ガソルのロッカーに金メダルをぶらさげる
チームメートの士気を高めるために、現役時代から『飴と鞭』を使い分けていたコービー・ブライアント。2009年と10年にレイカーズが連覇を達成した際、当時の相棒パウ・ガソルのモチベーションを高めるため、驚きの行動を取っていたことを、本人が『247 Sports』とのインタビューで明かしている。そのエピソードを紹介する前に、2008年のレイカーズとガソルについて触れておかなければならない。
ガソルは、2007-08シーズン中のトレードによりグリズリーズからレイカーズに加入。コービーとの相性が良かったこともあり、チームは同年NBAファイナルに勝ち進み、ライバルのセルティックスと激突した。当時のセルティックスは、ポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレンの『ビッグ3』結成初年度で、まだケミストリーが不完全だったレイカーズを押し切り、球団史上17回目の優勝を果たした。
優勝まであと一歩だったガソルとコービーだったが、その数ヵ月後に開催された北京五輪では、敵同士として決勝で激突することになった。2004年のアテネ五輪で屈辱の銅メダルという結果に終わったアメリカは、コービーらが中心の最強チームで臨み、見事に強豪スペインを破って金メダルを獲得した。コービーはオフに勝者になれたものの、ファイナルでも負け、オリンピックでも銀メダルという結果に終わったガソルは、数ヵ月の間に2度も栄冠を逃したことになる。そんな矢先、コービーは、ガソルの感情を逆撫でする行動に出た。
「僕が好きな話で、パウはこの話をするたびに嫌がるんだけれど、今日は話すよ。僕たちは、08年のファイナルでセルティックスに負けた。あの時のファイナルはフィジカル色の強いシリーズで、こてんぱんにやられた。その年のオフにはオリンピックに出場して、僕たちアメリカが金メダルを獲得した。それでトレーニングキャンプの初日に、僕はパウのロッカーの前に金メダルをぶら下げておいたんだ」
「彼は、母国を心の底から愛している。彼にとって、母国の存在はすべてなんだ。だから、すごく怒ってね。『どういうつもりだ!』という感じになったから、僕はこう言ったんだ。『パウ、聞いてくれ。君はセルティックスに負けて、オリンピックでは俺たちに負けた。今シーズン負けて3連敗になることだけは避けよう。優勝を勝ち取ろう』とね」
前年のファイナルでの敗因の一つには、ガーネットとマッチアップした際にフィジカルの差で苦戦を強いられたガソルの存在が挙げられていた。
コービーは「(08-09シーズンの)パウは素晴らしかった。彼にとっては、フィジカルの部分でのステップアップが重要だったんだ。チームにとっても必要だったことを彼は実行してくれた。それで2シーズン続けて優勝できたんだ」と語った。
コービーの檄を受けて肉体強化に取り組んだ結果、ガソルは08-09シーズンからフィジカル色の強いプレーでも負けなくなり、同シーズンのプレーオフではポストシーズンでのキャリアハイとなる40.5分というプレータイムを記録。マジックとのファイナルでは、当時リーグNo.1センターと言われたドワイト・ハワードを抑え、キャリア初優勝を成し遂げた。そして09-10シーズンには、セルティックスにリベンジを果たして2連覇を飾った。
コービーの行動は、一歩間違えればデュオの間に大きな亀裂が入っていてもおかしくなかった。ガソルに意図を理解させたコービーもさることながら、怒りをモチベーションに変え、選手として一回り大きくなったガソルもまた、称賛に値する。