ザイオン・ウイリアムソン

長引く欠場に太った身体、ペリカンズは開幕から1勝7敗

ペリカンズは1勝7敗と低調なスタートを切った。通常ならば「ケガで出遅れたザイオン・ウイリアムソンが戻って来れば……」と、まだシーズンは先が長いだけに慌てずに構えるべきだろうが、チームは不穏な雰囲気に包まれている。

果たしてザイオンのケガは本当なのか? サマーリーグが始まるより前、チームの管理下にない自主トレーニング中に彼は右足を骨折した。トレーニングキャンプ始動の時点で開幕には間に合うと発表されたが、開幕から欠場が2週間続いたところで球団は「まだ数週間を要する」と発表した。ヘッドコーチのウィリー・グリーンは2、3週間後に再検査を受け、そこで問題がなければ5対5のトレーニングを行い、復帰に備えると説明している。

その後、ザイオンがトレーニングを行う最新の映像が発表されたが、その身体には余計な肉がたっぷりとついていた。NBAで戦う準備ができていないのは、骨折した足よりも体重だろう。もともとザイオンは、大きな体格と爆発的な運動能力を兼ね備えており、それがモンスター級のパフォーマンスを可能にしていたが、NBAでデビューする前から「膝や足首への負担が大きすぎるので体重を落とすべきだ」と言われていた。

映像を見る限り、ただ単に体重が増えただけで、筋量アップの成果には見えない。2、3週間後の検査で骨折は完治したと診断されたとしても、それから身体を絞り始めるのでは、年内に復帰できるのかどうかも怪しくなる。

「ザイオンはペリカンズでプレーしたがっていない」という仮説がある。今年の春、複数のメディアが「ザイオンの家族は、彼がここでプレーすべきではないと考えている」と報じた。ザイオン自身の意向は分からないが、「オフに向けてチーム強化にもっと全力を尽くせ」とのメッセージにも見えるし、あるいはもっともっと深刻な事態にも受け止められる。

推測の域を出ないが、ペリカンズは3年連続でヘッドコーチの首をすげ替え、ザイオンはアルビン・ジェントリー、スタン・ヴァン・ガンディ、グリーンの下でコンセプトが変わり、一貫性がない。そして、控え目に言ってもペリカンズは勝てるチームではない。ザイオン抜きでは1勝7敗。ザイオンがいても勝率5割に届くかどうか、といったところだろう。今のトレンドでは、スター選手は契約の残り期間にかかわらず自分の思い通りに移籍できる。ザイオンがそれを考えているとしたら、事態はいよいよ深刻だ。

セブンティシクサーズのベン・シモンズは、まさに『自分の思い通りに移籍する』の過程にある。シモンズは球団の契約下にあり、チームの勝利のためにプレーする義務があるのだが、彼は開幕までチームに合流せず、ようやく現れたかと思えば不真面目な態度で練習場から追い出された。ただ、彼も分かってやっていること。シクサーズでの自分の評判を落とすことで、移籍を成立させようとしている。今のザイオンは、シモンズよりはやや控え目であっても、これと同じことをしているのではないだろうか?

一番の問題は、ザイオンがまだNBAキャリア3年目で、ルーキー契約であることだ。ザイオンが最大の収入を得ようと思えば、ドラフト指名されたペリカンズに在籍し続け、4年間のルーキースケールの後に5年間の契約延長をするべきだ。だが、彼はこの金銭的メリットのルールに縛られたくないとも考えられる。

ジョーダンブランドを始め様々な副収入のある彼は、自分と家族が生きていく資産はすでに確保している。カネではなく栄誉、勝ってNBAのレジェンドになるためには、ペリカンズに9年間も縛り付けられるのは嫌だと考えてもおかしくない。事実、アンソニー・デイビスはペリカンズを離れ、レイカーズの一員となって優勝したことで、単なる地元のスター選手からNBAのレジェンドとなった。ヤニス・アデトクンボは小さなフランチャイズであるミルウォーキーにNBA優勝をもたらした。ただ、アデトクンボはドラフト時点ではスーパースターではなく、バックスに育ててもらった恩義がある。高校生の時からレブロンと比較されたザイオンは違うのだ。

「レブロンを超える」という周囲の期待に本当に応えたいのなら、ペリカンズからは一刻も早く逃げださなければならない。エゴのようにも思えるが、勝利を追い求める競技者の本能としては間違ってはいないのかもしれない。

ただ、かつてのデイビスや今のシモンズとは訳が違う。ルーキー契約の選手が自由にチームを変えるようになれば、ドラフトは意味を持たなくなる。スター選手がプレーするチームを選び始め、優勝を狙うチームは『ビッグ3』を当たり前のように擁し、そうでないチームは再建中となった。NBAの戦力均衡策はすでに破綻しかかっているが、ザイオンが移籍すれば決定打となる。

オフシーズンの自主トレでケガをしたのは本当であっても、復帰時期がズルズルと伸びていること、開幕が過ぎた今に太った身体を晒していることが、ザイオンの自堕落や不摂生が原因だとは思えない。彼を絶対的なドラフト1位指名選手にしたのは、他ならぬ彼自身の努力だ。

ペリカンズが平穏を取り戻すには、勝ってザイオンを納得させるしかない。だが、開幕から2週間が経過した今、それが可能とは思えない。ザイオンの行状はチームの士気を落とすものだ。ザイオンと同じ2019年ドラフトで1巡目17位指名だったニキール・アレクサンダー・ウォーカーが、ザイオン不在のチームでブランドン・イングラムに続くオフェンスの2番手として奮闘している。ザイオンが戻って来て相手ディフェンスの注意を引き付けてくれれば、アレクサンダー・ウォーカーはもっと活躍できるだろう。ただ、ザイオンがペリカンズの仲間をどれだけ助けたいと思っているのかは、疑わざるを得ない。