文=鈴木栄一 写真=B.LEAGUE

実力と意志が噛み合った『プロフェッショナルの姿』

セミファイナルで敗れ、優勝は逃した。それでもレギュラーシーズンMVPの称号が示すように、今シーズンのBリーグで最も輝きを放ったのが比江島慎であることに異論はないはずだ。シーホース三河をレギュラーシーズン最高勝率へと導く原動力となり、アルバルク東京に敗れたチャンピオンシップでも、ここ一番の勝負どころで『比江島タイム』の恐ろしさを存分に見せ付けた。優勝を決めた直後、A東京の多くの選手が終わったばかりのファイナルではなく、三河との激闘を制したことを「リーグ優勝のポイント」として挙げていたのは興味深い事実である。

日本代表の絶対的エースでもあり、名実ともに日本バスケットボール界の中心人物である比江島にとって、今シーズンはどんなシーズンだったかを振り返ってもらった。

まずはチャンピオンシップでの結果について。リーグ最高勝率(48勝12敗、8割)、リーグ記録の17連勝と強さを見せながら、ファイナル進出を逃したチームの課題として比江島が挙げたのは、崩れた時の脆さだ。「調子の良い時は40分間集中できますが、負ける時はどこかのクォーターでボコボコにやられてしまう。チャンピオンシップのA東京戦では第1戦の第4クォーターに点差をつけられて負けてしまいました。僕らのバスケットができない時間帯があり、またそういう悪い状況になった時、悪いなりのゲーム運びができなかったことが課題です」

「自分が全責任を負う、そういった強い気持ちで」

バスケットの内容で言えば、これまでよりもアップテンポなスタイルに取り組んだ。リーグ随一のハーフコートオフェンスを武器とする三河にとっては画期的な変化だったが、比江島はここに十分な手応えを感じており、「もっと速くしていいと個人としては思います」と語る。

「これまでに比べるとだいぶアップテンポになり、そこからの得点パターンも増えました。攻撃回数が増加することで、リーグでもNo.1の得点力になったと思います。この部分は継続して、もっと速くできればいい。チームとしても成長できた1年でした」

では、比江島個人としてはどんなシーズンだったのだろうか。「結果は伴わなかったですが、成長できたシーズンでした。三河に加え、代表での経験を得て自信もつきました」と、確かな進歩を実感している。

特にメンタル面、エースとしての自覚については大きな変化があった。「昨シーズンのチャンピオンシップの栃木戦、最後の勝負どころで自分の気持ちの弱さから他人任せになって負けてしまいました。今年は本当に自分が全責任を負う、そういった強い気持ちでいました。メンタル的には一回り、ふた回り成長できたかなというところはあります」

一方でさらなる飛躍への課題も見つけている。「ドライブは自信を持ってできましたが、外のシュート力はもっと身に着けなければいけないと思います。チームの流れが悪い時に、もっと起点となって打開できるだけの力は欲しいです」

「皆さんにBリーグをもっと広めたい意識がより芽生えた」

今シーズンは、クラブ運営の面でも大きく変化した1年だった。ホームの観客数は平均2501人から2866人へと増え、数字以上に会場のチームを応援する熱量は急上昇した。

「ホームの雰囲気はガラリと変わりました。前は社員さんが多い印象でしたが、今は一般のお客さんも多く入っています。週末の楽しみとしてバスケットを見に来てくれていることがコートにも伝わってきます。より盛り上がってきているので、それに応えなければいけないと思います」

期待に応えたい。コート内外で比江島のその思いは強くなっている。「今シーズンはバスケ以外でも仕事をさせてもらいました。Bリーグさんも僕を取り上げてくださって、期待に応えたいという気持ちの面も変わってきました。皆さんにBリーグをもっと広めたい、一般の人により知ってもらいたい、という気持ちを背負いながら、そういった意識がより芽生えた1年でした」

最後に、来シーズンに向けての意気込みを、比江島は「どんな展開になっても対応できるIQとスキルを身に着けたい」と語る。そこには、チームが苦しい時こそリーダーシップを発揮し、自分が勝利に導くのだという強い決意があった。「調子が悪いなら悪いなりにプレーできる。最後のA東京の時はシュートタッチが良くなかったですが、それでももっとやる。もっと自分がチームの中心になって引っ張っていけるようになりたいです」

今シーズンの比江島は、Bリーグの看板選手という地位をさらに確固たるものとした。ただ、それでも頂点の座にはあと一歩届かなかった。この差を埋めるために比江島は『他力本願』ではなく、自身のさらなるレベルアップこそが大事と考えている。チームの結果に対してすべての責任を負う──これはまさに『エースの姿勢』そのものだ。

実力と意志が噛み合った今の比江島のプレーには『金を払って見る価値』が間違いなくある。そう思わせることがプロフェッショナルとしての価値でもある。より大きな舞台に立ち、より輝きを放つであろう来シーズンの比江島が、今から楽しみだ。