文・写真=古後登志夫

福岡第一はインターハイ王者としてウインターカップに出場する。チームを率いる井手口孝監督は、意欲的な指導で鍛え上げたチームに確固たる自信を持っており、「自分たちのスタイルが崩れなければ大学生や社会人とだって戦える」と強い言葉を口にする。
『優勝候補筆頭』と見なされる今のチームについて話を聞いた。

バスケットが人生の自信に、生きていく糧になってほしい

──まずは簡単に、井手口監督の自己紹介をお願いします。

1963年生まれの53歳です。日本体育大学を出て、大学の専攻科に1年残り、最初は中村学園に就職しました。1年目はソフトボール部、2年目にバレーボール部、3年目にやっとバスケットボール部の顧問にしていただいて、吉村明先生と石井先生の下で女子バスケ部を4年間指導しました。いろんな意味での下地は中村学園で教えてもらいました。平成6年に福岡第一に移り、現在に至ります。

──どんな指導を心掛けていますか?

創部から「日本一になろう」と言っています。バスケットを一生懸命やらせる、そのための環境を与えていくということをやっています。ウチにはいろんな子がいます。勉強ができる子もいればできない子もいる。どの子にも、バスケットをやったことが人生の自信になったり、生きていく糧になってほしいという思いがあります。だから「中途半端にやるなよ」と。「好きなことだから一生懸命やりなさい」ということを求めています。

──福岡県はバスケ王国と言われています。大濠(福岡大学付属大濠)としのぎを削る状況をどうとらえていますか?

私たちがチームを作った時には大濠がチャンピオンチームで、そこに勝ちたいという意識でした。すぐ身近に良い目標がある、大濠に勝てば全国ベスト4くらいに行けるというチームが近くにいることは非常にプラスになっています。

現実的な話をすると、インターハイでは今年優勝して、去年はベスト8ですが、今の子たちが1年生の時は1回戦負けです。そういう意味だと福岡のレベルは言われるほど高くないのかもしれない。今年の国体も負けています。だからあぐらをかいているようではダメですね。

──福岡第一の練習環境はいかがですか。

放課後の16時15分からしか練習を始められませんが、体育館2面が男子バスケット部だけで使えるし、私がいれば何時まででも使えます。子どもたちが動ける環境は作れています。

──普段は選手たちを伸ばす指導が必要ですが、強豪校の監督には大会を勝ち抜く手腕も求められます。トーナメントを勝ち抜く上での工夫はありますか?

結局、高校の指導者にはトーナメントしかないんです。負けたら終わりのトーナメントは「一戦ずつ戦う」とよく言いますが、優勝しようと思ったらインターハイだと6つ勝たなくてはならない。6試合で一つと考えることが必要になってきます。体力、気力、集中力を一回戦からの1週間、しっかり維持できるだけの訓練を日頃からやる必要があります。

本当のトーナメントはウインターカップなんです

──今年の福岡第一はどういうチームでしょうか?

僕の理想に近いチームになっています。バスケの魅力はスピードが一番、それから大きい選手がダンクを決めるようなシュートの力。速さと高さ、守りと攻めのトランジションだったり、ミスしたことを我慢して守ったり、そのすべてが人間教育に役立つと思っています。どのスポーツもそうなんですが、それが凝縮されたのがバスケです。そういうことができるのが今のチームと思います。

──インターハイ優勝チームということで『追われる立場』になると思います。

優勝しても何も変わらないですよ。その次の日に帰って来て練習をしているわけですから。たまたま優勝したからウインターカップの第一シードになれただけです。インターハイはウインターカップの新人戦、本当のトーナメントはウインターカップだと思っています。ただ、言うならばそこで第一シードになった。「ここからだ」という気持ちです。

もちろん相手のスカウティングも一生懸命やりますが、自分たちのスタイルが崩れなければ大学生や社会人とだって戦えるぞ、という強い気持ちがあります。2年生まではまだ子供でしたが、3年生になって非常に安定してきました。

あとは私自身が崩れないようにすればいい。「負けました、すいません」では済まない部分があって、それを考えると怖くなるものですが、今年の場合はこれだけの練習を1年間一緒にやってきました。それで「負けていても逆転できる」というような自信があります。

──指導者も試合に負けると心が折れるものですか。

これまでに何度も折れてきました。その結果、少しぐらいのことでは折れなくなりました。私も選手たちもこれで終わりじゃありません。もちろん、高校バスケは最後だから良い結果で送り出したいのですが、自分たちがやるバスケットのことを考えると落ち着けます。相手の研究もしますが、相手に合わすのではなく自分たちのバスケットをする。そういう練習をしてきたと思っています。

──いよいよウインターカップが開幕しますが、抱負を聞かせてください。

インターハイで勝ったからこそ、勝たせて終わらせてあげたいです。バスケットとしては、派手な打ち合いとは違うものができればと。我々のバスケットの基本はディフェンスです。しっかり守って失点を60に抑えて、足を生かして走るバスケットをやる。インターハイとウインターカップの優勝チームとしてオールジャパンに行きたいです。それで大人と勝負して、Bリーグや大学生とどちらのバスケットが日本らしいのかを見てみたいです。