サム・プレスティ

「後退は必ずしも問題ではなく、若いチームにとって必要なプロセスだ

サム・プレスティがサンダーのGMに就任したのは2007年夏のこと。正確にはサンダーではなくシアトル・スーパーソニックスの時代だ。その年にプレスティはケビン・デュラントをドラフトで指名。その翌年にチームは本拠地を移転してオクラホマシティ・サンダーとなった。

プレスティは2008年のNBAドラフトでラッセル・ウェストブルックとサージ・イバカを、翌2009年にジェームズ・ハーデンを指名。若いタレントを揃えたチームは成長を重ね、2011-12シーズンにはNBAファイナルへと駒を進めた。それでも、ハーデンとの契約延長がまとまらずにロケッツへとトレードに出し、ケビン・デュラントは2016年に、ウェストブルックは2019年にチームを去った。特にデュラントが優勝を求めてウォリアーズに去ったことは、スモールフランチャイズの敗北と言える。どれだけ心地良い環境を提供しても、優勝できるチームでない限り、スター選手は出て行くのだ。

それでもバスケは続いていく。プレスティは自分のやり方を貫き、常にサンダーを魅力的なチームに仕立て上げてきた。2023-24シーズンの始動に際して会見したプレスティは「ここで働くようになって16年目を迎えたことに興奮している。偉大な選手が来ては去っていった。そんな偉大な選手たち、チームとしての様々な経験を考えると、本当に素晴らしい16年間だ」と語り、「私は常に強いチーム、強い組織を作ろうとしてきた。それはこの15年間ずっと変わらないし、この先の15年も変えないつもりだ」と続けた。

プレスティの粘り強い仕事により、サンダーは時代を超えて再び『NBAで最も魅力的な若手集団』となった。ただし、チームのライフサイクルにおいてサンダーが今いる場所は一番心地良いものだ。放っておいても若手は経験を積んで成長する。勝たなければいけないプレッシャーはなく、プレーオフを逃しても誰かを犠牲の羊に仕立て上げることなく、「今シーズンもよく頑張った」と満足できる。

しかし、その先に待っているのはデュラントの退団の再現かもしれず、このサイクルにいる間に先を見据えた手を打つことが必要となる。

今のサンダーは危険なポジションにいる。将来の期待感には満ちているが、実際に勝てていない。3年連続でプレーオフに進めず、その間は22勝、24勝、40勝と勝率5割に届かない。この1年で大きく飛躍するかもしれないが、不良債権のダービス・ベルターンスを引き受けるオフの動きを見ると、プレスティは今はまだ勝ちにいくつもりがないのではないかとも思える。シェイ・ギルジャス・アレクサンダーはサンダーとの契約を2027年まで残しているが、今のNBAではスター選手が「出て行きたい」と言い出せば、契約の拘束力はほとんど期待できない。

それでもプレスティは、強いチームを作るために必要なステップを飛ばすべきではないと焦らずに構えている。「ウチはずっと一貫性を持ち、透明性も持ち合わせているが、それで成功を収められるかどうか、私には正直分からない。昨シーズンは勝率5割に届かず、苦戦続きだった。シーズンを通して何度も成長ではなく後退を経験した。ただ、その後退がシーズンが進むにつれてプレーを改善させた。私が考えているのは、後退は必ずしも問題ではなく、若いチームにとって必要なプロセスだということだ」

若いタレントの宝庫で、それぞれがモチベーション高くバスケに取り組み、助け合いながらプレーしている。そんなサンダーには成功が約束されているように感じるが、プレスティは「我々は多くの不確実性に向き合わなければいけない」と慎重さを忘れない。

「一般的にそう言われるような成功を収められるかどうかは分からない。昨シーズンはそうじゃなかった。1年を通して多くの調整、修正が行われ、今回また最初からチームを学び、シーズンを通して多くの努力が必要となる。それは長いプロセスだ。ただファンに言いたいのは──その乗り心地を楽しんでほしいということ。ウチには素晴らしい若手たちがいて、みんな一生懸命にバスケに取り組んでいる」

良い準備を整えていても、成功できるかどうかはツキに左右される部分も大きい。プレスティのやり方は、最善の準備をサステナブルに続けていくことだ。ドラフト指名権は2030年まで数えきれないほど持っており、チームがどの段階にあっても動きやすい。今の主力選手がシェイに続きオールNBAへと成長して、仮に活躍の場をサンダー以外に求めたとしても、次のタレントが出てくるだろう。それが彼にとっての最善の準備であり、いずれデュラントの時代を上回るチャンスがやって来ると信じている。

「最初の15年間はそれなりに上手くやってきたと思う。それが我々の経験になった。次の15年間はこれまでの15年間を応用し、もっと上手くやってみたいと思う」とプレスティは言い、微笑みながらこう続けた。「私は外が暖かくなって、試合会場に向かう時に車の窓を開けて走るのが好きなんだ。シーズンのほとんどは寒いが、暖かくなり始めた時期こそプレーしたい時期だ。長いプロセスだし課題も多いから約束はできないが、ここから何が起きるかを私は楽しみにしている」