スタメン出場するも2分で下げられ、そのまま前半は出番のない『屈辱』
中国とのワールドカップ予選2試合は、いずれも大敗に終わってしまった。トム・ホーバスのチーム作りは最初の一歩を踏み出したところで、この2試合で得た収穫と課題を次に繋げていくことになる。ただ、目の前の試合に勝ちたい気持ちは誰もが同じ。東京オリンピックを3連敗で終えていただけに、相手が中国とはいえアジアの戦いで引けを取りたくはなかった。
比江島慎は初戦はファウルトラブルでプレータイムが13分半と限られ2得点。雪辱を期した昨日の第2戦は、ファウルトラブルを意識したのか慎重になりすぎた。開始2分とたたないうちにターンオーバーを1つ記録しただけで下げられ、前半はそのままコートに戻されることなく29-53と中国に圧倒される展開をベンチから見守った。
「昨日の反省点であった出だしのところで、まず向こうにリズムを作らせてしまった。自分もそこにかかわってしまっていたし、ターンオーバーであったり、昨日のファウルトラブルもあったので、守備でプレッシャーが足りなかったり、自分の役割が出せずに、自分たちのバスケが出せなかった」と、試合後の比江島は反省しきりだ。
トム・ホーバスは試合中の怒鳴り声で有名だが、選手選考や起用法はそれ以上にシビアだ。東京オリンピックを経験し、今回のメンバーでも実績の多い比江島を前半だけとはいえ『干す』起用は極めて厳しいもの。いくら比江島でも特別扱いはしない、先発を託すからには絶対やってもらわなければ困る、という意図が見える。
それでも後半頭からコートに戻った比江島は、吹っ切れたプレーを見せる。前半だけでもはや敗色濃厚ではあったが、それが良い意味で比江島のアグレッシブな姿勢を引き出した。後半だけを見れば14分半のプレーで6得点3アシスト、ターンオーバーはなし。相手ディフェンスを切り崩す起点として、その力を発揮した。
「最初にスタメンで出て、それからプレータイムがなかったので、自分で何が悪かったかを反省しながら。ハーフタイムにも直接エネルギーが足りないという指摘があったので、まずファウルをしてもいい、守備でプレッシャーをかけて、まず守備からリズムを作って、オフェンスの仕事はドライブとペイントタッチなので、そこを見つめ直して、切り替えてやろうと心掛けました」
「Bリーグに帰っても各選手がこのスタイルを意識して」
もちろん、全体的には及第点以下だ。今回の2試合で若い選手が台頭し、比江島のポジションでは西田優大が2試合続けて持ち味を発揮した。それでも、代表経験の浅い最年少の西田はただ思い切って自分の良さを出せばいい。比江島をスタートで起用するのは、試合序盤に日本のリズムを作る大事な役割が難しいと分かっているからこそだ。特に、東京オリンピックまでは絶対的な安定感を誇る髙田真希がいて、この面で苦労しなかったホーバスにとっては歯がゆい現状だったのではないか。
それでも、フリオ・ラマスからホーバスと全く異なるコンセプトに切り替わり、練習時間も短い中で、すべてを完璧にこなすのは難しいし、比江島個人にとっては2試合続けての残念なパフォーマンスだったが、彼だけが悪かったわけでもない。むしろ、ラマスのスタイルが完全に染み付いているオリンピック組こそ、今回の2試合は難しかったはずだ。ホーバスが昨日の試合後に「我慢しかない」と言ったように、新たなチームを作る過程では我慢が求められる。
比江島は言う。「Bリーグとは異なるスタイル、おそらく誰もやったことがないスタイルをこの短期間で習得するのは難しい部分はあったけど、その中でも良い部分は少しずつ出てきたと思う。昨日よりも今日。Bリーグに帰っても各選手がこのスタイルを意識して、役割はこの2試合である程度は分かったので、そこも意識しながらやらないと、また次に集まった時にイチからになっちゃうので、トムさんのプレースタイルを意識しながら今後もやっていきたい」
「自分の役割は、いろんな経験をどうチームに還元するか。トムも言っていたけど、もっとチームを引っ張る役割は本当にやらなきゃいけないと思っているし、それは声の部分もあるけど、自分はプレーで引っ張るほうが役割としては大きいと思います。この2試合はそれが全くできていなかったので、2月にまた呼んでくれるのであれば、そこはしっかりやっていきたい」
比江島は「2月にまた呼んでくれるのであれば」という言葉を口にした。危機感はあるのだろうが、指揮官からの厳しい要求は期待の裏返しでもある。失敗し続けても立場が安泰というわけではないが、比江島が戦う気持ちを失わない限りは、日本代表にとって必要な戦力であり続けるはずだ。