文=鈴木栄一 写真=鈴木栄一、野口岳彦

キャリアを懸けた決断、琉球への移籍で得点能力が開花

昨シーズン、琉球ゴールデンキングスはbjリーグで4度目のチャンピオンとなり、優勝回数で単独トップに浮上。名実ともにbj最強チームとして有終の美を飾った。この王座奪還の立役者となったのが、アイシンシーホース三河(現・シーホース三河)から2015年の夏に加入した喜多川修平だった。

関東大学リーグ1部の専修大学を卒業し、常勝軍団・三河への入団──。この流れだけを見れば喜多川は、バスケ界のエリート街道を歩んできたように思われる。だが、桐光学園高校時代の彼は、全国大会への出場もない全くの無名の存在。専修大学にも指定校推薦で入学し、トライアウトを受けて入部しており、そこからチームの中心にまで成長した叩き上げである(ちなみに現在のチームメートで同じ専修大出身の波多野和也、大宮宏正は、喜多川が1年生の時、波多野が4年、大宮が3年という間柄だ)。

三河時代の喜多川は、加入当初こそ出番は少なかったが、シーズンを重ねることにプレータイムを徐々に増やしていく。そして2014-15シーズンには主将を務め、1試合平均8.3得点と自己ベストの数字を残し、リーグ優勝に貢献する充実の1年を送った。ただ、同じポジションに比江島慎、金丸晃輔の日本代表コンビがおり、大一番での出場機会はどうしても限られてしまう。その中で、更なるステップアップを求めて彼が選択したのが、新天地・琉球への移籍だった。

7年間在籍したチームを離れる。しかも社員選手からプロ選手へと立場も変わる。30歳のシーズンに下した、キャリアを懸けた大きな決断だった。

結果的に、その決断は正しかった。一番の武器である3ポイントを始めたとしたアウトサイドシュートはチーム1の精度を誇り、守備に隙ができるとタイミングよくゴール下にアタックするバスケIQの高さがある。琉球に移籍したことで多くのプレー機会を得た喜多川は、その非凡な得点能力を本当の意味で『開花』させた。コンスタントに1試合2桁得点をマークし、琉球に欠かせない戦力になったことが示すように、彼はチームの脇役ではなく、主役としても輝けることを証明した。

そして活躍はbjの舞台だけでなく、Bリーグになってからも続いている。9月22日、歴史あるBリーグ開幕戦で16得点を挙げ、試合には敗れながら最も印象に残るプレーを見せた選手に贈られるMIP賞を受賞した。

7年在籍した古巣、シーホース三河と『待望の対決』

いまや琉球の中心選手の一人となった喜多川が待ち望んでいたのが10月8日、9日にホームの沖縄で開催された古巣・三河との対決だった。「僕の中ではすごく重要な試合と思っていました。トップリーグの世界に入って7年間、三河でやってからキングスに移籍しました。昨年の1年間、試合をすることはなかったですが、三河の動向はずっと気にしていました。それだけに、待ちに待ったという気持ちが強い2試合だったと思います」と、喜多川は9日の試合後に語った。

喜多川にとっては、Bリーグ開幕戦と同等、もしくはそれ以上に心待ちにしていた三河との初の対決。8日の初戦は69-89と大敗し、彼自身もフィールドゴール8本中2本成功のみの9得点と不発に終わってしまう。だが、翌9日の試合では75-67と雪辱を果たし、彼自身もフィールドゴール13本中7本と高確率でシュートを沈め、16得点を挙げる見事なプレーを披露した。

喜多川は試合後にこう語った。「7年間在籍していたので、僕のプレーは把握されていると思いますが、その中でやれることを見せたかった。昨日は向こうの守り方がうまく、後半はあまり仕事をさせてもらえませんでした。ただ、今日は昨日の反省を生かし、自分の役割を徹底できた。今日は勝ちたい気持ちが強かったですので、そこで自分本来のプレーができたのは大きかったです」

「昨日はやりにくさを意識した部分はありましたが、今日は意識せずに、今までやってきたキングスの中での自分のプレーをしっかりやろうと試合前から思っていました。昨日の時点では、やっと試合ができると少しフワフワした感じがあったかもしれません。それが1日たって、古巣というよりは「18チームの1チーム」とあまり意識しないようにしたことで、いつもの自分のプレーが出せたのかと思います」

そして、「勝った時はうれしいという感情とともに、すごくほっとしました。この点については、自分でも不思議な気持ちでした。自分が活躍している姿を見せることができたほっとした部分もあるかと思います」と、特別だった古巣との初対決を振り返った。

レベルの高い舞台で戦うことで、自分もチームも成長できる

「向こうもまだまだ怪我人もいて、万全の状態ではないと思いますが、当時とは違う自分の一面を見せられたと思います」と語る喜多川。実際のプレースタイルの変化については、「三河の時は、インサイド主体の戦いの中、外で動いてノーマークを作ってのキャッチ&シュートというプレーが多かったです。それが、今は自分から何か行動を起こせてやれているところが違います」と続ける。

Bリーグでは、今までNBLの上位だった強豪だったチームとも一緒に戦うことになり、bjリーグ時代に比べて全体のレベルが大きく上がっている。bjリーグ時代は、言い方は悪いが楽に勝てる試合も少なからずあった。だが、Bリーグではそんな簡単な試合は一つもないというのがチームの共通認識だ。

この過酷な戦いで白星を積み重ねていくために、喜多川はいかにミスを減らしていけるかが重要と見ている。「今はうまくいっていない時間帯での修正する能力が、チームとして低いです。悪い中でも、今日みたいにリズムでプレーし、ゲームの中で修正できれば、もっと良い結果につながると思います。追い付いた時など、重要なところでミスをするとそこを突かれ一気に10点差、20点差と突き放されてしまう。Bリーグでは、そういう力を持ったチームばかりなので、勝負どころで質の良いバスケットをもっと展開していきたいです」

まだまだ始まったばかりのリーグ戦、1年前と比べると過酷な戦いが続いているが、だからこその充実感、やりがいもあると喜多川は考えている。Bリーグの厳しさについて質問すると、「今はすごく楽しんでいる自分がいます」と彼は言った。「レベルの高いリーグで戦えていることで、自分も、チームももっとレベルアップできる。毎週の試合がすごく楽しみになっている部分があります」

Bリーグ西地区、前評判の高い三河、そして名古屋ダイヤモンドドルフィンズに琉球がどこまで食らい付いていけるのか。そのためには、喜多川の活躍も重要な要素であることは間違いない。