実施した。

河村のマネジメントを担当する楽天によると、河村には昨年の『FIBAバスケットボールワールドカップ2023』の直後からNBAドラフトが実施された6月までの間に、NBAの複数クラブからコンタクトが届いたという。そしてグリズリーズから具体的な問い合わせが入ったのは先週で、7月6日午前中(日本時間)にエグジビット10契約の申し出を受け、合意に至った。河村はパリ五輪終了後は横浜BCに合流し、グリズリーズとの契約締結までは横浜BCの所属選手として活動を行うという。

河村は簡単なスピーチを行った後に、各社からの質疑応答に対応。「小柄な僕に複数のチームからオファーをしていただいたことが何より嬉しかったですし、驚いた部分もありました」とオファーを知った際の率直な心境を明かし、複数のオファーからグリズリーズを選んだ決め手については次のように答えた。

「1番熱意がありましたし、昨シーズンいた、ジェイコブ・ギリヤード選手という僕のような体格の選手のようになってほしいというような具体的な話もあり、すごくビジョンが見えたからです」

ギリヤードは身長約173cm、体重約73kgのポイントガード。172cm72kgの河村とほぼ同じ体格ながらグリズリーズと2ウェイ契約を結び、昨シーズンは41試合出場、平均17.0分のプレータイムを獲得している。

河村はオファーを受ける前からギリヤードに注目していたと話し、「彼のプレーを見て、 どうすればあのサイズでNBAで活躍できるかと常に研究してきたつもりです。そういった縁があってグリズリーズに行くことができたのはすごく嬉しいです」とコメント。

そして「ギリヤード選手を目指すことも大切ですが、自分にしかできないこと、強みもある。最高の自分でいられるように毎日ハードワークを続けたいと思います」と、あくまで『河村勇輝』としてNBAに挑戦していく決意を口にした。

河村勇輝

盟友の富永とは「必ず一緒にコートに立ってユニフォーム交換しよう」

質疑応答の中では、日本代表のメンバーとのやり取りについても質問が寄せられた。河村は、昨シーズングリズリーズでプレーした渡邊雄太からは、グリズリーズや下部組織のハッスルの環境、世界最高峰のリーグを戦い抜く心構えについてアドバイスを受けたと説明。また、同じくエグジビット10契約でペイサーズからオファーを受けている富永啓生とは「お互い契約が実現したら絶対頑張ろうな」「必ず一緒にコートに立ってユニフォーム交換しような」などと言葉をかわしたと笑顔で明かした。

また、幼い頃から背中を追いかけてきた、同じポイントガードの大先輩である田臥勇太と富樫勇樹についても触れ、「僕がこの決断ができたきっかけは、あのサイズでNBAに挑戦されたお二人方の背中があったからこそだと思っているので、それを紡いでいくというか、僕もその1人として頑張っていければいいなっていう風に思ってます」と話した。

NBAに挑戦した多くの先人たちは学生時代からアメリカに渡り、環境やカルチャーに順応しながら最高峰を目指した。しかし、23歳まで日本で育った河村に同じ素地はない。英語はすでにチームメートの外国籍選手たちと流暢にやり取りできるレベルではあるものの、プライドの高いNBAプレーヤーと小柄なアジア人が、どれだけ対等にコミュニケーションを取れるかは未知数だろう。

加えて、今回の契約はもっとも条件の悪いエグジビット10で、もう一段階上の2ウェイ契約の選手枠はすでに埋まっている。挑戦は初っ端から非常に厳しいものだが、河村はそういったさまざまな困難もひっくるめての挑戦と腹をくくっている。

「これまでに経験しなかったような困難に見舞われたとき、どのように対応したいと考えているか?」と尋ねられた河村は、次のように力強く言った。

「トントン拍子で行くとはまったく思ってないですし、必ず大変な時期、どうしたらいいか分からない時期は必ず来ると思います。それも分かった上で行く。チャレンジする。その決意を決めたのが7月6日だと思ってるんで。言語もありますし、文化もありますし、自分の実力が全く歯が立たないっていうこともあると思います。でもそれでいいと思います。それが僕の今後のバスケットボールキャリアにおいて必ず力になると僕は信じています」

河村勇輝

横浜BCファンへ「『さようなら』っていうメッセージにはしたくないです」

NBAのコートに立つまで、それなりに時間はかかると思っている。来シーズンは自分の力量を周囲に知ってもらう年とし、「2年目、3年目には、必ず自分の真価を発揮しなければいけないと思っている」と話し、常に毅然とした様子で取材に応じた河村だったが、「横浜のファンに伝えたいことは?」という質問への受け答えにだけ、多少の心の揺れが感じられた。

「横浜は大好きな街で、ファン、ブースターのみなさんの前でプレーすることは自分にとって本当に最高の時間、幸せな時間でした。心残りがあるとすれば優勝したかった。それが純粋な気持ちです。自分勝手な夢…で……ビーコルを去ることに申し訳ない気持ちもあるんですけど、僕は23歳で若いですし、ビーコルで優勝するというチャレンジもまだまだ可能性はあるわけで。なので、『さようなら』っていうメッセージにはしたくないです」

会見に同席した白井英介代表取締役兼GMは、河村の離脱について「クラブとしては非常に苦しい」と率直に述べた後、「挑戦を全力でサポートし、今以上に大きくなって横浜に帰ってきてくれるということを強く期待しております。そして、その時に彼を迎え入れられるような力強いクラブになっていることを、彼と約束いたしました」とした。

河村は2年ほど前から、ことあるごとに「自分は若くない」という言葉を口に出すようになった。昨今の国際バスケットボール市場を鑑みればこの認識は決して尖ったものではないが、河村の上記の言葉のとおり、現代人の年齢として見れば間違いなく若いのだ。

日本バスケットボール界が育んだスターは、さまざまな人の期待を背負いつつも自分だけの航海をひたすらに進んでいくだろう。彼がこれまでの人生で備えた様々な力を信じ、その過程をおおらかに見守っていきたいと感じさせられた会見だった。

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