ギャリソン・マシューズ

ジェームズ・ハーデンはかつての本拠地で『MVPチャント』を聞くことに

ここ数年のNBAでは『MVPチャント』が安売りされすぎている。新型コロナウイルスでの無観客の時期を経て、その傾向はさらに強くなった。『その試合で最も目立った選手』ぐらいのインパクトでも、客席から「MVP! MVP!」の声が飛ぶのは違和感が拭えないが、その選手が地元ファンから本当の意味でも愛情とリスペクトを勝ち取った証であることは間違いない。

現地12月8日、ヒューストンのトヨタ・センターでこの『MVPチャント』を受けたのはギャリソン・マシューズだった。NBA3年目の25歳、日本のNBAファンにとっては、八村塁とともに2シーズンを過ごしたウィザーズでのプレーが印象的だろう。その彼はウィザーズからの契約延長をもらえず、今夏にはセルティックスのトレーニングキャンプに参加したが、開幕を待たずに解雇されている。

それが11月中旬にロケッツに加わると、すぐさま周囲の信頼を勝ち取った。ロケッツが15連敗を止めたブルズ戦で初めてプレータイムが28分まで伸びて2桁得点を記録すると、その後は先発に据えられて毎試合30分以上プレー。持ち前のハードワークと思い切りの良いアタックで攻守に目立っている。

そんな好調のハイライトが、ネッツ戦の終盤だった。第4クォーターに入ってジェームズ・ハーデンを擁するネッツの猛追を浴びる中で、マシューズは最後の6分間で9得点を挙げる大活躍。持ち前のディフェンスも効力を発揮し、ハーデンのハンドリングミスをした瞬間にコートに身体を投げ出してスティールに成功したプレーは、どの得点よりも客席を沸かせた。

ロケッツファンにとってハーデンは、かつての『チームの顔』であるとともに、ひどい形で出て行った相手でもある。そのハーデンに真っ向勝負を挑んで押し切ったマシューズの活躍にしびれるのは当然で、それが『MVPチャント』に繋がった。

マシューズは「ハーデンは偉大な選手だけど、僕の後ろにいる仲間が助けてくれて、ダブルチームが機能したのが大きい。仲間がいるからと思えばこそ、僕も自信を持って守ることができた。この信頼感があれば、どんな相手にでも対抗できる」と語る。

そして、優勝候補の一角であるネッツに勝っての7連勝に「自信になるよ」と笑顔を見せた。ロケッツは15連敗からの7連勝で自信を付けている。そしてマシューズ自身も、NBAで契約がない立場からロケッツ復活を象徴する存在に、そしてファンから『MVPチャント』を受ける選手になりつつある。

地元放送局が使い始めた『ギャリー・バード』という彼のニックネームは、ファンの間にも浸透しつつある。ラリー・バードとの比較もMVPチャントも彼には過ぎた栄誉ではあるが、暗い話題ばかり続いたロケッツ周囲の雰囲気を変えた功績は決して小さくはない。